タイヤの性能と道路環境が良くなっているにも関わらず、日本ではパンクに代表されるタイヤのトラブルが増加傾向となっている。
JAFが発表する年度ごとのロードサービス出動件数によると、(パンクには限らないが)タイヤトラブルによるものは2007年に約28万6000件だった。
それに対し、10年後の2017年は約39万2000件と10万件以上増え、2018年は約38万8000件とわずかに減ったものの、2019年には約41万2000件と再び増加しているのだ。
タイヤのトラブル防止に最も効果があるのはコンディションの目視確認と空気圧のチェックだが、この2つがクルマのコモディティ化もあり軽視されがちなのは否めない。
この状況下でタイヤのトラブル防止に役立つのがタイヤ空気圧モニタリングシステム(以下TPMS)である。
TPMSは、タイヤ内の温度や空気圧をマルチインフォメーションディスプレイなどによりモニタリングできる優れもので、タイヤの空気圧が正常に保たれているかをひと目で確認することができる。
4本のタイヤの空気圧を表示する高性能タイプのほか、警告灯などにより表示するシンプルなタイプもあるが、これがあることでタイヤの安全性は高くなる。
TPMSは日本以外では多くの先進国で新車への装着が義務化となっているのだが、日本では未だに義務化されていない。当記事ではTPMSについて紹介しながら、日本でTPMSが義務化されない理由も考えていく。
文:永田恵一/写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA、LEXUS、ベストカー編集部、Adobe Stock
【画像ギャラリー】高額車両だけで普及への道は険しい!! TPMSを標準装備している日本車
TPMSが先進国で普及した背景

TPMSの必要性が注目され始めたのは、2000年に米国でとあるSUVで多発したタイヤの表面剥離が原因とされる横転事故がきっかけだ(そのタイヤはメーカーにより自主回収された)。
以降TPMSは米国で2007年9月、欧州では2012年、韓国では2013年、中国でも2019年から新車への装着が義務化されている。
そのため日本で買える輸入車のほとんどには何らかのTPMSが装備されるが、日本では未だ義務化されていない。
なおランフラットタイヤ装着車はパンクしても空気圧の低下がわかりにくいため、TPMSの装着が義務付けとなっている。
まずは、大きく分けて間接式と直接式の2種類あるTPMSをそれぞれのメリットとデメリットについて見ていく。

間接式TPMS

間接式は、直接タイヤの空気圧を測定するのではなく、他の要因をもとにタイヤの空気圧の異常を感知し警告するタイプとなる。
「空気圧が大きく低下するとタイヤは外径が小さくなり、回転数が増加する」点に着目したもので、具体的にはタイヤの回転を検知するABSのセンサーを利用し、通常走行時にあるタイヤの回転数がほかのタイヤより多い際には空気圧が低下していると判断する。
メリットは新たなハードウェアを必要としないので低コストですむこと。
デメリットは直接式に比べると、「空気圧が下がっていない場合でも警告が点くことがある」といった精度の低さなどが挙げられ、このことが原因で間接式のTPMSをなくしてしまった日本車もあるようだ。

直接式TPMS
ホイールに空気圧を測るセンサー&発信機、車両側に受信機&モニターを装着するもの。
メリットは、四輪の空気圧を測っているため各タイヤの空気圧が車内でわかること、高速域にも対応するなど精度が高いこと。
デメリットは新たなハードウェアが必要になる点など、何かとコストがかかるということが挙げられる。

TPMSは日本でなぜ普及しない?

現在日本車でTPMSが設定されるのはレクサスに代表される約400万円以上の高額車か、NSX、前述したランフラットタイヤを履くGT-Rといった超高性能車に限られる。
TPMSを新車装着するなら正確な直接式にしたいのは当然で、そこにはコストの問題も大きく関係するのもわかる。
しかしトヨタランドクルーザーにオプション設定されるTPMSは、数値も分かる直接式かつバックドアに置かれるスペアタイヤも含む5本ぶんで2万2000円と、意外に安いようにも感じる。

またオプション設定でこの価格なら、義務化により大量生産されれば劇的なコストダウンが進み、比較的短期間で当たり前のものになる気もする。
それでもTPMSの義務化が進まない理由として、筆者は日本では冬場スタッドレスタイヤを履くのがごく普通になっていることが大きいのではないかと思っている。
というのもスタッドレスタイヤを履く際には1セットのホイールでタイヤだけ組み替えるということは少なく、スタッドレスタイヤ用に割り切ったものなどホイールをもう1セット用意してホイールごとスタッドレスタイヤに履き替えることがほとんどだろう。
その際に純正のホイールを用意することは少なく、社外ホイールを使った際の対応や純正のホイールだったとしてもTPMSを移植するなり、TPMSをさらに1セット分用意するというのはさすがに負担が大きい。

スタッドレスタイヤは生活必需品のひとつでもあるだけに、このあたりが関係して義務化に踏み切れないのかもしれない。
なお以前TPMSの義務化の可能性について国土交通省自動車局技術政策課に問い合わせてみた際には、「義務化の時期の見通しなどはなく、現在事故実態の検証や有識者の意見を集めながら検討中」という答えだった。
後付けのTPMSはどうなのか?
TPMSにはアマゾンなどの通販でも買える後付けのものも多数流通しており、直接式であればタイヤトラブルの防止だけでなく、空気圧を常時モニタリングできることでサーキット走行などのスポーツ走行時の情報としても非常に役立つ。
後付けのTPMSは多数流通しているだけに、特に安いものは玉石混交というのが否めない。
大まかなに言えば、「価格が5000円以上のもので、商品レビューなどの評判のいいものなら問題があることは少ない」という傾向はあるようだ。
まとめ
TPMSの早期の義務化を望むのは当然だが、日本の路上を走るクルマのほとんどはTPMSが付いていないというのが現実だ。
それだけに日常点検やTPMS付きのクルマで異常が表示された際の確認のためにも、自分のクルマにはエアゲージを常備して活用したいところだ。
そして、最低でも1カ月に1回の頻度で、タイヤの空気圧チェックすることを習慣づけたいものだ。
