日野自動車が2022年6月に発売した小型BEVトラック「日野デュトロZ EV」は、前輪駆動(FF)式の電動パワートレインと新開発の専用フレームによって超低床フロアとウォークスルー化を実現。そのユニークな車体構造を多賀まりお氏が徹底解説します!!
文/多賀まりお、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
日野デュトロZ EVの開発背景
日本の小型トラックの車体は中大型車と同様のシャシーフレーム構造を採る。
フロントエンジン/後輪駆動のパワートレーンを配したラダーフレームの上に荷台を架装するこの方式は、堅牢性を確保しやすく少量多品種生産にも向くが、荷台下にプロペラシャフトや後軸が通るので大幅な低床化は難しい。
欧州ではモノコック構造の車体に前輪駆動式のパワートレーンを組み合わせて低床化を図った小型バンも普及しているが、モノコックは量産に向くいっぽう、開発には大きなコストと時間、生産設備の投資が必要となる。
このため日野デュトロZ EVはシャシーフレーム構造を選択し、GVW3.5トン級前輪駆動式BEVの専用フレームを開発することで超低床とウォークスルーを実現した。
日野のFF電動小型トラックのルーツ
日野自動車のFF電動小型トラックのコンセプトは2011年の東京モーターショーに参考出品した「EZカーゴ」で初披露され、13年には試作車を製作して宅配事業者への実用供試を行なった。
この車両は2トン積み系デュトロの4輪駆動用シャシーの前軸周りを利用して前輪駆動化し、専用開発した荷台部の低床シャシーと合体させたもの。荷室床下にバッテリーを収め、Iビーム式のリアアクスルを組み合わせていた。
今般発売された量産モデルはこの基本レイアウトを踏襲しながら、フレームを新規開発してウォークスルー機能を盛り込んだ。
フロント周りのサイドレール上面高さを下げてキャブを低い位置に搭載し、キャブはフロアパネルの中央部をフラット化。これによりキャブフロア後端部と荷台床面の段差は約200mmに抑えられ、無理なくキャブと荷台間の行き来ができるフロア形状を実現した。
前軸周りのフレーム組幅は670mmと狭いが、その内側に電動機とギアボックス、差動装置、インバータなどのユニットをコンパクトに搭載。
キャブフロアが低いためモーター/インバータ冷却用のラジエターやエアコンのコンデンサは水平近い角度に寝かして配置され、一部の高電圧機器(コンバーター、普通充電器)と冷却装置はキャブの下部ではなく、リアオーバーハングの床下に置いている。
また、前軸サスはダブルウィッシュボーン形式を維持しながらアーム類を新規で設計。トーションバーをアッパーアーム配置の折り返し式としてフレーム側の支持部が後方に張り出すのを抑えている。