人気企画『タイマン試乗バトル』。2人の識者が2台の注目モデルにそれぞれ試乗をして、それぞれの評価を戦わせる、という切り口だ。
今回取り上げる2台は、コンパクトカーの”ど真ん中”、トヨタヤリスとホンダフィット。両車ともにハイブリッドモデルを用意した。
発表はホンダ「フィット」のほうが先だったが、発売開始までにいろいろあって、実際に発売が開始されたのは2020年2月に入ってからとなり、結果、ヤリスとほぼ同じタイミングでの発売開始となった。
ヤリスは、これまでのヴィッツからグローバル統一ネーミングに変更した、事実上の「新型ヴィッツ」なのだが、国内での名称をあえて一新したことからもわかるように、トヨタは並々ならぬ思いでヤリスを投入してきた。
一方、ホンダのフィットにかける意気込みもまた、まさに社運を賭ける思いだろう。最量販カテゴリーで、ホンダの商品作りを印象づけるモデルだけに、徹底的に市場を分析して、まったく新しいコンセプトで新型フィットを開発し、送り込んできた。
この2台を評価するのは松田秀士氏と中谷明彦氏。おふたりとも、トップカテゴリーレベルの豊富なモータースポーツ経験をベースに、鋭い視点で車両評価をする達人。お互いが、それぞれのクルマをどのように評価するのか!? こうご期待!!
※本稿は2020年4月のものです
文/ベストカー編集部、松田秀士、中谷明彦
写真/平野学
初出:『ベストカー』 2020年5月26日号
【画像ギャラリー】何がどう違う!? 注目のヤリス&フィットをすみずみまでチェック!!
新開発プラットフォームを引っ提げてコンパクトカー市場に乗り込んできた!!
■先行 TOYOTA ヤリス
●松田秀士のインプレッション
ドライビングポジションが取りやすいと感じるのはテレスコ&チルト、そしてシートとのポジショニングが適切だから。Aピラーとナビディスプレイが若干視界の邪魔をするが、これは慣れの問題。8インチのディスプレイ配置が高いので、視線との移動量が少なく情報は見やすい。
エンジンが始動すると3気筒特有の振動感が伝わってくる。1.5Lだから1気筒500cc。なるほどボリュームのある爆発感。ただし嫌味はなく音質も耳障りでない。逆にスポーティだ。そして踏み込んだ時の加速感は、バッテリーに余裕がある時は明らかにモーターらしい加速。そのあと3000rpmぐらいからエンジンに喝が入った加速で力強い。
逆にバッテリーを使い切ったら、2500rpmぐらいからエンジンが効いてくる。アトキンソンで驚異の燃費を叩き出したと聞くから加速はダメと思っていたためこれは驚きだ。
サスペンションは強めで締まっているタイプだが、40km/hレベルだと、ごく最初の動きにはストレスはなく路面の凹凸吸収も悪くない。60km/hを超えたあたりから入力が強くなる。これは初期のスムーズ領域を飛び越え、一気にロールを抑えてしっかりさせる領域に入るから。
ハンドリングは切り始め初期はスムーズで唐突感もないが、切り足しで明らかによく曲がり込む。それが気持ちよく、操っている感覚満点だ。乗って5分もしないうちに自分の身体の一部のようにボディサイズを感じ取り馴染むので、よりこのハンドリングはスポーティで心地よい。後席の余裕を諦めて前席に集中したことと全長を短くしたことで、このわかりやすい身の丈感が生まれた。
残念なのは、ACC(アダプティブクルーズコントロール)が30km/hと渋滞対応でないこと。LTA(レーントレーシングアシスト)を装備していることは評価できる。
●中谷明彦のインプレッション
ヤリスハイブリッド(HV)には袖ヶ浦のサーキットで試乗したことがあった。動力性能的にもハンドリング的にも極めて好印象を受けていた。今回、一般道で走らせることで実用的な速度域での走行フィールを明らかにしたい。
試乗車は最上級のZグレードゆえ室内の造り込みは好印象。特にブラックのルーフライナーがスポーティなイメージを与えてくれる。メーター配置が左右に離れていて見にくい点、エアコンスイッチなどの表示が小さくて見づらい点は他グレードも同様だ。大型のナビモニターがインパネ中央にそびえていて、それだけは見やすいが、ほかの部分とのアンバランスが気になった。
さて走りだが、トヨタのHVシステムは完成度が高くドライバビリティも優れている。モーターによるEV走行からスタートしエンジンが始動、減速で回生するなど一連の動作が熟成され違和感も扱いにくさもまったく感じない。シフトレバーが物理レバーとなったことでガソリン車から乗り換えても戸惑うこともなくなった。
サイドブレーキもあえてEPB(電動パーキングブレーキ)ではなくレバー方式とし、コストダウンを果たしている。そのため全車速レンジのアダプティブクルーズコントロールが装備できないのは残念だ。
モーターのトルク感は力強く、パワー不足を感じさせない。EVほど急激にトルクを発揮させず、力不足も感じさせない絶妙さが特徴だ。
ハンドリングは、サーキットで感じたダンパーストローク感とシャシー剛性の高さが感じ取れ、走りの質感が高い。ステアリングフィールも直進性の保舵力、コーナーでの切り込み時の手応えなどが一貫していて、クルマとの一体感が得られるなどクルマ好きを魅了する仕上がりといえるものだった。
走りのよさよりも使い勝手や心地よさを前面に押し出してアピール!!
