日本で一番売れている二輪車・PCXがアップグレード! 「高級車みたいに上質なスクーター」ってホント!?

クルマっぽいのに退屈じゃない乗り味

 乗り心地も良好だ。スクーターにありがちなカタカタゴトゴトといった安直な振動がほとんど感じられない。こういった快適さもクルマを感じさせる。もちろんAT(Vマチック無段変速)なので変速ショックもない。ブレーキを握り込んでいく時の制動力の立ち上がりも、その制動力や加速に応じたサスペンションの作動性も滑らかだ。走りのすべてにわたって、気になる引っかかりがない。

 フレームから見直し、タイヤ幅を前後とも太くし、リヤは前モデルの14インチから13インチにするなど大変更を施しているが、何かが突出して目立つことがないよう緻密にバランス取りされていて、全体の印象はマイルドだ。新作フレームにも関わらず円熟と言いたくなる仕上がりの良さ。微に入り細にわたる徹底的な煮詰めを感じるあたりも、クルマっぽい。

2018年型でダブルクレードル型式に変更されて剛性が大幅にアップしたフレームを新型ではさらに改良。760gの軽量化を達成しつつ従来型と同等以上の軽快なハンドリングを実現した
2018年型でダブルクレードル型式に変更されて剛性が大幅にアップしたフレームを新型ではさらに改良。760gの軽量化を達成しつつ従来型と同等以上の軽快なハンドリングを実現した

 さんざん「クルマっぽい」と言っておいてナンだが、バイク乗りの視点からすると「クルマっぽい」はホメ言葉とはあまりいえない。「退屈な二輪車」を揶揄する表現として使われることさえある。だが新型PCX/PCX160は、決して退屈ではない。

 特にPCX160に顕著だが、アクセルを開けながら旋回するシーンが非常に気持ちいいのだ。前後輪ともに接地感が高く、コーナリング中でも安心してアクセルを開けられる。後輪にクッとトラクションが掛かっていることを感じながら、爽快にコーナーを立ち上がっていく。気持ちがどんどん乗ってくる感覚は、スポーツバイクにかなり近い。

新型PCXシリーズは全3種類。右からPCX160が40万7000円、PCX(125)が35万7500円、PCX e:HEV(小型二輪免許区分)が44万8800円となっている
新型PCXシリーズは全3種類。右からPCX160が40万7000円、PCX(125)が35万7500円、PCX e:HEV(小型二輪免許区分)が44万8800円となっている

 125ccのPCXは、PCX160に比べるとトルクが薄いことからそれほど豊かなトラクションは感じられなかったが、接地感の高さはPCX160とまったく同等だ。ブレーキを握り込みながらの旋回も不安がなく、フレーム剛性の高さがひしひしと感じられる。要はエンジン排気量差の分フィーリングが違うだけで、車体の作り込み自体に差異はない。利便性プラスαのライディングプレジャーは、ライダー心をくすぐる。

 今すでにバイクに乗っている人がセカンドバイクとして選ぶなら、PCX160がオススメだ。一方で、バイクっぽいスポーツ性にこだわらないなら125ccのPCXでも十分すぎる。

 高速道路を走らない前提にはなるが、AT限定小型二輪免許でいいこと、保険料を含めたランニングコストの低さは、プラスαの喜びを諦めてもなお余り有る魅力だ。そして、優れたデザイン性や上質なエンジン、さらに高い走行性能は125も160もまったく同じなのだ。

最高にちょうどいいフリードのような

 正直、スクーターにここまでの仕立てはオーバークオリティではないか、と感じる。だが開発陣はそうは考えていない。開発責任者の大森純平さん(本田技研工業株式会社二輪事業部ものづくりセンター)はこう語る。

「残念ながら日本の二輪車市場は縮小傾向にあります。でも、PCXのように容易に乗れるスクーターにバイクらしい味付けをしておけば、二輪を操る楽しさを知っていただく好機となります。それが将来的には、バイクユーザーの増加につながるのではないか、と期待している部分もあるんです」。

