マツダはどこへ向かうのか「我々はシェア2%でいい」マツダ副社長ロングインタビュー

 今年、創業100周年を迎えたマツダ。並々ならぬこだわりを持ってクルマを作り上げるその姿勢は、多くのクルマ好きたちから共感を得ている。

 そんなマツダの100年の軌跡、現在、そして未来を探るため、広島本社にて藤原清志副社長にロングインタビューを敢行。

 聞き手はマツダ車を乗り継ぐ自動車評論家の鈴木直也氏。現状のマツダに不安と不満を抱いている様子の鈴木氏。あふれる思いを存分にぶつけた90分!

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※藤原清志氏…マツダ(株)代表取締役副社長。2代目デミオの開発責任者などを経て現職。海外勤務の経験も豊富で、知識の広さ、深さには驚かされる
※本稿は2020年3月のものです
聞き手:鈴木直也、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年3月26日号


■直6エンジン、FRプラットフォームの狙いは?

鈴木直也(以下鈴木) まず聞きたいのが、前回の決算報告で少し遅らせると発表した直6エンジン、FRプラットフォームのことですが、マツダの販売規模でペイできるのか? という心配があります。

藤原清志副社長(以下藤原) 同じ6気筒でもV型にするのはコストがかかりますが、直列のままならそんなにかかりません。V6は必ずショートストロークになるので4気筒と違う燃焼になりますけど、同じ燃焼なら2気筒足すのはラクです。

2022年登場の新型マツダ6に搭載される直6エンジン&新FRプラットフォーム。マツダの新しい挑戦である(画像はベストカー予想CG)

鈴木 マツダの一括企画の流れで見ると、そんなに困難ではないと。

藤原 大排気量はV型ではなく直列の6気筒でいくと2008年から決めていましたから。なぜ直6かというとエミッション規制がどんどん厳しくなる。そうすると排ガスを減らすための補機類がV型だと2列分いるけど、直列ならひとつでいい。

また電動化への対応もしやすいし、あとは衝突ですね。オフセット衝突がどんどん厳しくなるなかで、6気筒を真っ直ぐに置けるとフレームも真っ直ぐに通せて有利なんです。

鈴木 ベンツが直6エンジンをやめた時、衝突安全性が直6は不利だからと言ってましたが、ひっくり返りましたね。

藤原 オフセット衝突が厳しくなったことがどんどん状況を変えています。実は、クルマの歴史を全部調べたんです。パッケージ優先だったFFから、ある時期に横置きV6のFFが登場し、その4WDも出てくると、プロペラシャフトがフロアを通って縦置きのFRとほとんど室内の広さが変わらなくなる。

衝突対応していくと、どんどんスペースが食われて縦置きFRのほうがある時から逆転し始めるんです。そこまで調べ、将来を見据えて今回の決断に至ったわけです。「走る歓び」だとか「プレミアム」といってFRをやってるわけじゃない。すごく論理的に考えてやっているんですよ。

マツダ(株)代表取締役副社長・藤原清志氏

鈴木 直6、FRで、マツダ車が手の届かない価格ゾーンにいっちゃうという懸念がありましたが、コストを抑えるためにやっているんですね。

藤原 アメリカでは大排気量エンジンが必要で、今言った理由で大排気量なら縦置きのFRにするとコストが抑えられる。だけど、高価だとかプレミアムだとか言われてしまう。違うんですよ。早くクルマを出して証明したいんですけどね(笑)。

鈴木 マツダは高額車ゾーンに行く気はないと。

藤原 行く気がないのではなくて、自分たちからは行けないんです。お客様が選んでくれて最終的にはプレミアムカーと呼ばれるところに行けるかもしれないけど、自分たちから意図しては行かない。それは過去失敗していることがいっぱいありますので。

鈴木 話があまりにも理詰めで反論できない(笑)。

藤原 よし(笑)。

もうひとつ言うと、マツダ3のファストバックはCX-30があるからあそこまでスタイル優先にできるんです。我々は単独の車種ではなく「群」で考えるようにしています。直6、FRも「群」のひとつなんです。

新しく加わったCセグSUVのCX-30。マツダ3と役割を分担することで両車の魅力を際立たせられる

■デザイン優先でいいのか?

