世の中には、「クルマを買ったあとは、まったく手入れをしない」という人が、かなりたくさんいる。愛車のボンネットを自分で開けたことがない、オイルの種類やタイヤのサイズなんて気にしたことがない、なんていう人はザラで、そのせいで不具合が出ても「メーカーやディーラーが悪い」、「不良品をつかまされた」と文句を言う人もいる。
もちろんクルマの技術は日進月歩。燃費がよくなったり居住性が上がったりのほかに、耐久性や整備性も徐々に向上している。
けれど残念ながら今の時点では、クルマは買ったあともオーナー自身のチェックや日々のお手入れが重要になる(教習所で学んだとおり、「整備不良」は原則としてドライバーの責任です)。
本企画では、クルマを日々使ううえでの代表的な整備について、「なぜそれが必要なのか」、「怠るとなにが起こるのか」を、メカニズムや整備に詳しい自動車ジャーナリスト、鈴木伸一氏に解説していただきました。クルマは命を乗せるものです。よい整備でよいカーライフを!
文:鈴木伸一 写真:Adobe Stock
■【オイル編】なぜ手入れが必要なのか?
新車時のエンジンは摺動面(しゅうどうめん/金属同士がこすれ合う面)から削れ落ちた細かな金属カスが発生しやすい。摺動面には「フリクション」と呼ばれる抵抗が生じるからで、距離を重ねるごとに徐々に滑らかになってくる。
これが「慣らし運転」が必要と言われる所以で、エンジンオイルは初回1000㎞走行時、想像以上に汚れるため、初回点検時はオイル交換も同時に行うのが常識だった。
ところが、工作精度が向上した近年のクルマは「慣らし」や「初回1000㎞のオイル交換」は不要と言われている。
しかし、(3年で乗り換えるならまだしも)長く乗るつもりだったら初回点検での交換がベストで、遅くとも6ケ月点検/3000~5000㎞(近年の初回交換の平均的な推奨値)では交換する必要がある。
■手入れしないと何が起こる?
さて、その初回のオイル交換を怠ったとしても1年1万kmは難なく走りきれる。問題は2年目以降。
2年2万kmも走ればエンジンの回りが重くなり、3年3万km無交換だと異音が発生したり雑音が大きくなるなど不具合症状がでてくる。
洗浄能力の許容限度を超えるまで汚れたオイルを使い続けるとエンジン各部にスラッジなどの汚れがビッシリこびり付くからで、油圧制御の可変バルブリフト機構搭載エンジンでは作動不良を引き起こしてスムーズに回らなくなることも。
また、「減ったオイルだけは足している」という人がたまにいる。
が、これも大いに問題あり。
月日が経つと揮発油成分が蒸発して粘度が高まり、エンジンオイルの働きの1つである「洗浄効果」で取り込んだ汚れも蓄積されるため、注ぎ足して乗っているとスラッジが堆積して粘土状に盛り上がってくる。
シリンダーヘッドを開けたら、揮発油分が抜けてコールタール状になったスラッジで、カムシャフトが埋もれていたという事例を実際に目にしている。
知り合いの整備工場では、オイルパンのストレーナー周囲に山のように堆積したスラッジで、オイルが吸い上げられなくなったという事例も。そのような状態では満足な潤滑が行われないため、「回り」が重くなったり異音が発生。最悪のケースではエンジンが焼き付いてしまうので要注意だ。
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