■車体接合に溶接と接着剤を併用することによってもたらされた動的質感の向上
このような、GA-Bプラットフォームによる車体の進化に大きく貢献したのは「接合」だ。接合とは、プレス成型したボディパネル同士を、スポット溶接したり、レーザーによって連続的に溶接する加工のこと。
理想的な接合は、パネル同士が連続体となる状態だが、コストをかけられないBセグメントのヤリス(ヤリスクロス)には、高価な連続溶接の採用は難しかった。
そこでヤリス(ヤリスクロス)では、理想の連続溶接に近づけるため、スポットの打点のピッチを狭め、かつ、より連続的に接合したいバックドアなどの開口部には、構造用接着剤を積極的に用いたという。接着剤を使用することにより、振動減衰を狙ったのだそうだ。これによって、動的な質感がぐっと向上した。
しかし、こうした新しい製造方法には、生産部門の全面的な協力がないと実現しない。技術的には素晴らしくても、安定した生産が難しい構造や工法ではモノにならないのは、筆者も嫌というほど経験してきたので、よく分かる。
■エンジニアに聞く開発秘話「生産技術の革命は社内の信頼獲得から」
ここに至るまでは、トヨタ社内でも逆風の嵐だったそうだ。もともと、開発部隊と生産部隊の間には、高い壁があった。
それが、2015年ごろに行った社内組織改善(カンパニー制)により、開発から製造までが一貫した組織になったことが、功を奏したという。「運動性能をここまで引き上げる」というストーリーと、生産方法の改革も含めた戦略をもって、開発と生産が意見を共有していったそうだ。
どんな仕事でもそうだが、相手を動かすには、優れた技術を押し付けるのではなく、まず信頼を得ることだ。この当たり前のことを愚直に続けたことで、稀に見る「優れた車体」が作れるまでに至った。しかも、今後のクルマにもこの水準の技術を入れ込むことができるという、ボーナス付きだ。
■トヨタの未来のコンパクトカーはどこに行きつくのか?
トヨタの凄さは、下位であるGA-Bプラットフォームから、最上位のレクサスのGA-Lプラットフォームに至るまで、こうした設計的なコミュニケーションが、社内で完璧に図れていることだ。
欧州市場でも戦う、ヤリスクロスのライバルは、フォルクスワーゲンT-CROSSやアウディQ2、ルノーキャプチャーといった欧州コンパクトSUV達だ。
依然として、欧州車の性能の壁は高い。大雨の影響で、試乗会の際には、ロードノイズや車体振動といった音振性能を確かめられなかったが、ヤリスクロスがどこまで食い込めているのか、今後の試乗がとても楽しみだ。
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