鈴木 僕はデミオ、CX-3を続けて買って満足していましたが、どちらも年数が経ってきました。コンパクトクラスの商品力アップが必要ではないですか?

藤原 利幅がそれほど大きくないので、モデルライフをどう考えるかですね。マツダ2もCX-3もどんどん改良していこうと思ってます。

鈴木 そうは言ってもコンパクトクラスはモデルチェンジを繰り返して市場を刺激する必要があります。マツダは今、そういう従来型のビジネスと距離を置こうとしてますよね。

藤原 頻繁にモデルチェンジするのはマツダの規模としては難しい。マツダ2とCX-3はデザインもインテリアもいいので、改良を加えていけばまだまだ戦える商品力はあると思っています。

鈴木 藤原さんは2代目デミオの開発責任者でしたよね。

藤原 はい。この間まで革シートのスーパーコージーに乗ってました。

鈴木 ああいうクルマが最近のマツダにないんですよね。デザインがカッチリしていて格好つけすぎ。真ん中から下のゾーンはもうちょっとユルいほうがいいんじゃないかな。

マツダ最大の魅力は内外装の上質感。特に最新のマツダ3のインテリアは欧州プレミアムモデルにも負けない質感

藤原 そこは考え方でしょう。統一した戦略を継続しきれなかったのが日本企業だと思っています。我々は徹底的に継続して「日本企業のなかにもこんな会社がある」という存在になりたいんです。

鈴木 僕は藤原さんとは異なる意見を持っていて、デザインに正解はないけど、技術はいつか正解が見つけられる。技術を積み重ねていくと向上していけるけど、デザインは正解がないうえに時間が経つと風化します。デザインでブランドを高めていくのは凄くリスキーだと思うんですよ。

藤原 リスキーでもやらなくちゃいけない。短期的な浮き沈みに惑わされず、そこは守り通したいと思っています。マツダの世界シェアは2%です。販売台数至上主義だった時代もありましたが、あれは間違いで、2%でいいと。徐々に認めてくれるお客様も増えていると思うし、我々がやっていることは絶対に間違ってないと思っています。

鈴木 茨の道でも歯を食いしばってやっていくと。

藤原 BMWもアウディも1980年代前半くらいから歯を食いしばってやってきたんです。我々も20年、30年と続けないといけないんですよ。

■なぜマツダには室内の広い小型車がないのか?

編集部 マツダはなぜ室内が広いコンパクトカーを作らないんですか?

藤原 室内の広いクルマと同じ領域で競合しないようにしているんです。そこは私がやっていた2代目デミオまでで、3代目でそこを狙うのはやめると決めたんです。CX-3はファミリー層には弱いかもしれませんが、CX-30を作ってカバーしています。他社のクルマと1対1で勝負するのではなく、群で勝負しないといけないと思っています。

編集部 総力戦ですね。

藤原 私が担当した2代目デミオで失敗だったのは、お客様を見過ぎたことなんです。当時、同時並行で進んでいたのが初代アテンザで、金井誠太さん(元会長)がやったクルマ。

私の最初のプレゼンは「お客様の声はこうでした。だからこうしました」でしたが、金井さんのプレゼンは最初にバーンと「志」と掲げて「こんなクルマを作りたいんだ」とやった。

それにショックを受けました。あれ以来、志を持って提案したものでないとお客様の心に伝わらないという思いがずっとあるんです。だから我々はお客様のデータは見るけど、それでクルマは作らない。

他社は見るけど、それで目標は作らない。自分たちの「やりたい思い」を哲学にしてクルマを作る。それがあの時私が学んだことで、そこから変えていません。

2代目デミオのようなクルマを作れという気持ちはわかりますが、私の今の「志」のなかにそれはないんです(笑)。

■リアサスはトーションビームでいいのか?

