恐ろしくデキがよいアイドリングストップ
エンジンは非常にスムーズだ。PCX160はコンパクトな車格に対してパワフルだが、怖さや不安を感じさせるようなトルクの山谷がなくフラットそのもの。どこからどうアクセルを開けても過不足ない加速を見せる。それに対して125ccのPCXは一段トルクが細く、追い越し加速などでは若干のモタつきを感じる。
だが、フラットな特性はPCX160とまったく同等。免許がより簡便に取得できるAT小型限定普通二輪免許でOKということを考えれば、高速道路に乗らないチョイ乗りユースなら125ccのPCXで十分だ。
それにしても静粛な印象のエンジンである。エンジン音、排気音が滑らかなこともあるが、それよりも振動がほとんど感じられないことの方が効いている。電気モーターのような、と言うと大げさだが、それぐらい抑揚のないスムーズさで、二輪車エンジンにありがちなドラマチックな演出が排除されている。
いい意味で、存在感が薄いのだ。「各種規制対応しながらも、前モデルに比べて飛躍的に性能を高めたと言えます」とのことだが、走りの印象は性能を押しつけてこない。このあたり、まさに四輪車のエンジンに近いアプローチだ。初代セルシオのV8・4000ccエンジンを体験した時のことを思い出した。
徹底的に抑制を利かせることでエンジンに上質さを持たせる手法は、もはや小排気量スクーターの域を超えている。
だが、それよりさらに感動したのは、アイドリングストップのデキの良さだ。PCXは初代からアイドリングストップを採用していて、最初から優秀だった。アクセルを戻してPCXが停止すると同時にエンジンがスッと止まり、アクセルをごくごくわずかに開けると「ススン…」と静かにエンジンがかかる。
いずれの動作にもタイムラグはほぼ感じられず、「いきなり高い完成度で出してきたな」と思ったものだ。新型はその精度がさらに高まっており、アイドリングストップが作動していることをまったく意識しないで済む。掛かった瞬間に回転数が跳ね上がることもなく、振動もない。タイムラグもまるでなく、あたかもこちらの意志を予測しているかのようだ。
よほど精緻な制御が行われているのだろうが、乗り手の側は何も意識しないで済むあたりは、非常に洗練されている。
先日、代車で借りた軽自動車にアイドリングストップが装備されていたのだが、停止発進のたびにブスンブルルンと騒がしく、ちょっとイヤになってしまった。「軽自動車なんてそんなもん」なのかもしれないが、ちょっと待ってほしい、小排気量スクーターは二輪車界においては軽自動車にあたる存在だ。
最近の軽は高くなったとはいえ、安くて便利で小回りが利いて、という要件はそう変わらない。それらを満たせば小排気量スクーターももっと安普請でも構わないところへ来て、新型PCX/PCX160はアイドリングストップにさえ恐ろしいほどきめ細やかな制御を与えられているのだ。乗り物の挙動にうるさいバイク乗りをも満足させるために、かなり力を注いだのだろう。
「ええ、いろいろやりました」と微笑むのはPCX開発責任者代行の半田悦美さん(本田技研工業株式会社二輪事業部ものづくりセンター)だ。「とは言っても、本当に細かな煮詰めの部分ですけどね。PCXも10年目になるので、かなりのノウハウが蓄積されています。
FIのセッティングの見直しなどで、始動時のスムーズさと発進時の優れたフィーリングを作り込めたのではないかと思います。アイドリングストップは燃費向上に役立っていますし、今ぐらい存在を意識させない仕上がりになっていれば、ライダーの疲労も軽減するはずです」。
確かに気疲れしない。これで燃費も向上するなら使わない手はない。新型PCX/PCX160のアンドリングスイッチにはごていねいにオン/オフのスイッチが設けられているが、オフにする意味がない。
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