マツダ3「SKYACTIV-X」試乗で見えた課題と勝算 新世代エンジンの実力はいかに

 2019年12月5日についに発売された、新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」を搭載したマツダ「マツダ3」。発売前からその注目度は非常に高かった。

 今回は、自動車評論家の松田秀士氏に、欧州と日本でSKYACTIV-Xに試乗した経験をもとに、登場直後のその現在地を考察してもらった。

 フォーカスを当てるのはマツダ3のシャシーではなく、新たに登場したSKYACTIV-Xというエンジン。マツダの次世代を担うエンジンであるSKYACTIV-Xは 、ほかの2つのエンジンと比べてどの程度の実力値なのだろうか?

文/松田秀士
写真/編集部

【画像ギャラリー】次世代のマツダの中心となれるか!? SKYACTIV-Xを搭載したマツダ3をチェック!


■日本の自動車開発には内燃機関は欠かせない

 乗り心地と操縦性。柔らかいサスペンションにすれば乗り心地はよくなるがハンドリングは悪化する。その逆もしかり。つまり乗り心地と操縦性は背反するテーマだ。

 それと同じように加速性能と燃費性能も背反する。こちらはエネルギー保存の法則(ある形態からほかの形態へ変換する前後で、エネルギーの総量は常に一定不変である)という物理には逆らえないからありえない。

 加速をよくすりゃガソリン食うにきまってる! そのとおり。だからスポーツ系のエンジンは燃費悪いです。だけどエンジンにはまだまだ開発の余地がある。と研究開発を続けているのがマツダだ。

 さまざまな自動車メーカーが、電動化など異なる原動機に方向転換している。すでに内燃機関の時代は終わりつつある! などと経済誌のにわか自動車ライターがイノベーションを誇張する時代。しかも、経済界も時代の潮流を後押し。

 考えようぜみんな。自動運転しかり。自動運転になったら非自動運転車とのいわゆる小規模事故は現在よりも増える、と保険会社は見ているくらいなんだから。保険料が下がるはずがないんだ、自動運転になったからって。

 ま、そんなことはさておいてマツダの「SKYACTIV-X」だ。ボク自身ドイツで試乗し、そして現在1週間の予定で広報車をお借りして試乗している。そのような環境のなかで、このエンジンが現在どの位置にあるのかをレポートしてくれ、というのが今回のお題。

■SKYACTIV-X、その注目すべきポイント

長い開発期間を経て、ついに世に送り出された新世代エンジン「SKYACTIV-X」を搭載

 マツダというメーカーは、内燃機関の燃焼効率について真剣に研究している自動車メーカーだ。これまでにも、ディーゼルエンジンの低圧縮化にトライし製品化してきた。ディーゼルエンジンを低圧縮比にする? 正気か? と最初は思った。

 ディーゼルエンジンは、軽油との混合気を圧縮してプラグ点火を使わず圧縮着火で燃焼する。圧縮着火の着火時期をコントロールするために、シリンダー内に直噴している。

 気体は圧縮比を高めるほどに高い熱を持つから、低圧縮化は燃えにくくなる。しかも爆発力が弱くなりトルクが出ない。と考えがちだが、実は高圧縮比化は燃料が十分に空気と混ざり合う前に燃やすことになり、有害排ガスが多くなる。そのため着火は十分に混ざり合ったあとの、ピストンが圧縮後下がり始める時期に始まるようにコントロールされている。

 つまり仕事量が少ない。ピストンの上死点で燃料と空気をしっかり混ぜちゃんと燃やす、という理想には低圧縮比化が必要とマツダは判断し、実用化に踏み切ったのが現在のSKYACTIV-D。そしてガソリンエンジンは逆に、高圧縮比化を成功させ SKYACTIV-G を製品化している。

■マツダの諦めないモノづくり精神が生み出した新エンジン

 さて、今回のSKYACTIV-Xだ。すでにご存じの方も多いと思うが、SKYACTIV-Xはガソリンでディーゼルエンジンのように圧縮着火を行おうというもの。これによってディーゼルエンジンのトルクの太い加速と、ガソリンエンジンの高回転まで伸びるフィーリングの両方を実現するのが目的。さらに混合気を極端に薄くしてしっかり燃焼させることで燃費をよくしてクリーン排ガスにすることができる。というあれもこれも技術なのだ。

SKYACTIV-Xは、通常のガソリンエンジンのような火花点火(SI)ではなく、ディーゼルエンジンのように圧縮着火(CI)する。「M Hybrid」と呼ばれる24Vのマイルドハイブリッドシステムが組み合わされる

 ではなぜ圧縮着火にこだわるのか? それは薄い混合気を燃やそうとすると、これまでのプラグ点火方式ではまず燃えない。さらにデトネーション(異常燃焼)によってエンジン内部が壊れてしまう危険性がある。そこで圧縮比を上げ高温高圧の状態にして圧縮着火させる必要があるのだ。

