同クラス同時期登場のエース対決 なぜ差が付いた!?? ヤリスに届かないフィット 苦戦の実情

 2020年2月にフルモデルチェンジを果たした、トヨタ「ヤリス(旧名 ヴィッツ)」とホンダ「フィット」。

 だが、日本自動車販売協会連合会(自販連)が発表した2020年7月の販売台数ランキングでは、ヤリスがトップ(1万4004台)で、ライバルとされるフィットは9213台と、ヤリスに約4700台差をつけられて5位に甘んじている。

 ホンダとしても販売に力を入れているはずの、主力車「フィット」に何が起こっているのか? ディーラーへの取材をもとに、その要因を考察していく。

文/渡辺陽一郎
写真/TOYOTA、編集部

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■明暗を分けている要因は「見栄え」と「わかりにくさ」?

 クルマのライバル競争は、1960年代の「日産 ブルーバード vs トヨタ コロナ」から、ざまざまなカテゴリーで展開されてきた。今日注目される競争は「ホンダ フィット vs トヨタ ヤリス」だろう。両車とも全長を約4mに設定したコンパクトカーで、現行型の発売時期も2020年2月でほぼ同時だった。

 フィットとヤリスは激しい競争を展開するライバル同士だから価格帯も近い。フィットに1.3Lノーマルエンジンを搭載する売れ筋グレードの「ホーム」は171万8200円だ。ヤリスに1.5Lノーマルエンジンを搭載する「G」は175万6000円になる。機能と価格のバランスでは差が付かない。

車名を「ヴィッツ」から改めた「ヤリス」。シャープでスポーティなフロントマスクを採用。キャビンが上方に絞り込まれているのも特徴だ
ヤリスに比べるとオーソドックスな落ち着いたエクステリアデザインとなる新型フィット。柴犬をイメージしたというフロントマスクは親しみ感を重視した

 それなのに売れ行きには大きな格差が生じた。日本自動車販売協会連合会が月別に集計する両車の登録台数を見ると、2020年7月はヤリスが1万4004台、フィットは9213台であった。ヤリスが4791台多く、比率に換算すると、フィットの登録台数はヤリスの66%にとどまる。同じカテゴリーで価格帯もほぼ同じ。発売時期まで一緒なのに、なぜ売れ行きに大差が付いたのか。

 両車が現行型にフルモデルチェンジされる前の2019年には、先代フィットは1カ月平均で6201台登録された。ヤリスの前身となるヴィッツは6796台だ。先代フィットの発売は2013年、ヴィッツは2010年と古かったこともあるが、両車の販売格差は小さかった。2019年のフィットの登録台数は、ヴィッツの91%だったから、今は状況がかなり違う。

 このように、ヴィッツはヤリスにフルモデルチェンジして売れ行きを大きく伸ばし、フィットはあまり変化していない。登録台数の差がここまで開いた背景には、複数の理由がある。フィットのマイナス要因と、ヤリスのプラス要因に分けて考えたい。

 まずフィットのマイナス要因だが、先代型と現行型を比べると内外装を大幅に変えた。初代と2代目フィットはコンパクトカーとしてオーソドックスな形状で、3代目はサイドウィンドウの下端を後ろに向けて持ち上げるなど躍動感を強めた。フロントマスクも鋭角的にデザインしている。

 しかし、この外観は評判がよくなかったので、4代目の現行型では、フロントマスクを柔和な表情に改めた。ボディの側面も水平基調になり、ピラー(柱)の配置も工夫したから前後左右ともに視界が向上した。

 対するヤリスはサイドウィンドウの下端が高めで、外観がスポーティに見える半面、斜め後方の視界は悪い。フィットのボディ形状はヤリスよりも良心的だが、販売に結び付くのは多くのユーザーが感じるカッコよさだ。フィットはこの点で不利になった。

