ヤリスに届かないフィット 苦戦の実情 エース対決になぜ差が付いた!??

■フィットの売れ行きに影響を及ぼしたのは まさかの身内

 そしてフィットの売れ行きに大きな影響を与えたのがN-BOXの高人気だ。2020年7月の登録台数は1万6222台だから、フィットを約7000台上まわる。同月に日本国内で販売されたホンダ車のうち、N-BOXが31%を占めた。

登録車を含め、最も好調な日本車であるN-BOX。その人気は、留まるところを知らない

 ホンダカーズではN-BOXについて、以下のようにコメントした。

「N-BOXは人気が高く、ホンダ車以外から乗り替えるお客様も多い。価格はフィットと同程度だが、N-BOXは背が高いから(全高は1790mm)、車内はフィットよりも広い。自転車なども積みやすく、フィットのお客様がN-BOXに乗り替えることもある」

 確かにN-BOXを運転すると「これで十分」と感じる。峠道の走行安定性、危険回避性能などはフィットが優れ、背の高いN-BOXには不安も伴うが、街中で便利に使えることを重視するならN-BOXは魅力的だ。

 そして、N-BOXのように国内販売全体に占める割合が30%を超えると、ホンダのブランドイメージやほかの車種に与える影響も大きくなる。「N-BOXのホンダ」と受け取られ、同じ価格帯のフィットにはマイナス効果も与えてしまう。「今買うなら、フィットではなくN-BOXでしょ」という感じだ。

 ほかの人気車を見ると、ヤリスは2020年7月に小型/普通車の新車販売1位になったが、トヨタの国内販売全体に占める比率は11%だ。日産の同月販売1位はルークスだが、日産の国内販売に占める比率は20%だ。1車種で30%を超えるのは、やはり珍しい。

 N-BOXが好調に売れて、ホンダはスポーツモデルではなく「小さなクルマを造るメーカー」になった。2020年7月の国内におけるホンダの新車販売台数を見ると、N-BOXやN-WGNなどの軽自動車が51%に達する。そして軽自動車+フィット+フリードの販売台数を合計すると、国内で売られたホンダ車全体の78%になる。ヴェゼル、ステップワゴン、オデッセイなどは、残りの22%に片付けられてしまうのだ。

 つまり今のホンダでは、N-BOXが販売面の絶対王者として君臨し、フィットはそれを補佐する立場になる。これもフィットの売れ行きが伸び悩む原因だ。

■燃費性能でもヤリスがリード フィットはもっと長所をアピールすべき

 次はヤリスの売れ行きを伸ばしたプラス要因を考えたい。商品の特徴として、ヤリスは新開発エンジンの採用もあって燃費を大きく向上させた。WLTCモード燃費は、1.5Lノーマルエンジンの「G」が21.4km/L、「ハイブリッドG」は35.8km/Lだ。フィットは1.3Lノーマルエンジンの「ホーム」が20.2km/L、ハイブリッドの「e:HEV ホーム」は28.8km/Lだから、ハイブリッドの数値はヤリスが際立っている。

フィットの1.5L直4+ハイブリッド(e:HEV)と、ヤリスの1.5L直3エンジン

 ヤリスは衝突被害軽減ブレーキも先進的だ。右折時でも、直進してくる対向車を検知したり、横断歩道上の歩行者に反応して衝突被害軽減ブレーキを作動させる。今は燃費と安全に対する関心が高く、ヤリスはそこに応えた。

 ヤリスでは低価格グレードを用意したことも特徴だ。フィットで最も安価なのはノーマルエンジンを搭載する「ベーシック」で155万7600円だが、ヤリスには新開発された1.5Lガソリンに加えて、従来型から継承した1Lもある。

 1Lエンジンを積んだ最廉価の「1.0X・Bパッケージ」は139万5000円だ。衝突被害軽減ブレーキが省かれるから推奨はできないが、営業車などに使う法人ユーザー、レンタカー、カーシェアリングなどは、このような低価格グレードがあると購入しやすい。衝突被害軽減ブレーキを装着した「1.0X」も145万5000円だから、フィット「ベーシック」に比べて約10万円安く、低価格を重視するニーズに適する。

ヤリスが搭載する、トヨタ初の交差点シーンに対応した衝突被害軽減ブレーキ。交差点右折時に前方からくる対向直進車や、交差点右左折後の横断歩行者も検知が可能となっている

 先代型となるヴィッツが2010年に登場して、約10年間にわたり販売を続けたこともヤリスの需要を拡大させた。10年間もフルモデルチェンジしなければ、新型の登場を待っていたユーザーも多く、乗り替え需要が一気に伸びた。

 そして、トヨタの国内販売体制の刷新も多大な影響を与えている。2020年5月から、東京地区に続いて、国内のトヨタ4系列の全店がトヨタ全車を扱うようになったことだ。それまでのヤリスは東京地区など一部の地域を除くとネッツトヨタ店の専売で、全国の約1500店舗が販売したが、今は全店扱いだから4600店舗に急増した。そのためにトヨペット店からは以下のような話を聞けた。

「ヤリスの販売を開始すると、さまざまなトヨタ車からの乗り替えがあり、売れ行きも伸びている。特に多いのはアクアのお客様だ。アクアはハイブリッド専用車だから、ヤリスハイブリッドに乗り替える方もいるが、ノーマルエンジンに移られることも多い」

「アクアを買ったものの、走行距離が伸びなかった場合など、ノーマルエンジンで十分といわれる。またヤリスでは1Lエンジンの人気も高い。1.3Lに比べて価格が約15万円安く、自動車税も年額5000円節約できるからだ」

 以上のようにフィットには売れ行きを下げる要因が散見され、ヤリスはトヨタ全店の全車取り扱いを筆頭に、登録台数を押し上げる要因が多い。そのために両車の売れ行きに大差が生じた。

プラス要因の多いヤリスに対して、フィットにとってマイナスとなる外的要因が多い

 ただしヤリスは前述の通り後方視界が悪く、クルマに潜り込んだ印象になる。販売店でも「ヤリスには視界や乗降性に不満を感じるお客様もいて、この時はパッソやルーミーを提案している」という話が聞かれる。また4名で乗車すると後席が窮屈で、荷室容量にも不満を感じることがある。

 その点でフィットは視界と乗降性が優れ、後席と荷室は広い。フィットにはヤリスの欠点を補うメリットがあるので、コンパクトカーを購入する時は、両車を乗り比べて判断したい。比較することで、両車の持ち味が一層わかりやすくなり、正確なクルマ選びを行える。

【画像ギャラリー】見比べてみるとよくわかる! ヤリスとフィットの違いを徹底チェック!!

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