■自動車ユーザーのために必要な税制改正と、新たな時代への展望
一方、2020年に向けては、「日本のモノづくりを守っていくために、税制にはさらに力を入れていきたい」と、自動車ユーザーの負担軽減に向けた取り組みを強化する考えを示した。2019年10月からの税制改正で、自動車税が軽減されるなどの措置が講じられたものの、「(ユーザーの負担は)まだ米国の30倍のレベルだ」と指摘した。
今後はCASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)の進展により、「CASEが進んでいけば所有だけでなく、利用活用とクルマの存在の幅は広がります。税制も抜本的な見直しを考えていかないといけません。2020年はそういう年にしたい」との考えを語った。
■「自動車は危険を伴うものである」ということを認識してもらいたい
質疑応答で、2019年12月19日に閣議決定された、65歳以上の運転者が安全運転サポート車の購入における補助(最高10万円)、ペダルの踏み間違いによる急発進を防ぐ装置の後付け装置導入補助(最高4万円)についての見解を問うものがあった。
これに対して豊田会長は、「交通事故は総数では減っています。総数では減っているんですけど、高齢者の事故というのは横ばい状態ですので、割合的に高齢者の事故が頻繁に起こっているがごとく見られますが、実際にはこれが事実でございます」とグラフで説明。
「75歳以上の免許保有者も非常に増えていますので、今後ますます横ばいかもしくは、高齢者の方々が運転をして移動をされる、そして生活のライフラインとして使われることはなくならないと思います。そうしたなかで、今回の補助とか中古車を含めた補助は大変ありがたいわけです。ただ、新車のなかでどのくらい付いているかというと、まだまだです。新車のなかでは8割くらい装着しているのですが、保有を含めた全体では25%を割るくらいです。ですから、街のなかは保有台数を含めて考え行く必要があることを知っておいていただきたいと思います」と返答した。
こうしたデータを踏まえつつ、「仮にこういう衝突被害軽減ブレーキを付ければ万能であるというミスリーディング(報道)は、ぜひやめていただきたいと思います。ハンドルを握り、アクセル・ブレーキに責任を持つドライバー、道を共有する歩行者、信号なりいろいろな形でルールを決めているインフラ、すべてが当事者となって安全対策をすることだということを、ぜひみなさん方も啓蒙いただきたい」と、報道陣に呼びかけた。
また「そもそもアクセルとブレーキが同じような操作になっているのが踏み間違いの原因では?」「どうにかできたりしないのか?」と質問もあり、
「私は、事故は起きるものだ、クルマは危険なものだ、ということをまずすべての方々がご認識いただきたい。1トンを超えるものが、ある程度のスピード、40km/h以上で走っていることがもう危険なのです。そして、クルマに歩行者が当たったら、これは大事故につながります」
「クルマは最近静かになり、快適にはなっておりますが、ハンドルを握り、アクセルを踏み、ブレーキに責任を持つ方は、やはり危険なことをしているのだという認識を、ぜひ持っていただきたいと思います」と、クルマは安全な物であるという考えを改める必要があると強く答えた。
最後に、現在クルマの進化の方向性として自動運転の積極的な導入が考えられるが、「自動運転車には、こういうルールが必要なんだなと、しっかり現実を見ていくことが必要なのではないか。ただ、高齢者でも自分の好きなクルマに乗れることがいいだ、自動運転になれば交通事故がゼロになるんだ、環境にいいんだといった、ミスリーディングはやめていただきたい。自動運転になっても、交通安全はみんなで守っていくものです」と、自動運転はあくまでもひとつの手段で、自動運転ですべての人が移動できるということが大きな目的だと考えを語った。
自動車業界全体での話となるため、経済面での質問が多くなる傾向のある定例会見だが、今回の会見では自工会として危機感を持っていた東京モーターショーの成功と、クルマの安全にかかわる問題を中心に話が進んだ。
担当として会見を聞いていて特に注目したのは、自工会のトップであり、トヨタという国内最大の自動車メーカーの社長も務める豊田会長が、クルマは安全な物ではなく、事故が起きるものだし、危険なものだということを認識してほしいと語った点だ。
メーカーも安全を追求し開発を進めているが、使うのは人間だ。あえてこの場で語ったのは、近年「自動ブレーキがあれば安全」といった世の中の誤った認識への豊田会長の危機感があったのだろう。交通事故ゼロを目指すためには、そのことを一般ユーザーとメディアにしっかり伝えることは非常と重要であるといえる。
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