鈴木 マツダ3はリアサスがマルチリンクからトーションビームになりました。僕はスペックもひとつのブランドだと思っていて、乗り比べると目立って劣っているわけではないけど、Cセグのリアサスはマルチリンクやウィッシュボーン系であってほしい。

藤原 これは議論しました。我々がやってきたE型マルチリンクを捨てるわけですよね。でも、プジョーに乗ってみろよと。プジョーはトーションビームだけど凄くいい。形式じゃないよねと。Gベクタリングコントロール(ハンドル操作に応じて駆動トルクを変化させ、スムーズな挙動を生み出すシステム)もあるのでイケると思って決断したんです。でもラージクラス、特にFRでトーションビームはありえないので、そこは別のサスペンションにしますけどね。

鈴木 今、初めて藤原さんの説明に納得しかねるものがあって、例えばベンツAクラスやVWゴルフなどは下のグレードはトーションビームでも上のグレードには別のサスペンションを用意したりします。BMWはFF化した1シリーズでリアのマルチリンクは残した。そういうところでマツダ車が引けを取ってもらいたくない。

藤原 気持ちはわかります。ただ、相当議論して決めたことなんです。

編集部 SKYACTIV-Xが一般ユーザーに浸透している手応えはありますか?

藤原 欧州ではマツダ3、CX-30の40%くらいがXだし、テクノロジー賞などもいただいています。ただ、日本は凄くインパクトがあるものでないと、すぐには食いついてもらえません。

鈴木 テクノロジーは洗練されるほどインパクトが弱くなるジレンマがありますね。

藤原 2012年に出したSKYACTIV-D(クリーンディーゼル)は凄いインパクトがありました。420Nm(42.8kgm)以上のトルクがあって、リッター14~15km走る。そういうのがあると早く立ち上がるんですが、洗練されてくると難しい。徐々に上がるだろうと思って諦めずにやっていきます。

鈴木 僕らはつい、だったらカンフル剤を打ちましょうよと言いたくなるわけですよ。基本的にコンプレッサーを回しているエンジンだから、もう少しパワー、トルクを高めたバージョンが作れないわけではない。もう1~2割パワーのある仕様があったらインパクトが出るのに、もったいないと思っちゃうんです。

藤原 ポテンシャルはあるんですが、最初の技術だけにコンサバティブに押さえ込んでいるんです。これから徐々にやっていきます。私自身も楽しみにしていますよ。

「志」を持って提案したクルマでないと、お客様の心には伝わらないんです

鈴木 値付けはどうですか?

藤原 Xにはマイルドハイブリッドが付いてるし、グリルシャッターもあるし、バイワイヤのブレーキも付いてるし、価格は高くないと思っているんですけどね。

鈴木 Xがほかのグレードと見分けがつかないのはどうなんでしょう? Xだけグリルに赤い線を入れるとかしたほうがいいんじゃないですか。

藤原 ですよね。デミオでディーゼルだけ赤い線を入れたでしょう? あれがあまり評判よくなかったんです。その経験があるものだから(笑)。

鈴木 マツダはあえて地味な方向へ行こうとしていてわかりづらい面がありますよね。そこは改めたほうがいい。

藤原 はい、改めます。バッジくらい替えたほうがいいですよね。

■電動化をどうする?

鈴木 欧州で急激に若い人たちのマインドが環境志向に振れて、クルマにも大きな影響を与えています。マツダも電動化シフトを前倒しにしないと欧州市場でブランド価値を毀損する恐れはないですか?

藤原 皆さんたぶん幻想を見ているだけだと思います。

鈴木 世論は一度極端から極端に走って揺れ戻すじゃないですか。

藤原 それについて行けるのは大企業だけです。我々はそれに付き合っているともたない。揺れ戻すところで待っているんです(笑)。でも、EVのMX-30を出します。

鈴木 慌てず、プログラムどおり電動化ブロックを積み上げていくと。

藤原 SKYACTIV-Xとマイルドハイブリッドの組み合わせとMX-30で行こうと。唯一の誤算はディーゼルの比率がもっと上がる予定だったのが、欧州勢の不正問題で落ちたので、そこは痛い。でも、片道1000km走る人がたくさん居るドイツでは、やっぱりディーゼルですよ。

今年秋に登場予定のピュアEV、MX-30。今後、レンジエクステンダー、PHEVなどの展開が予想される

鈴木 それが電動に置き代わるとは到底思えないですよね。で、EVは「EV2.0」で行くと。

藤原 「EV2.0」はいい言葉ですよね。社内でも言い始めているんです。

鈴木 EVの電池にはジャストサイズがあって、その航続距離が足りないならレンジエクステンダーとかPHEVを考えればいいし、逆に考えないならBEVで短距離シティユースのセカンドカーとして売るべきなんですよ。

藤原 もしくは超高級なプレミアムカーにする。中間が凄く難しいんです。大量の電池を積まないMX-30は「EV2.0」の考え方。そこはじっくり考えて作ってきたところです。

■人は育っているのか?

