【元日産デザイナー・中村史郞氏語る】 今の『復刻車』は復刻車とはいえない!?

日本でも発売されることになった名車アルピーヌの復刻車を筆頭に、フィアット500など名車のデザインをオマージュした復刻車は現代に多く存在している。国産車では一度絶版となったフェアレディZ、GT-Rも、それぞれZ33、R35で復活を遂げた。その両車のデザインを手がけた元日産デザイナーの中村史郞氏が語る『復刻車』のデザインとは?
文・取材:ベストカー編集部/写真:NISSAN、FIAT
ベストカー2017年8月26日号


フィアット500などは『復刻車』ではなく『復活車』

まず、復刻車とは何かを正しく定義すると、本来はボディサイズやデザインまで当時のオリジナルモデルを忠実に再現したものを復刻車と呼ぶべきです。

今の量産車では復活販売したランクル70を除いたら復刻車はほとんどありません。時計や家具を復刻させるのとは違い、車を復刻させるのは法規的な問題で非常に難しいし、商品力的にも厳しいですね。

日本でも販売することになったアルピーヌA110や、BMWミニ、VWビートル、フィアット500などの車は、オリジナルモデルと大きさもプロポーションもぜんぜん違います。

オリジナルのチンクェチェント(左)とフィアット500(右)。オリジナルのイメージを残しつつ、フィアット500はFFで新たなデザインに仕立てた

オリジナルモデルのデザインテーマをリスペクト(尊重)し、そのデザインからインスピレーションを受けて、現代のデザインに作り直している。

担当したデザイナーたちに聞けば「新しくクリエイトした」と言うでしょう。そういうふうに捉えると“復刻車”ではなく“復活車”と呼ぶほうが適切ですね。

Z33とGT-Rは過去の特徴的なデザイン要素から新デザインを作成

私が手がけた日産の車で言うと、Z33、R35 GT-Rというのも1度廃止されたブランドをリバイバルしたものですが、デザインテーマをダイレクトに使うのではなく、歴代モデルの特徴的なデザイン要素を取り入れて新たにデザインしたものです。

IDxは510ブルーバードの復刻モデルだと言われるかもしれませんが、実はどの車に似ているということではありません。

1960年代の日産のセダンが持っていたデザイン言語にインスピレーションを受けて、現代の車としてデザインを作り直しているのです。

いずれにしても、結局はデザインとして車として魅力があるかどうかですね。

名車、510型ブルーバード『SSS』(上)と、2013年の東京モーターショーで公開されたIDx(下)

ブランドリバイバルということでは、欧州メーカーは多くのブランドをうまく現代に蘇らせていますね。

日本に少ないのは、ミニやチンクエチェントのような時代を代表するブランドや特徴的なデザインの車が、過去にあまり多くないからかもしれません。

今は世界的にクラシックカーブームですが、1960年代のようなグローバリズムがなく個性的なクルマが多かった時代に対する憧れとも言えます。

今、政治的にアンチグローバリゼーションが台頭していますが、そういう時代の空気と無縁ではありません。

車って文化と世のなかとともに動いているものなのです。

中村史郞
1950年10月生まれ。武蔵野美術大学を卒業後1974年にいすゞ入社。1999年デザイン部門のヘッドとして日産に移籍。2001年に常務執行役員、2014年に専務執行役員、2006年からCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)兼務。愛車は初代シルビア、初代Z432、現行スカイライン、現行キューブ。

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