レクサスの走りを極めたモデルに与えられる称号と言えば『F』だ。国際サーキットの富士スピードウェイの頭文字がその由来ともいわれている。
現行モデルでは、2ドアクーペのRC Fと4ドアセダンのGS Fの2車種をラインナップしている。RC Fが2014年10月、GS Fが2015年11月デビューとなっている。
2019年の販売台数はRC Fが256台、GS Fが131台で、モデルが新しくないこと、高額であることを考えれば、充分健闘していると言えなくもないが、BMWのM4、M5コンペティションをはじめとするドイツ御三家のライバルに対して存在感が薄いのは否めない。
本企画ではレクサスのFモデルが苦戦している要因とその打開策について、松田秀士氏が考察する。
文:松田秀士/写真:LEXUS、BMW、奥隅圭之、ベストカーWeb編集部
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レクサスのFはドイツ御三家に真っ向勝負を挑んだ意欲作

レクサスの現行 F モデルである RC FとGS F 。この2台は ドイツご三家で言うところの BMWのM モデル、メルセデスのAMG モデル、アウディのRS シリーズに真っ向から勝負を挑んだモデルだ。
こいつらに対抗できるだけのポテンシャルは持っていると言われているけれども、クルマ好きをいまいち魅了できないのは何が足りないのか? そこんところを考察してほしい! というのが今回のお題。
実はレクサスには F フィロソフィーというものがあることを知っているだろうか?
これは「日常からサーキットまで、シームレスに走りを楽しめること」というもの。
つまり日常の市街地走行では誰もがコンフォートに気持ちよく走ることができ、高速道路では高いポテンシャルに裏付けられた安定・安心感をえられ、ワインディングでは気持ちよく走りを楽しめ、サーキットでは官能的なドライブする実感を味わえる、というのがこの F フィロソフィーの僕なりの解釈。

もうないものねだり? なんか 日産GT-R も発表当初は同じようなこと言ってたような気がする。誰でも運転できるスーパーカーってね。2ペダルなんだから動かすのは免許さえあれば誰でも運転できるね。
それから比べたらトヨタ86は、「ゴルフで100を切れる人なら誰でもドリフトが楽しめるクルマ」と言っていたなあ!
こっちのほうがゴルフで100を切れる人と限定しているだけに、実際はどうかは別にして真実味がある!?

IS Fが消滅したのが惜しい
まあそんなことはさておいて、現在ラインナップされている F シリーズは、RC Fと GS Fの2台だが、この前に IS F というモデルがあったことを今一度記しておきたい。
このIS Fがカタログから消えたことを僕はとても残念に思っている。

というのも BMWはM3 が 4ドア(新型は未導入)、M4が 2ドアと差別化してM シリーズを残しているからだ。
実は僕、この IS F を駆りニュルブルクリンク24時間レースを走ったことがある。2010年のことだった。最終的にクラス4位で完走したのだが、出場したクラスの台数が多かったこともあり4位までが表彰台となりトロフィーを与えられたのだ。
このレースで IS F はノントラブルでニュルブルクリンク24時間を走りきった。8速のATはレギュレーションで7速までしか使えなかったので8速を封印。
トランスミッションはオイルクーラーを付加した以外ノーマルの状態で何のトラブルも起きずパドルシフトも快適だった。ストレートエンドの速度も非常に速く、IS F は本当にポテンシャルを持ったツーリングカーだったのだ。

Fモデルの苦戦が既存モデルにも影響!?
しかしこのようなことが一般ユーザーに伝わっているのだろうか? レクサスにとってスポーツは何か? ということが今ひとつ浸透していないような気がする。
ひとつには御三家に比べてモータースポーツに関わる歴史が浅いことが挙げられると思う。
BMW はその昔シュニッツァーなどとともにグループAなどツーリングカーのレースに積極的に参戦していた。

