三菱絶頂期の激辛ホットハッチ ミラージュサイボーグ 試乗 【徳大寺有恒のリバイバル試乗記】

三菱絶頂期の激辛ホットハッチ ミラージュサイボーグ 試乗 【徳大寺有恒のリバイバル試乗記】

徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回は三菱ミラージュサイボーグ(3代目)を取り上げます。

ミラージュサイボーグは1987年に登場した1.6L DOHC4バルブターボ搭載のホットハッチ。当時のホットハッチといえば、シビックやカローラFXといったNA(自然吸気)モデルが主流で、そこにターボで殴り込んだのがミラージュサイボーグでした。

軽い車重と太いトルクを利しての、じゃじゃ馬的な加速フィールは、多くのファンを魅了し、兄貴分のギャランとともに「ターボの三菱」のイメージを築き上げました。1987年12月10日号の試乗記を振り返ります。

※本稿は1987年11月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2016年10月10日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です


■ホットハッチの選択は正しかったか

ミラージュはそのスタイルとは裏腹にフランス的なクルマである。だから、このミラージュがシビック的と言おうか、国産車に多いスポーツハッチの姿で登場したのは大いに違和感がある。

もとより、私は3ドアハッチバックなるボディスタイルをあまりよく思っていない。もし、本当にハッチバックの機能を発揮させるなら5ドアにかぎると思っている。

そうでないなら、4ドアセダンのほうがいいことは明白である。つまり、日本に多い3ドアハッチバックというボディ形式はスポーティな姿(むしろイメージといったほうが正確だが)としていながら、最小限のリアシートを備えるというものなのだ。

ホワイトメーターを採用したコックピット。ライトオンでパネル面がダークブルー、文字はグリーンになる
ホワイトメーターを採用したコックピット。ライトオンでパネル面がダークブルー、文字はグリーンになる

むしろ2プラス2ならロングルーフは必要ないし、完全な4シーターなら5ドアのほうがいいと思うのだが……。それでもマーケットでは、5ドアはまったく人気薄で、3ドアハッチバックか4ドアセダンとなる。

だから、このミラージュも4ドアボディが加えられるだろうことは想像に難くないのだが、それにしても、このクルマの出来から言って、もっと大人っぽい、使い勝手のよいボディが“はじめ”に与えられたらと、少し惜しい気がする。

スタイルそのものは、新鮮みがない。低さだけが特徴という曖昧なスタイルである。さらにまずいのは、スタイルが子どもっぽいことである。そのいっぽうで内装は凝っている。サイボーグのインテリアのシート地には歌舞伎カラー(渋いグリーン、グレー、オレンジなどを幾何学的に使う)を使う。このテクスチァ、カラーはもっと上級車に使ってみたいと思うぐらいである。

もうひとつ特徴的といえば、前後に2分割された取り外し可能なグラスルーフがあるが、少々温室的な効果が強すぎる

3代目ミラージュは兄貴分のギャラン同様、メカメカしいデザインが特徴だった。売りのひとつがデュアルモードサスペンション。インパネのスイッチで「スポーツ」と「ツーリング」の2モードを切り替え、気持ちのいい走りをみせた
3代目ミラージュは兄貴分のギャラン同様、メカメカしいデザインが特徴だった。売りのひとつがデュアルモードサスペンション。インパネのスイッチで「スポーツ」と「ツーリング」の2モードを切り替え、気持ちのいい走りをみせた

■少々乱暴なまでの強烈な加速感

サイボーグに搭載されるエンジンはDOHC4ヴァルブターボというものすごいエンジンが搭載されている。ボア×ストロークは82.5×75mmというショートストロークで排気量は1595ccだ。

車重1000kgに最高出力145ps、最大トルク21.0kgmという小型車には異常なパワーが与えられている。ちなみに4WDではなく、2WDだ。21.0kgmという最大トルクは2WDではいかに195/50R14というファットなタイヤでも吸収しきれない。

発売当時145ps/21.0㎏mを発生した4G61、1.6ℓインタークーラーターボは、’89年のMC後に160ps/22.5㎏mにパワーアップした
発売当時145ps/21.0kgmを発生した4G61型、1.6Lインタークーラーターボ。1989年のモデルチェンジ後に160ps/22.5kgmにパワーアップ

少々乱暴なスタートを試みると、スティアリングは左右へ激しく揺れる。むろんスティアリングだけではない。駆動輪たるフロントホイールもサスペンションもすべてパワーに負けている。一言でいうならば乱暴なクルマである。古典的なFFハイパワー車といってよく、その意味で、ルノー5GTターボあたりに少し似ている。

コーナーリングも乱暴でギャップがあれば容易にグリップをなくし、タックインも少なくないからテールは暴れてしまう。発進時もスロットルオンでは、容易にホイールスピンを起こしてしまう。

しかし、このクルマの不思議なところは、妙にこれで安定している。ドライバーをピンチに陥れないのだ。少々腕のあるドライバーにとってこのクルマは、手応えのある“じゃじゃ馬ならし”というわけだ。

スポーティカーというものは必ずしも絶品のリファインを必要としないと思う。VWゴルフGTI16Vをリファインの極みとすれば、さしずめミラージュサイボーグは乱暴の極みだ。

3代目ミラージュには今回紹介の最強サイボーグ、ベースグレードのスイフト、女性目線のファビオ、リアサイドウインドウのないXYVYX(ザイビクス)など多彩なモデルがあった
3代目ミラージュには今回紹介の最強サイボーグ、ベースグレードのスイフト、女性目線のファビオ、リアサイドウインドウのないXYVYX(ザイビクス)など多彩なモデルがあった

それでも私がこのクルマを認めるのは、危険な思いをさせないからだ。

最後になったがこのエンジンは、文句のない出来だ。ショートストロークらしくビュンビュン回り、ターボらしくトルクの立ち上がりは、急激だ。好みは分かれるだろうが、ターボ好きには、これでいいかもしれない。

クルマをねじ伏せる、そんな走りができるミラージュサイボーグは、結構面白いスポーティカーだ。

静かに佇む取材中の徳さん
静かに佇む取材中の徳さん

◎ミラージュサイボーグ 主要諸元
全長:3950mm
全幅:1670mm
全高:1380mm
ホイールベース:2385mm
エンジン:直4DOHCターボ
排気量:1595cc
最高出力:145ps/6000rpm
最大トルク:21.0kgm/2500rpm
10モード燃費:11.6km/L
サスペンション:前ストラット/後3リンク
車重:1000kg
当時の価格:167万円
※グロス表記

◎『ベストカー』
テストデータ
0~400m加速:16.55秒
筑波サーキットラップタイム:1分15秒34
最高速度:206.0km/h

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