編集部 藤原さんの話を聞いていると、ブレずに長い間信念を貫き通してますが、それって疲れませんか? それとマツダはその目標に向かって全社一丸になれてますか?

藤原 私の年代は特にそうだと思うんですけど、マツダ100年の歴史の後半は右往左往し続けてきたんですよ。そのあとのリカバリーに凄く時間がかかってる。その怖さを知っているので曲げないという思いが強いんです。

いろんな意見を聞いたり指摘されて不安になることもありますが、「これが人間にとって一番正しいクルマの作り方だ」ということさえ決めておけば迷わないし、疲れないんです。

鈴木 藤原さんの下で働いている人たちは?

藤原 何かあった時には原点に戻ろうという話をしていて、「人間のためにいいクルマを作る」と決めたんだから守ろうと。人間って10年や20年で変わるのか? クルマの運転をする時の動きや筋肉の使い方は変わらないよねとずっと言い続けているので、迷いかけても最終的にはそこに戻るようにしています。

鈴木 今、人は育ってますか?

藤原 育ってますよ。エンジニアもデザイナーも上を突ついてくる中堅が現われてます。その時代、その時代に中心になる人は絶対に出てきます。

鈴木 それを聞いて安心しました。夢を繋いでいくのは人間ですからね。

*   *   *

■インタビューを終えて──。「ブレない姿勢」の期待と不安

 マツダが生き残るためには、世界シェア2%でいいからマツダ車を積極的に選んでくれるユーザーが必須。何年も前から藤原さんはそう仰っている。この意見に反対する人はたぶんいない。

 しかし、ではどうすればマツダは2%の熱烈な支持者を獲得することができるのかという方法論については、時として意見が分かれる。

 近年のマツダは、魂動デザインとSKYACTIVを両輪として成果を収めてきた。とりわけ、リーマンショック後のどん底(2011年まで4年連続の赤字)から立ち直り、2013年から3年連続で最高益を更新したV字回復はおみごと。

 これを牽引したのはSKYACTIV第一世代だったが、狙いどおり「マツダ車を積極的に選んでくれるユーザー」が大いに増えた時期だった(私事ながら、ぼくもこの時代にデミオ、CX-3とマツダ車を連続で購入した)。

 問題は、そのSKYACTIV商品群が一巡して第2世代に入った2016年以降だ。為替差損などが響いて利益が半減。2019年度に至っては利益はピークの7割減、販売台数も減少に転じている。

 逆風下ではさまざまな異論が吹き出してくる。魂動デザインはワンパターンだとか、SKYACTIV技術に執着するあまり電動化が遅れているとか、ひとたび風向きが変わると外野の声は容赦ない。

 今回のインタビューでもそういった話題は出たのだが、藤原さんの信念はまったく揺らぐ気配がない。

「ここで短絡的に安売りに走れば、せっかく築いてきたマツダのブランドが毀損する。いったん失った信頼を回復するには、10年20年という長い時間がかかる」

「正しくCO2を減らしてゆくには内燃機関の改良が不可欠。EV化を前倒しする予定はありません」

 ぼくの個人的な意見は、長期的には藤原さんの戦略に賭けてみたいけれど、短期的には対症療法も必要では? というもの。われながらブレまくりではあるけれど、今は泥臭い商売も必要な時と思うからだ。

 今回インタビューさせていただいた所感としてこのへんの溝はたぶん埋まらないと思うが、今後も藤原さんの舵取りには注目していきたいと思った次第でした。

90分ノンストップで話し続けた鈴木直也氏(左)と藤原清志副社長。マツダの目指す道がよくわかるインタビューとなった。これからに期待だ!

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