【現役トラックドライバーが斬る!】過積載はなぜなくならない!? 重大事故から学ぶべき対応策

■トレーラーで過積載が多いからくり ― 特車申請

 トレーラーの過積載を取り締まる法律は複雑で、

[1]『道路交通法』
[2]『道路法』の車両制限令
[3]『道路運送車両法』の保安基準

の3法がある。

 [3]は最大積載量や車体の強度などを定める。[1]は、[3]を違反していないかどうか。[2]は道路の通行に関するものであり、前出の指定道路制限値(全長12m、総重量25tなど)を超える大型トレーラーのほとんどについて特殊車両通行許可申請(特車申請)が必要になる。

 つまり、ステッカーの最大積載量を守っていても、適法とは限らない。道路を走行する際には許可証を携行し、通るルートも決められる。道路の損傷を防ぐために「軸重10トン以下(エアサスセミトレーラーの駆動軸は11.5t以下)」という大原則がある。トレーラーの過積載には、特車申請を行っていない場合と、最大積載量を守っていない場合の2種類がある。

■過去の事故に学べ ― 大菅踏切事故

 千葉県では、1992年(平成4年)にもダンプによる踏切事故が発生している。最大積載量(8750㎏)の約4倍の土砂を積んだダンプが急な下り坂で止まりきれず、遮断機の下りた踏切に進入。下り普通電車がダンプに衝突し、運転士が死亡、多数の乗客が負傷した。

普通電車が65km/hで惰行運転中、突然進行方向右側から大型ダンプカーが遮断棒を突破して踏切内に進入。直ちに非常停止手配を取ったが及ばず衝突した(写真提供:東日本旅客鉄道労働組合)
普通電車が65km/hで惰行運転中、突然進行方向右側から大型ダンプカーが遮断棒を突破して踏切内に進入。直ちに非常停止手配を取ったが及ばず衝突した(写真提供:東日本旅客鉄道労働組合)
普通電車と衝突して大破した大型ダンプトラック。衝突でつぶれた運転室に挟まれ、運転士が死亡した(写真提供:東日本旅客鉄道労働組合)
普通電車と衝突して大破した大型ダンプトラック。衝突でつぶれた運転室に挟まれ、運転士が死亡した(写真提供:東日本旅客鉄道労働組合)

 運転士は直前に衝突を覚悟し、パンタグラフ降下による電源遮断などの安全措置をとっていたという。この事故を契機に、電車の前面の構造的強化(いわゆる鉄仮面化)、道交法の改正(過積載の取り締まり強化・1993年)、踏切の閉鎖・立体化(1997年6月竣工)などの対策が取られた。

 事故があった現場に行ってみた。旧下総町(現成田市)の県道103号江戸崎下総線とJR成田線が交わる地点に旧大菅(おおすげ)踏切があった。利根川から直線距離で約1kmと近く平地を連想するが、下総台地の北辺と坂東平野の境界にあり、急勾配である。

旧大菅踏切跡。事故後に立体化、踏切は閉鎖された。写真の背後から踏切に向かって10.5%という急勾配の下り坂になっている
事故現場に建立された慰霊碑は28年の歳月とともに色褪せていた
事故現場に建立された慰霊碑は28年の歳月とともに色褪せていた

 新設された跨線橋の部分でも5.9%の危険な急坂で、旧道の踏切に向かう部分で計測すると約10.5%(6度)という、通常の道路ではあまりない急勾配であった。総重量50トンのダンプで行けばブレーキを底まで踏んでも止まらないことは容易に想像できる。現場には事故慰霊碑が設けられてが、30年近い時間とともに色褪せていた。

■横行する過積載、防ぐ有効な対策はあるのか?

 では横行する過積載への対策はないのだろうか。ひとつ考えられることは取り締まりの強化である。現在のような大掛かりな取り締まり方法であれば、すぐに知れ渡り回避されてしまう。

 その点をクリアするのが、陸橋の上などから積荷を確認して、パトカーで追跡、可搬式の重量計・マットスケールで1輪ずつの荷重(輪重)を計測、合計して総重量を割り出す方法だ。乗用車のスピード違反を捕まえるよりずっと手間がかかるが、重大事故の防止には有効だ。

総重量を計る装置、マットスケール
総重量を計る装置、マットスケール
マットスケールに載せられ計測を受けるトレーラー
マットスケールに載せられ計測を受けるトレーラー

 第二には、軸重計の普及である。ヨーロッパのトラックにはエアーサスペンション(エアサス)の気圧をもとに重量を計る軸重計が付いており、過積載をしているかどうかをドライバーがリアルタイムで見ることができる。この便利な機能を国産トラックにも普及させれば、過積載は減るだろう。ただし、ダンプはリーフサスで空気圧は測れないが、すでに自重計が義務化されている。

 第三に、首都高などでの速度の抑制である。過積載の弊害として、事故の誘発のほかに道路の損傷がある。道路の損傷は重量と速度の相乗効果である。法定内積載のトラックであっても、スピードを上げれば道路は傷む。

 交通量が多く老朽化が問題となっている首都高速3号渋谷線や、もしトンネル事故が起きれば大惨事につながる中央環状線・山手トンネルでも大型トラックが東名高速などと同様に、リミッター限界の90km/hで飛ばしている現実がある。トラック輸送業界をあげて70km/hに自粛することを、私はことあるごとに業界紙などに書いているが、状況は一向に変わらない。

 現在の事故対策というのは、結果主義である。重大事故が起きても、人身事故でなければ、物損の賠償以外はほとんどお咎めなしである。一歩間違えれば多数の死傷者がでるというような場合でもだ。だから、そのきわどかった事故に対しては対策が取られない。人身事故に遭った被害者は「運が悪かった」と泣き寝入りするしかない。

 冒頭の千葉市の事故にしても、交差点が「逆バンク」という非常に危険な構造になっており、重心の高いトラックでは低速でも横転の恐れがあった。だが、千葉県警がとった対策は、当該道路を「大型貨物車等通行禁止」にしただけという、場当たり的なものであった。本来なら、全国をあげて危険な道路を洗い出し、過積載車両の取り締まりを強化すべきだった。

 人身事故が起きた時だけ、運転者や雇用主、荷主を悪者とし、被害者を「運が悪かった」とするのではなく、普段から重大事故につながるような危険な要因を見極める眼を持ち、取り除く努力をしなければならない。

【画像ギャラリー】過積載の罰則と、それに起因した重大事故を知ろう

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