かつては各メーカーから自社開発の軽トラックが発売されていたが、現在となってはスズキ「キャリイ」、ダイハツ「ハイゼット」、ホンダ「アクティ」を残すのみとなってしまった。ほかのメーカーは、キャリイかハイゼットをOEM供給される形でそのモデルを維持している。
しかし、登場から42年頑張ってきたアクティに関しても、2021年6月にその歴史に幕を下ろすことが明かされている。そうなると、残る独自モデルはキャリイとハイゼットのみとなってしまう。
日本の軽トラックが独自に進化を遂げ、優れた製品であることは疑いようのないものだが、全国軽自動車協会連合会がまとめているデータを見てみると、軽トラックの販売台数が年々減少していることが判明した。
農業には欠かせないクルマとして、いまだ需要があるであろう軽トラックだが、なぜ減少していっているのか? その原因はどこにあるのか? 日本が誇る働くクルマの代名詞、軽トラックについての謎を追う!!
文/渡辺陽一郎
写真/SUBARU、編集部
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■軽トラックから軽バンへと移り変わるニーズ
身近なクルマといえば乗用車だが、物流を支える商用車も大切な存在だ。このなかでも特に重要な役割を担うのが軽商用車になる。
日本自動車販売協会連合会と、全国軽自動車協会連合会のデータによると、2019年度(2019年4月から2020年3月)には、日本国内で85万2328台の商用車が販売された。この内の41万6485台を軽商用車が占める。比率に換算すれば49%だ。乗用車まで含めた軽自動車の販売比率は37%だから、商用車の分野では、乗用車以上に軽自動車が普及している。
そして軽商用車には、軽トラック、軽キャブオーバーバン(エンジンを前席や荷室の下に搭載する荷室長の長いバン)、軽ボンネットバン(エンジンを車体の前側に搭載する乗用車ベースのバン)という3種類がある。2019年度の販売データを見ると、軽トラックが17万9610台で軽商用車の43%を占めており、軽キャブオーバーバンは19万1776台で46%であった。
このように今は軽キャブオーバーバンの売れ行きが好調だが、10年前の2009年度(2009年4月から2010年3月)は販売動向が違っていた。軽トラックは21万80台で軽商用車の50%を占めて、軽キャブオーバーバンは17万19台だから40%であった。軽トラックは10年前は好調だったが、今は伸び悩んでいる。
ちなみに2009年度と2019年度を比べると、軽自動車全体では15万7776台増えたが、軽商用車に限れば5122台減った。特に軽トラックは、3万470台の減少だ。逆に軽キャブオーバーバンは2万1757台増えている。この販売台数の推移を単純に捉えれば、軽トラックの需要が、軽キャブオーバーバンに移ったと受け取られる。
■旧モデルの人気が高さによって最も影響を受けたサンバー
そして軽トラックの販売推移を車種別に見ると、減り方が最も大きいのはスバル「サンバートラック」だ。2009年度は3万3192台届け出したが、2019年度は5325台だから、2万7867台減った。軽トラック市場全体の減り方が3万470台だから、その大部分をサンバートラックが占める。
以前のサンバーはバンを含めて自社で開発と生産を行ったが、2012年にスバルは軽自動車から撤退して、サンバーのトラックとバンはダイハツ「ハイゼット」のOEM車に変更された。2009年の時点でサンバートラックはスバル製だったが、2019年はOEM車になったから売れ行きも大きく下がった。
ただしサンバーのバンは、2009年度が1万6653台で、2019年度は4391台だから、大幅な減少になるものの1万2262台だ。つまりサンバーはもともとトラックの人気が高く、これがOEM車になって、その顧客が2万7867台も離れた。スバル製だった時代のサンバーは、バンも優れていたが、ライバル車との比較ではトラックの優位性が際立っていた。
スバル製のサンバーは、エンジンを後部に搭載して、4輪独立式サスペンションを備えていた。乗り心地が柔軟で、特に果物などのデリケートな荷物に優しい。操舵した時の車両の動きも、ドライバーの感覚にピタリと合っていた。軽商用車なのに独特の一体感を味わえて、ライバルメーカーの開発者もサンバーを高く評価していた。「運転していると、なぜか楽しい気分になる不思議なクルマ」という表現まで聞かれた。
このサンバーの特徴は、トラックで明確に感じられたから、OEM車になって顧客が離れたことも納得できる。スバルの販売店からは「サンバーは車両の販売では全然儲からなかったが、自社製だった時代には、お客様が定期的に乗り替えた。点検や保険の取り扱いも含めて、少額でも安定して利益の得られる優等生だった」という話が聞かれる。
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