プレミアムブランドの中間モデルの悲哀
GSの足跡を振り返ると、日本でレクサスが開業する前は、海外版レクサスGSを日本ではトヨタブランドのアリストとして販売していた。初代モデルを1991年、2代目は1997年に発売している。
この後、GSが3代目に刷新される2005年に、日本国内でもレクサスが開業して新型GSの取り扱いを開始した。この時にアリストは廃止されている。つまりGSは、国内開業時から用意されるレクサスブランドの代表車種だ。
ただしGSの売れ行きは、この時代から伸び悩んだ。発売直後の2006年でも、1カ月の登録台数は800台前後だ。GSの直後に発売されたIS(2005年以前はアルテッツァ)のほうが好調に売れた。
これはプレミアムブランドに多く見られる特徴だ。メルセデスベンツではEクラスよりもCクラス、BMWは5シリーズよりも3シリーズ、アウディならA6よりもA4が好調に売れる。
プレミアムブランドは、ブランドごとにデザイン表現を統一させるため、サイズが違っても内外装の見栄えに大差は生じない。走行性能や乗り心地はサイズに応じて異なるが、コンパクトであれば価格が安くて運転しやすい。
そのためにEクラスや5シリーズよりも、Cクラスや3シリーズが買い得と受け取られ、売れ行きも伸びる。レクサスも同様で、GSよりもISの販売が上回った。
SUVにシフトしセダン離れが進行
GSは2012年に2代目へフルモデルチェンジしたが、この売れ行きも低調だ。発売直後の2013年でも、登録台数は1カ月平均で400~600台。依然としてISを下回った。
また2009年からは、SUVのレクサスRXも投入されている。この時点では従来型RXの国内版だったトヨタハリアーも継続して売られ、いわば新旧併売とした。
RXの売れ行きは2010年に1カ月あたり600台前後だから、好調ではないが、レクサスでもセダン離れが始まった。2014年には、RXよりもコンパクトなSUVのレクサスNXが登場する。2015年にはSUVの高人気に乗り、NXは1カ月に2000台前後を登録した。
以上のように、もともとGSの位置付けはLSとISに挟まれて辛い面があったが、レクサスがSUVを充実させたことで、セダン全体の人気も下がってきた。そこにESも加わった結果、GSはますます苦境に立たされた。
ちなみにレクサスが2005年に国内開業した時、開発者は、「国内版レクサスの販売車種は、海外と違ってセダンとクーペに絞る。駆動方式も運転感覚が上質な後輪駆動にこだわる」と述べていた。
この方針が次第に変わって売れ筋車種も前輪駆動のSUVに移っていくが、今でも後輪駆動セダンのGSは、上質かつスポーティなクルマ造りを目指すレクサスのコンセプトと相性がいい。
LS苦戦もGSにユーザーは流れていない
2017年に登場した現行LSは、ボディを過剰に拡大させた。全長は5235mm、全幅は1900mmだから、メルセデスベンツSクラスの標準ボディよりも大きくロングに匹敵する。最小回転半径は2WDが5.6m、4WDは6mと大回りだ。
その結果、販売店からは、「新型LSでは車庫に入らず、先代LSから乗り替えられないお客様も多い」という声が聞かれる。
その後顧客はどうするのか尋ねると「ほぼ同じ室内空間で、ボディがひとまわり小さなESに乗り替えるお客様もいる。しかしメルセデスベンツEクラスに移ってしまうこともある」と返答された。
ESは前輪駆動セダンだから空間効率が優れ、ボディサイズはGSと同等に収まり、車内はLSと同等かそれ以上に広い。そこで乗り替えるユーザーもいるが、プレミアム感覚を重視すると、LSからESに乗り替えるのは物足りない。
そこでメルセデスベンツEクラスを選ぶ。今でもメルセデスベンツのブランド力はレクサスを上回るから、LSからESでは物足りなくても、Eクラスならどうにか満足できるわけだ。
このような状況だから、LSの売れ行きは低迷している。2019年における1カ月平均の登録台数は262台であった。GSの83台、ISの171台よりは多いが、低調なことに変わりはない。
LSの肥大化を考えると、GSに磨きを掛ける方法もあるだろう。今のLSは、将来の燃費規制などで不利なV型8気筒エンジンを採用していないが、GS Fは今も搭載している。
V8エンジンを積んだGSの豪華仕様があれば、LSとは異なるダイナミックな高級感を訴求できたようにも思える。
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