新型タイプRはタイプRに期待するスポーツカーファンを満足させられるのだろうか?
そして、ニュルにおける旧型のタイムを大きく上回る7分43秒80を可能にしたテクノロジーは何なのか?
レーシングドライバーであり自動車ジャーナリストでもある松田秀士氏に、ホンダの鷹栖テストコースでキッチリしっかりテストドライブしてもらいました。新型シビックタイプRは450万360円(税別)。その価値、ありやなしや?
文:松田秀士 写真:小宮岩男
ベストカー2017年10月26日号「進化か“らしさ”か スポーツカー大集合」
■シャシーをロー&ワイド化した新型「R」
新型シビックタイプRのベースとなるシビック5ドアは、すでに昨年北米で販売されている。
今回、セダン・ハッチバック・タイプRをひとつのチームで初めて同時開発、プラットフォームも一新している。
これまではスタンダード車ができ上がってから、いわゆるチューニング手法で仕上げてきたわけだが、開発時からタイプRのためのテクノロジーが盛り込めたというわけ。
走りに関係する部分の変更点を挙げよう。
旧型に対して、フロントトレッドがマイナス5mm、リアトレッドが+65mm、ホイールベースが+100mm(2700mm)。
そして車高がマイナス25mmと、ロー&ワイドなシャシーとなった。リアトレッドのワイド化は、サスペンション形式がトーションビーム式からマルチリンク式に改められたためで、前後共にアームやナックル類がアルミ材化されている。
エクステリアはエアロダイナミクスをかなりのレベルで突き詰めた、というだけあって、スーパーGTマシンのように彫りの深い凹凸がボディのあちこちに見られる。フェンダーアウトレット構造は踏襲されているが、今回ボンネット上に冷却用のダクトが開けられている。
■最高出力はわずか10psアップ
このことから4気筒の2L VTECターボエンジンにそうとう鞭を入れたのだろう、と想像したのだが、蓋を開けてみるとパワーアップは先代と比べてわずかに10ps。
最大トルクに至っては、旧型と同じ400Nm(40.8kgm)/2500~4500rpmと変わらない。改善点は、燃焼改良と排気流量を10%アップさせて、中高速域のブーストアップを狙っている。
トランスミッションは6速MTと変わらないが、ファイナルギアをローレシオ化し、軽量シングルマスフライホイールによる高レスポンス化と、ダウンシフト時などに自動的に回転合わせをするレブマッチシステムが導入されている。
■パワフルさと扱いやすさと
では、走り出そう。
専用設計のシートはより進化していて、ホールド性そして腰から背筋にかけての形状も適切。メーターパネルは2段式だったものが1つにまとめられたが、個人的にはタコメーターが主張する以前のほうが好き。
アクセルを踏み込むと力強い加速。シフトのフィーリングも、クラッチのストローク&重さと調和がとれていて、スッキリ決まる。パワーの体感印象は、中高回転域でこれまでよりも伸びが感じられる。
それと、センターテールパイプを追加した3本のエクゾーストシステムによって、特に高回転域での抜けるような排気音が、より加速感を演出している。
とはいえ、パワー&音質ともにメルセデスベンツA45AMGほどの暴力性があるわけではないが、スバルWRX STIやメガーヌR.S.よりもパワフルで扱いやすい。
しかし、6代目タイプRの進化の真骨頂は、そのコーナリング性能だ。
ボディは明らかにかに大きくなっているが、16kgの軽量化と、旧型から引き継がれた接着接合技術の進化によって、ねじり剛性が38%も向上している。
リアサスのマルチリンク化とねじり剛性アップは、235R35/19のタイヤサイズから245R40/20へと拡大されたことに対する入力に対応するためだ。
鷹栖のコーナーのなかには、下りながら4速140km/hでアプローチするような、しかも路面が荒れている箇所がいくつもある。
このようなコーナーへの進入でもマルチリンク化されたリアの安定感が高く、かといってFF特有のアンダーステアが強いわけでもない。
リアはしっかりさせ、フロントからくるステアリングのキレ感は、デュアルピニオン電動パワーステアリングと個別の車輪にブレーキをかけるアジャイルハンドリングアシストがカバーしている。
フロントサスペンションは旧型と同じデュアルアクシスストラット式だが、センターオフセット量をさらに低減していて、2速ギアでフルパワーをかけてのコーナー立ち上がりでも、トルクステアをあまり感じさせない。
コメント
コメントの使い方