 この圧縮着火、軽油だと技術が確立されているがガソリンだと大変に難しく、ほかのどこのメーカーも諦めてしまったという経緯がある。しかしマツダは諦めなかった。だいたいロータリーエンジンを市販したくらいだからなんとなくわからんでもないが、根底にあるのは広島モノづくりの精神だ。日本の国からモノづくりが消えてしまったら大変なことになる。

 みなさんわかってほしい、この国から自動車産業、しかも日本国内で生産する自動車が消えてしまったら大ごと。そのためにも、どこのメーカーもやりたがらないガソリンの圧縮着火にトライするマツダの心意気を。

 で、マツダは特殊な技術で圧縮着火をコントロールすることに成功している。それがSPCCI(火花点火制御圧縮着火)。圧縮過程でプラグによって火種を作り、その火種が膨張することで本格的な圧縮着火に誘導するという技術。これ実は何もせず素の状態で圧縮着火させるよりも、より混合気を薄くできる可能性がある、という将来性満点の技術なのだ。

 いや説明だけで相当の文字量になってしまったが、まだ読み続けてくれているだろうか?

■日欧のSKYACTIV-Xを体感して導き出された現在地

 では実際の乗ったそのフィーリングだ。アクセルを踏み込んだその瞬間から感じるのが、気筒内の爆発感だ。ガソリンエンジンらしいきめ細かな燃焼爆発を感じる。小刻みに気持ちがいい。

 180ps/6000rpm、224Nm(22.8kgm)/3000rpmと爆発的なパワーではない。注目は最高出力発生回転数が6000rpmと高いこと。トップエンドはほぼ7000rpm。で、その気になってアクセルを踏み込むと気持ちよく、しかもスポーティなエクゾーストノートを室内で耳にしながら、このトップエンド付近までストレスがない。

 ボクは先にドイツでも試乗しているが、欧州仕様とはエンジンの圧縮比に差がある。欧州は16.3:1なのに対して、日本仕様は15.0:1なのだ。これは欧州と日本とのガソリンオクタン価の違いによるもの。日本はハイオク推奨だがレギュラーにも対応している。

 日欧でのパワー差はほとんど感じないレベル。センターディスプレーに、SPCCI状態であるか否かを確認できるページがあるのであらかじめ写しておく。このページを眺めながら走らせていると、ほとんどの状態でSPCCIであることに驚いてしまう。

日本向けも当初はレギュラー仕様でアナウンスされていたが、途中でガソリンオクタン価の違いによりハイオク仕様に変更された
SPCCI作動中かどうかは、インパネ中央のモニターに表示される「燃焼状態」で確認できる

 試乗車はATだが、どのような走行状態でも少しエンジン回転数は高めに感じる。ただし耳障りなノイズはなく、7000rpm近くになっても振動感も少ない。市街地走行では3000~4500rpm域を多用して、エコ運転ではなく、どちらかといえば走り系の走行で13.0km/Lの燃費を記録。正直この数値には驚いた。

 同じ走り方をガソリン2.0Lエンジンでしたら、おそらく10㎞/Lを切ってしまうだろう。またディーゼルやガソリンでは、もっと低回転域を使うようトランスミッションのマネージメントが介入するはず。SKYACTIV-Xでは中高回転域を使いながら燃費がいいのだ。

 また高速道路では14.0km/Lと、意外にも市街地と大きな差はない。信号待ちからの発進加速もいい。Mハイブリッドのモーターアシストによるもの、と思いがちだが、実はそれほどアシストしていない。主にはアイドリングストップからの再始動や、減速時のブレーキ協調による回生ブレーキによって電気を貯める。しっかり電気を貯めれば加速時に発電する必要がないので加速がよくなる。つまり、発進加速のよさはSKYACTIV-Xのパワーだったのだ。

 余談だが、ブレーキ協調をさせている割にはブレーキフィールが普通だ。この点は素晴らしい。広報車をお借りして2日目を迎えたが、どのような使用状況でもSPCCIはほぼ点灯したまま。つまり圧縮着火を行っているのだ。

 SKYACTIV-X搭載車の車両価格はディーゼルモデルにプラス40万円前後、ガソリンモデルにプラス70万円前後。そこで燃費は10~20%の向上。コストパフォーマンスだけを見れば一目瞭然だが、スムーズで高回転域を使える加速感など、このエンジンだから味わえる何かがあることは事実。ハイブリッドができてきた時のように、ある種のステイタスを味わえるモデルであることは間違いない。

省燃費性能と価格を勘案すると、SKYACTIV-X搭載車にある種のステータスを感じられる人には魅力的と言えるだろう

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