「日産なら当たり前でしょ、これくらいできなきゃどうすんのよ」
前置きが長くなったがN7の試乗といこう(※運転試乗はテストコース内)。ジャパンモビリティショーでもプレスデーに展示されていたが(なぜプレスデーだけなのか理解に苦しむが)、走る姿を見るのは当然ながら初めてだ。
デザイン面でも実はN7は完全にオリジナルデザインだ。フロントウィンドウがルーフ面より少し高く設定されていたり、前面からルーフにかけて「面」としての繋がりを意識している。中国市場で人気が出るデザインにはある程度の方程式がある。
デザイナー氏に話を聞くと、当然ながらそこからは逸脱できないし、オリジナリティを出してナンボのデザイナーの本性との葛藤はあったようだ。
物理ボタンレスの車内に乗り込む。助手席にはA氏が同乗だ。走り始めてステアリングをゆっくり左右に切る。ほぼほぼ違和感はない。地味なことだがステアリングの左右差はかなり大きく感じる車種もあり、担当としてはいつも試すチェック事項のひとつ。このことをA氏に聞いてみた。
「左右差がないって(笑)? 日産なら当たり前です、これくらいできなきゃどうすんのよ」
勝ち誇るような顔ではなく、あくまで職人が手仕事を褒められたような気恥ずかしいような雰囲気。この職人気質な雰囲気、とても好きだ。アクセルを踏み込む。本来テストコースはあれやこれや規制が厳しいのだが、ほぼ自由にどんな走りも許容してくれた。
ベタ踏みをしてみる。テスラや昨今の海外BEVが得意とする臓物が後ろに置いていかれるような加速感はない。かと言って、ガソリン車で言えば2.5Lターボ以上の加速感をしっかりと感じられる。ちょっと重くなったR34スカイラインの25GT TURBO(2.5Lターボをブーストアップして320psほどにした)くらいの軽快感だ。
もちろん制御で抑えるところは抑えており、より自然な発進加速ができるようなチューニングがなされている。コーナリングを試してみる。言葉を選ばずいえばちょっとダルなBMWだ。もちろん悪い意味ではなく、ヒクヒク動くキレッキレのフィーリングではなく、ちょっとメルセデス感もあるスポーティさ。
過去の日産車で言えばV35スカイラインのようなシュアな足回り、そしてビタッと入っていくステアリングフィール。そこにモーターのラグがない加速感。意のままにすべてが動き、まったくそれぞれのハーモニーのピッチがずれない。まさに「グランドツーリング」の理想系。
そして嬉しいのがステアリングセンターがビタッと決まっていること。電動パワーステアリングの絶妙なチューニングがここに極まれり、といったところ。
操縦安定性はどう考えても日産のトップレベル
A氏に勧められてダブルレーンチェンジなどを試してみる。レーンチェンジ後のいわゆるオツリが一番気になるところだが、ここもビタッと抑える訳ではなくやや流れるようなイメージを許す。もちろんテールを流すわけではないが、電子制御でギュンギュンとめるモデルとは違い、あくまでも物理法則に従ったフィーリングが嬉しい。
A氏がポツンという。
「最終コーナーのクリッピングから思いっきり踏んでみてくださいよ。あそこすごく気持ちいいから」
このクルマなら踏める……。タイヤのグリップが背中とお尻を通じて手にとるようにわかる。A氏が思わず笑う。
「あそこバンバン踏んでいけるってさすがです(笑)。でも、クルマもいいよね? クリッピング付近のメカニカルグリップも感じると思います」
まさにその通りで「曲げられている」という雰囲気がない。どこかプリミティブな味付けなのかもしれないが、しっかりと慣性モーメントで曲がっていく。アクセルとブレーキで姿勢を作り、タイヤのグリップを感じながら曲がる。この瞬間に「やっぱ日産だよなぁ」と呟いてしまった。
ふとした瞬間にタイヤの限界値を超えてハラハラ感を覚える昨今のEV界隈だが、あくまでN7は日産車であり、クルマとしての本質をきっちりと反映している。現地サプライヤーのスピード感、そして中国スタッフの勤勉さなど、圧倒的なスピード感のなかでも確実な仕事をする。東風日産全体が協力して完成したモデルなのだ。
ただ一般常識で考えれば年齢的にもA氏の中国でのキャリアには時限がある。しかし愛弟子がすでにいる。それは日本人も、中国スタッフにも同じくだ。日産の魂は海の向こう、中国でもしっかり生きている。
そしてその流れはいつか日本、欧州などにも広まりを見せるはずだ。日産から出向いているエンジニアたちが、厚木の日産テクニカルセンターに戻った時にどんな化学反応が起こるのか。そこが楽しみで仕方がない。
今こそ日産には日本でもN7をアピールする機会があればいいと思う。日本でこそ乗りたい「日産車」なのだが、いつかお目にかかれるだろうか。


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