■後攻 HONDA フィット
●松田秀士のインプレッション
窓面積がヤリスに比べて大きく解放感がある。メーターディスプレイが低反射タイプなので日除けのカバーが不必要なため、ダッシュパネルを真っ平にできたことも視界に貢献。
Aピラーを手前に移動させ、フロントガラスを固定する細いサブピラーを配した結果、ワイドな視界で斜め方向もよく見える。ただフラットなダッシュにデコレーションがなく殺風景。軽自動車のようにエアコン送風口前にドリングホルダーを設置したアイデアは嬉しい。
100km/h以下では基本的にモーターによる駆動。アクセルを踏み込んでパワーが欲しい時にはエンジン回転も上昇し、ちょっと耳障り。ロードノイズはよく抑え込まれていて、おまけにサスペンションのストロークが充分にあり、大きめの凸凹もよくストローク吸収する。シートもしっかり感と厚みがあるから乗り心地がいい。この静・快によって気がつくとビックリするような速度になっている。
モーターそのものの加速感に山がなくスムーズなのに、エンジン回転だけがやたらと上昇するため、ヤリスよりも力強くないと感じるのだが、実はスピードレンジが高い。高級車に乗った時に感じることと似ている。
ハンドリングはサスペンションのストローク感を重要視しているため、速度の上昇とともにロール感はある。ストロークに余裕があるからコーナリング中でも路面からの外乱の影響を受けにくい。そのためステアリング修正が少ない。テストコースで180km/hレベルのコーナリングを試したがとても安定していた。
EPB採用でACCは0km/h~の渋滞対応。LKAも装備していてADAS(先進運転支援システム)は万全の装備だ。
リヤドアは大きく、低い荷室。とにかく万人に間口を広げたコンパクトモデルといえる。
●中谷明彦のインプレッション
新型フィットには、新型コロナ問題が拡大する直前に一般道で試乗する機会があった。まずスタイリング。好みの問題もあるので普段は評するのを控えているが、今回のフィットに関して言えば「嫌い」だ。
前方視界を拡げるために三角窓を配しAピラーを細くしているが、それで全体のフォルムが実用車っぽくなりすぎた。クルマ好きの魂に響かないファミリーユース専用車的なイメージを受けてしまうのだ。「タイプRは出ないよ」とスタイリングで念を押されているかのようだ。
運転席もスマホを置いただけのようなメーターや、2スポークのステアリング、女性専用車のようなポップな仕上げのダッシュボードなどF1を闘っているメーカーの息吹が感じられない。
走りはどうか。完成度を高めていた7速DCTを廃し、2.454のリダクションギアを組み合わせた電動モーターが市街地走行では全域をカバー。高速道路では0.805のオーバードライブギアでガソリンエンジンが稼動する。
モータートルクは253Nm(25.8kgm)と圧倒的なのだが走り出しは極めてジェントルかつスムーズ。モーター車特有の強力な出だしや加速感を意図的に抑え、女性や初心者にも優しいアクセルレスポンスに仕上げている。それがまたクルマ好きにはピンとこないと思うのだ。
日産 ノートe-POWERが「アクセルひと踏みで魅了する」と特徴を謳っているのに対し、フィットHVは「踏んでも普通のガソリン車と変わらないドライバビリティ」を意識しているというわけだ。
ハンドリングは安定指向であり、場面によって軽すぎて操舵力の変化も見られるEPS(電動パワーステアリング)がしっくりこない。車体フロアに路面からバイブレーションが伝わるのも改良を望みたいところだ。
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