響きわたりすぎるエンジン
インドの平均的な大型トラック用エンジンは、GVWを問わず6~7リッター級で、最高出力は250~270hp級、最大トルクは700~1000Nm級と、日本の基準でいえば中型トラックに匹敵する動力性能である。その理由はひとえに車両価格を抑えるためで、排気対策以外はBS6以前からほとんど変わっていない。つまり先進国の高過給・小排気量ディーゼルとは意図が全く違うものなのだ。
印デコ号は、その中でもパワー控え目のエンジンを搭載していたが、エンジンに火を入れると、そのノイズが盛大に轟きわたる。キャブに遮音材が配置されているようには思えず、しかもサイドドアはガラスなし(そのかわりバーメッシュのスライド仕切りがある)なので、下からも外からも遠慮なしに轟音が入ってくる。
エンジンの轟音に拍車をかけるのがギア比の低さ。レンジ切換式ギアボックスのマニュアル9速のうち、発進で常用するのは3速(1・2速はクローラー段)だが、回すとあっという間に吹けきってしまう。その上の4~6速も同じで、とにかく騒々しい。グリーンゾーン1100rpm付近でようやく落ち着くのが、7速・車速40km/hだった。ちなみに印デコ号の運行速度は、最高でも50km/hらしい。
ブレーキシステムはフルエア式ドラムブレーキで、ABSも装備する。ペダルの踏み心地は硬く、踏み圧で効きをコントロールする。補助ブレーキは排気ブレーキのみである。
高年式の古いシャシー
試乗は高速周回路で行なわれたが、途中にわりと高めのスロープ段差が設けられている。40km/hのまま乗りあげてみたが、この程度なら、シャシーに直接マウントされる木造キャブになんの変化もみられず、(轟音を除けば)平穏に走破してくれた。さすがにしっかり造られているようだ。定積(GVW48トン)かつ舗装路なので、乗り心地が悪くないのは当然といえるが、竹編みシートの座り心地が絶妙だったのは、まさにご当地チューンの真骨頂である。
運転操作については、シフトレバーの動きにはすっかり馴染みがついていたし、シンクロメッシュも備わるので、ギアチェンジは普通に行なえるが、シフト操作は重い。パワステ付きのハンドル(ステアリングホイール)の操舵感も重め、その割にセンター付近の遊びが大きく、わずかな操舵に対する反応もぼんやりした感じである。
これらは慣れれば許容できそうだが、シャシー自体は高年式でも、メカニズム設計が古いのでは?と感じられたのが率直なところだ。実際、インドのトラックは、純正キャブのデザインや排ガス対策がアップデート(当該メーカー資料でも多数の新機軸をアピール)されていても、原設計はかなり古いものを継承している例が少なくないのである。
インドのベンツ(のトラック)
いっぽうのDICVの大型トラックが「バーラトベンツ4828R」である。10×2・16輪のGVW48トン・積載量25トンクラスの最新モデル(今年追加されたばかりの車型)で、ひとことで言えば「簡素ながら良質なトラック」だった。
キャブとシャシーはDICVが開発したもの。キャブは、メルセデス・ベンツが2000~10年代に欧州市場で展開していた大型トラック「アクサー」のプラットフォームがベースだが、市場の要求に対応するため、カタチは同じでも設計は大幅な変更が行なわれている。
キャブの内装は、「アクサー」と比べるとかなり簡素化されているものの、インドの水準では上等なドライビング環境である。例えば、エアコン、ELR3点式ベルトインエアサスシート、チルト・テレスコ機構付ステアリングコラムなどが装着されている。日本では珍しくないが、インドはエアコンレスこそ普通で、ベルトインシートはクラス初装備である。これは、コスト競争力の強い純国産メーカーに対して、新規参入のバーラトベンツがハイグレード仕様車を売りにしていることの端的な例である。
もちろん価格はそのぶんお高いが、この10年でeコマース市場が10倍に急拡大したことで、人口13億8千万のインドでもドライバーが不足、待遇向上に動く物流企業も増えてきたため、ハイグレード仕様車にチャンスが巡りつつあるらしい。しかも、キャブチルトが可能な純正キャブは、整備時または修理時のダウンタイム(休車時間)を大幅に短縮できることが「魅力」として認識されつつあり、DICVによれば、カウルトラックは大型トラック市場の約1割にまで減っているという。