■A110はサラブレッドではなく”生活感が漂う”
初代からの伝統に従って、コクピットはレース仕様っぽい機能美を感じさせるデザインだ。
試乗車の”プルミエールエディション”は、軽量なサベルト製スポーツシートが装着され、フルハーネスのシートベルトが似合いそうな雰囲気。
助手席トゥボードのアルミ製ステップも、ラリー車のナビシートを思わせる演出だ。
センターコンソール部の赤いボタンで始動するエンジンは、前述のとおり1.8L直4ターボだ。
日産系のブロックをベースにルノースポールがチューンしたユニットは252ps/320Nmを発揮。トランスミッションはゲトラグ製7速DCTのみが用意される。
試しに各ギアで自動シフトアップするまで全開で踏んでみると、トルクカーブに頭打ち感はなく6700rpmのレッドゾーンまで淀みなく吹き上がる。
ポテンシャル的には車重1トンちょいだから十分以上にパワフルで、たとえサーキットランでもパワー不足を感じることはないはず。
筑波サーキットなら1分5秒くらい楽に出せそうな実力はあると思われる。
ただし、エンジンのキャラクターはポルシェやフェラーリのように「いかにもサラブレッド」というものではなく、基本的には量産車からの流用という生活感がある。
この辺もオリジナルのA110と共通のテイスト。
■250psと侮るなかれ!! ブレーキの快感は最高
やはり、量産車ベースで巧みにスポーツカーを仕立てるのが、アルピーヌのお家芸というわけだ。
その代わりというわけではないが、ハンドリングとブレーキングはいかなる基準を持ってしても「ファンタスティック!」としか言いようがない。
いまどき250psでは絶対的な加速はそれほどめざましいものではないが、その速度エネルギーを殺すブレーキフィールの素晴らしさといったら、ちょっと他に比べるものがない。
軽量だからよく止まるといった単純なものではなく、リア荷重が大きいことによる減速時のバランスの良さ、ソリッドでコントロール性抜群のペダルフィール、絶妙なタッチで介入するABSなど、まさに「ブレーキングそれ自体が喜び」と言いたいほどに気持ちがいい。
これだけブレーキフィールが良ければ、減速からコーナリングへ移行する過渡域もスムーズそのものだ。
ステアリングレスポンスは過度にクイックではなく、いわゆる「切れは切っただけ」素直に反応するタイプだが、ロードインフォーメーションの正確さがピカイチ。
ハードにブレーキングしつつターンインといった厳しい状況でもフロントのグリップ感が手に取るようにわかるし、そこでブレーキ踏力をわずかに増減してフロントタイヤのグリップを探るようなデリケートな操作にすら正確に応えてくれる。
ドライバーの操作に対してこれほど超精密なレスポンスで応えてくれること自体が驚きなのに、それが十分以上にコンフォータブルな乗り心地/居住性と両立しているのがまた驚異的。
ハンドリングにすべてのリソースを投入したロータス・エリーゼのダイレクト感と、高い完成度を誇るボクスター/ケイマンの洗練ぶりが両立している、そんな印象なのだ。
じつを言うと、ぼくは35年ほど前にオリジナルのアルピーヌA110(1300VC)を購入し、15年ほど所有していたことがあるのだが、旧A110オーナーを持ってしてもこの新型は期待以上の仕上がりと断言できる。
単なるノスタルジー趣味ではなく、栄光の時代を築いたオリジナルA110のエッセンスを、きわめて洗練されたカタチで蘇らせてくれたのが本当に素晴らしい。思い出バイアス抜きに、ここ10年で最高のスポーツカーと評価したいと思います。
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