あの時代はそのレースに出ることによって性能を磨き一般車両にフィードバックされる技術もたくさんあったので、メーカーとしてもレースに参加する意味があった。
ニュルブルクリンク24時間レースのようなほぼ一般車両で走行するレースならもちろんそこからフィードバックできる技術的なものがあるだろう。
しかしそれ以外のカテゴリーでは、レースを走るクルマそのものが一般車両とはかけ離れていて、そこから吸収できるノウハウはそれほど多くはない。
それでもレースを行うことによるパブリシティ効果は大きなものがある。レクサスも日本のスーパー GTを長く戦ってきたが、ここに来てレーシングモデルをトヨタのスポーツブランドであるGRに置き換えたのだ。

今はヤリスやスープラといったトヨタのスポーツモデルを前面に出すべきとの判断だろう。こうなってくるとレクサスFモデルの方向性、つまり立ち位置を考え直す必要がある。
レクサスにはFモデルの流れを汲むFスポーツというモデルが存在する。
この方式はBMWのMスポーツ、メルセデスのAMGオプション、アウディのSモデルと同じように、メインとなるFシリーズのエクステリアやインテリアにフォーカスしたモデルで、真のスポーツモデルではない。
その流れは今やSUVのNXやRXにも及び、フルラインFスポーツとなっている。当然Fシリーズの苦戦がFスポーツを設定している既存のモデルにも影響することが予想されるのだ。


プレミアムスポーツとしてパワーアップと4WD化は必須
レースからも距離を置いたFシリーズがドイツ御三家と対等に戦うにはどうすればいいのだろうか?
やはりさらなるポテンシャルアップにほかならないと思う。

まずは現在のヤマハの技術が採用されている5.0L、 V8 自然吸気エンジンのさらなるパワーアップだが、ハッキリ言ってこのエンジンは捨てがたいほどにレスポンスが速く、さらにサウンドがいい。
サウンドはスピーカーを使ったアクティブ・サウンド・コントロールなのだがこの音質は維持したい。
そして現行V8をツインターボ化して600psオーバーを達成する。さらにこれだけのパワーは現在のFRでは耐えられないので4WD化を行うのだ。
4WDシステムはRAV4で採用されたダイナミックトルクベクタリングAWDを応用して、アクティブなトルクベクタリングを行い異次元のコーナリングを達成する。
トルクベクタリングではこれまでにもGS Fに標準装備されていた電子制御のTVDがあるが(RC Fはオプション)、さらに軽量でシンプルなダイナミックトルクベクタリングAWDをパワーに対応するチューンを施して装備。


究極のFであるLFAの軽量化技術を投入すべき

Fシリーズも4WDで次世代スポーツとしての高みを目指すのだ。重要なのは4WD化を行っても軽量であることが重要となる。
そのためにLFAで培ったカーボンの技術を駆使する。元町工場にあるLFA工房を見学したことがあるが、当時最先端の加工技術でCFRPパーツの制作を行っていた。
LCではボディにこのCFRPとアルミニウムを多用して高剛性と軽量を達成しているが、さらにボディへのアルミ化を計るなどして軽量なFシリーズにする。
BMW M3&M4ではプロペラシャフトをCFRP製にすることでシャフト剛性が上がるのでジョイントがなくなりより軽量化が可能になっている。

またリアサスをボディ直付けにするなどレーシングカーと同じような作り込みを行っている。
レクサスのスーパーGTマシンもCFRPのプロペラシャフトを採用していたのだから、装備することができればセールスポイントにもなるだろう。
レクサスはトヨタの高級ブランドとして立ち上げられていたが、当初はトヨタと同じサプライヤーを使うなどの縛りがあったと聞く。
今でこそ、その縛りはかなり緩くなっているようだが、もっと開発者が自由に世界から高性能なパーツやシステムに目を向けるべきではないだろうか。
それによってクルマが高額化しても、マニアを満足させる高い性能を持つFシリーズというストーリーを立て直す必要があると考えるのだ。