フィット(左)とヤリス(右)のリアデザインの比較。フィットのほうが後方視界は優れる

 室内空間も、後席と荷室はフィットが圧倒的に広いが、2本スポークのステアリングホイールなど質感は好みが分かれる。フィットのステアリングホイールは操作しやすく、メーターの視認性もいい。インパネの上端を低く平らに仕上げたから、小柄なドライバーも前方を見やすい。フィットの内外装は実用的で安全性も高く優秀なデザインだが、売れ行きに影響する見栄えは、多くのユーザーがヤリスを上質と感じるだろう。

オーソドックスなデザインを採用したヤリス。メーターパネルは丸型のメーター表示部が左右やや離れた配置となっており、右側に速度がデジタル表示される
フィットのインテリア。Aピラーは細いピラーを組み合わせて三角窓のようになっており、死角をなくす工夫がされている。2本スポークのステアリングホイールなど好みの分かれる点がある

 ィットはグレード構成も分かりにくい。低価格の「ベーシック」、主力の「ホーム」、スポーティな「ネス」、SUV風で全幅が1725mmの3ナンバー車になる「クロスター」、豪華指向の「リュクス」がある。

クロスター(手前左)、ホーム(手前右)、ベーシック(奥右)、ネス(奥中)、リュクス(奥左)という5タイプをラインナップする

 このうちで、ネスはスポーティといってもデザイン指向が強く、販売比率は5%だ。リュクスとクロスターも各15%以下で、ベーシックとホームを合計すると70%近くに達する。ホンダカーズ(ホンダの販売店)からは「お客様がグレード選びに悩むこともある。ネスよりも以前のRSのほうがわかりやすかった」という話も聞かれた。

■フィットの売れ行きに影響を及ぼしたのは まさかの身内

 そしてフィットの売れ行きに大きな影響を与えたのがN-BOXの高人気だ。2020年7月の登録台数は1万6222台だから、フィットを約7000台上まわる。同月に日本国内で販売されたホンダ車のうち、N-BOXが31%を占めた。

登録車を含め、最も好調な日本車であるN-BOX。その人気は、留まるところを知らない

 ホンダカーズではN-BOXについて、以下のようにコメントした。

「N-BOXは人気が高く、ホンダ車以外から乗り替えるお客様も多い。価格はフィットと同程度だが、N-BOXは背が高いから(全高は1790mm)、車内はフィットよりも広い。自転車なども積みやすく、フィットのお客様がN-BOXに乗り替えることもある」

 確かにN-BOXを運転すると「これで十分」と感じる。峠道の走行安定性、危険回避性能などはフィットが優れ、背の高いN-BOXには不安も伴うが、街中で便利に使えることを重視するならN-BOXは魅力的だ。

 そして、N-BOXのように国内販売全体に占める割合が30%を超えると、ホンダのブランドイメージやほかの車種に与える影響も大きくなる。「N-BOXのホンダ」と受け取られ、同じ価格帯のフィットにはマイナス効果も与えてしまう。「今買うなら、フィットではなくN-BOXでしょ」という感じだ。

 ほかの人気車を見ると、ヤリスは2020年7月に小型/普通車の新車販売1位になったが、トヨタの国内販売全体に占める比率は11%だ。日産の同月販売1位はルークスだが、日産の国内販売に占める比率は20%だ。1車種で30%を超えるのは、やはり珍しい。

 N-BOXが好調に売れて、ホンダはスポーツモデルではなく「小さなクルマを造るメーカー」になった。2020年7月の国内におけるホンダの新車販売台数を見ると、N-BOXやN-WGNなどの軽自動車が51%に達する。そして軽自動車+フィット+フリードの販売台数を合計すると、国内で売られたホンダ車全体の78%になる。ヴェゼル、ステップワゴン、オデッセイなどは、残りの22%に片付けられてしまうのだ。

