元日産のチーフエンジニアにして現行型GT-Rの生みの親である水野和敏氏。本誌『ベストカー』にて「水野和敏が斬る!!」という試乗記を連載中だが、本稿はその一部をご紹介&特典動画をお送りします!
これぞワールドクラスの自動車インプレッション。圧巻です。
文:水野和敏
■派手なスタイルと購入層の「読み」
こんにちは、水野和敏です。
最新の、マイナーチェンジした標準仕様の86は前後のバランスが格段に向上し、操縦性や乗り心地がよくなっています。
標準仕様が前後バランスを向上させているのに対し、こちらGRはあえて初期の操舵応答性を上げてわかりやすい操縦性を目指しているのでしょう。フロントタイヤは215/45R17でノーマル86と同じサイズですが、リアは235/45R17と太くし、安定性を上げていることからもその狙いがわかります。
このクラスのスポーティカーであれば、この狙いは充分理解できます。最近のFFスポーツが、まさにそのような操縦性を狙って開発しています。スイフトスポーツなどが典型的な例ですね。
いっぽうシビックタイプRは……、まあとにかくゴテゴテとしたエクステリアで、私のような年齢になるとちょっと引いてしまいます。
トヨタはそういった部分をよくわかっていて、購入ユーザー層は若者だけでなく、青春を取り戻したい50歳以上も想定しているのでしょう。シビックタイプRもそうですが、500万円クラスの価格ともなれば、若いユーザーが長期ローンを組むにはそれなりの決心がいります。しかし50歳以上の人であればお金はあります。この両方の購買層により市場は支えられるのです。
シビックのエクステリアは「その年代の人」にはちょっとどぎつすぎるのではないでしょうか。20~30歳代のクルマ好きには好かれると思いますが、高額なので実際に「買える」人はかぎられてくる。
それに、若い世代でお金に余裕がある多くの人は、欧州の高性能スポーツにいってしまい、シビックタイプRのような、ここまでマニアックなクルマには関心を示しません。瞬間的にはそれなりに販売台数を稼げるでしょうが、お金のある熟年層をターゲットにしなくては、5年間を見据えて継続的に販売台数を維持できるかは疑問が残ります。
■86GRは「ちょうどよさ」を狙っている
86GRは「50歳以上のクルマ好きも、一般道、山道を走って楽しめるハンドリングを追求した」と思います。これから乗ってみればハッキリしますが、間違いないでしょう。これでアウトバーンを200km/h超で長距離巡航するとか、ニュルは開発では使ってもタイムアタックをするということは考えていないはず。「ちょうどいい」スポーツを狙ったクルマ作りです。
トヨタはマーケティングも含めてクルマ作りのポイントをしっかりと押さえています。86GRならば5年間売り続けられるマーケティングができていると思われます。
今の時代、速いクルマ、ハンドリングのいいクルマを作るだけならばどこのメーカーでも作ることはできます。でも、5年間きちんと継続的に販売台数を維持できるマーケティングまで考えてプロデュースしていくとなると、とても難しい。だから日本のメーカーからスポーティカーというのはどんどん消滅していってしまったのです。
シビックタイプRのエンジンルームを見ると、ベースのシビックを作り上げる際に、サスペンション取り付けアッパーまわりから、ダッシュパネルにかけてのボディをガッチリと作り上げてきたことで、タイプRになっても特別な補強材などはありません。
特にサスアッパーからフードリッジレインフォースの厚みのあるメンバー、エアボックス周辺からダッシュパネルを結ぶガッチリしたクロスメンバー、極太のAピラー付け根など、とにかくフロントサスペンションからの入力を受け止めるボディをガッチリと作り上げていることがわかります。
旧型タイプRはこの部分が弱くて、サスペンションからの入力を受け止めきれず、ボディが三次元的に変形してしまい、タイヤの接地力変化が大きかったのです。タイプRありきで企画がスタートした現行型シビックは、基準車のボディも基本的には同じ構造なのでとても余裕があります。基準車はお得です。
(以下、水野氏のさらなる考察がご覧になりたい場合は、『ベストカー 2018年7/10号』(6月10日発売号)をご参照ください)
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