 つまり今のホンダでは、N-BOXが販売面の絶対王者として君臨し、フィットはそれを補佐する立場になる。これもフィットの売れ行きが伸び悩む原因だ。

■燃費性能でもヤリスがリード フィットはもっと長所をアピールすべき

 次はヤリスの売れ行きを伸ばしたプラス要因を考えたい。商品の特徴として、ヤリスは新開発エンジンの採用もあって燃費を大きく向上させた。WLTCモード燃費は、1.5Lノーマルエンジンの「G」が21.4km/L、「ハイブリッドG」は35.8km/Lだ。フィットは1.3Lノーマルエンジンの「ホーム」が20.2km/L、ハイブリッドの「e:HEV ホーム」は28.8km/Lだから、ハイブリッドの数値はヤリスが際立っている。

フィットの1.5L直4+ハイブリッド(e:HEV)と、ヤリスの1.5L直3エンジン

 ヤリスは衝突被害軽減ブレーキも先進的だ。右折時でも、直進してくる対向車を検知したり、横断歩道上の歩行者に反応して衝突被害軽減ブレーキを作動させる。今は燃費と安全に対する関心が高く、ヤリスはそこに応えた。

 ヤリスでは低価格グレードを用意したことも特徴だ。フィットで最も安価なのはノーマルエンジンを搭載する「ベーシック」で155万7600円だが、ヤリスには新開発された1.5Lガソリンに加えて、従来型から継承した1Lもある。

 1Lエンジンを積んだ最廉価の「1.0X・Bパッケージ」は139万5000円だ。衝突被害軽減ブレーキが省かれるから推奨はできないが、営業車などに使う法人ユーザー、レンタカー、カーシェアリングなどは、このような低価格グレードがあると購入しやすい。衝突被害軽減ブレーキを装着した「1.0X」も145万5000円だから、フィット「ベーシック」に比べて約10万円安く、低価格を重視するニーズに適する。

ヤリスが搭載する、トヨタ初の交差点シーンに対応した衝突被害軽減ブレーキ。交差点右折時に前方からくる対向直進車や、交差点右左折後の横断歩行者も検知が可能となっている

 先代型となるヴィッツが2010年に登場して、約10年間にわたり販売を続けたこともヤリスの需要を拡大させた。10年間もフルモデルチェンジしなければ、新型の登場を待っていたユーザーも多く、乗り替え需要が一気に伸びた。

 そして、トヨタの国内販売体制の刷新も多大な影響を与えている。2020年5月から、東京地区に続いて、国内のトヨタ4系列の全店がトヨタ全車を扱うようになったことだ。それまでのヤリスは東京地区など一部の地域を除くとネッツトヨタ店の専売で、全国の約1500店舗が販売したが、今は全店扱いだから4600店舗に急増した。そのためにトヨペット店からは以下のような話を聞けた。

「ヤリスの販売を開始すると、さまざまなトヨタ車からの乗り替えがあり、売れ行きも伸びている。特に多いのはアクアのお客様だ。アクアはハイブリッド専用車だから、ヤリスハイブリッドに乗り替える方もいるが、ノーマルエンジンに移られることも多い」

「アクアを買ったものの、走行距離が伸びなかった場合など、ノーマルエンジンで十分といわれる。またヤリスでは1Lエンジンの人気も高い。1.3Lに比べて価格が約15万円安く、自動車税も年額5000円節約できるからだ」

 以上のようにフィットには売れ行きを下げる要因が散見され、ヤリスはトヨタ全店の全車取り扱いを筆頭に、登録台数を押し上げる要因が多い。そのために両車の売れ行きに大差が生じた。

プラス要因の多いヤリスに対して、フィットにとってマイナスとなる外的要因が多い

 ただしヤリスは前述の通り後方視界が悪く、クルマに潜り込んだ印象になる。販売店でも「ヤリスには視界や乗降性に不満を感じるお客様もいて、この時はパッソやルーミーを提案している」という話が聞かれる。また4名で乗車すると後席が窮屈で、荷室容量にも不満を感じることがある。

 その点でフィットは視界と乗降性が優れ、後席と荷室は広い。フィットにはヤリスの欠点を補うメリットがあるので、コンパクトカーを購入する時は、両車を乗り比べて判断したい。比較することで、両車の持ち味が一層わかりやすくなり、正確なクルマ選びを行える。

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