 二輪車新聞の調べによると、PCXは日本でもっとも売れている二輪車だ。前モデルのデータになるが、2019年にPCX、PCX150を合わせて2万1000台以上を販売している。新型も同等レベルの販売台数が期待できるだろう。PCXを入口として二輪車のライディングプレジャーを知った層が、例え一部でもやがてバイクユーザーになるなら……。わずかでも希望が持てる話だ。

新設計のメーターは新たにバッテリー電圧低下警告灯を設定した。エンジン始動時に規定のバッテリー電圧を下回った場合に点灯し、バッテリー上がりを未然に防ぐことができる
新設計のメーターは新たにバッテリー電圧低下警告灯を設定した。エンジン始動時に規定のバッテリー電圧を下回った場合に点灯し、バッテリー上がりを未然に防ぐことができる

 しかしホンダは恐ろしい。二輪界にあってとかく軽視されてもおかしくないスクーターというジャンルに、極めて上質なクルマの作法を持ち込んでいる。めちゃくちゃ本気なのだ。この本気度、グローバル展開によるところも大きい。

 PCXは世界各国で販売されているのだが、特にアセアン諸国ではまだまだクルマが簡単に購入できない層も多く、クルマへの憧れをPCXに投影させるユーザーも少なくない。だからデザインや設計の随所に四輪が意識されている。だからといって無闇にゴージャスにするのではなく、スクーターらしい利便性がコンパクトに、スマートにパッケージングされている。

フルフェイスヘルメットが収納できるシート下の容量は28→30Lに拡大。オプションのトップボックスは35Lで新たにスマートキーに対応した。フロントのボックスではUSBでの充電が可能だ
フルフェイスヘルメットが収納できるシート下の容量は28→30Lに拡大。オプションのトップボックスは35Lで新たにスマートキーに対応した。フロントのボックスではUSBでの充電が可能だ

「何にでも使えてプレミアム感もあって、サイズ感もちょうどいい。弊社のフリードのような存在でしょうか」と大森さん。デザインのリファレンスとしてアコードやシビックの名が出たり、パッケージングの例えとしてフリードの名が出たり、とことんクルマ寄りなスクーターである。

 だからこそ万人受けして日本を始め世界各国でヒットしているのだろう。二輪車にもまだまだ需要喚起の余地はあると感じさせてくれる。

後輪のスリップを防ぐHSTC=トラクションコントロールを新採用。前後輪の車輪速センサーにより後輪のスリップ率を算出し、燃料噴射量制御を行う仕組みとなる
後輪のスリップを防ぐHSTC=トラクションコントロールを新採用。前後輪の車輪速センサーにより後輪のスリップ率を算出し、燃料噴射量制御を行う仕組みとなる

 ホンダの意欲作であり、販売実績も伴っているPCX/PCX160。開発にかける意気込みの源泉がどこにあるのか尋ねると、開発責任者の大森さんがこんな話をしてくれた。

 「非常に個人的なエピソードなんですが、私は阪神淡路大震災を経験しています。その時に、スクーターの利便性が生活に直結していることを痛感しました。ですから私はいつも、PCXの開発を通して社会に貢献できればいいな、と考えているんです」。人としての思いがあってのモノ造りが、PCX/PCX160で実を結んでいる。

新型PCXシリーズの開発メンバー。文中に登場したのは左から4番目で開発責任者の大森純平さん、同5番目で開発責任者代行の半田悦美さん、左端がデザインを担当した岸敏秋さん
新型PCXシリーズの開発メンバー。文中に登場したのは左から4番目で開発責任者の大森純平さん、同5番目で開発責任者代行の半田悦美さん、左端がデザインを担当した岸敏秋さん

●ホンダ 新型PCX/160要諸元
・全長×全幅×全高:1935×740×1105mm
・ホイールベース:1315mm
・車重132kg
・エンジン:単気筒、124cc/156cc SOHC
・最高出力:12.5ps/15.8ps
・最大トルク:1.2㎏m/1.5kgm
・タイヤ:F)110/70-14、R)130/70-13
・トランスミッション:Vマチック無断変速式
・サスペンション型式:F)テレスコピック R)スイングユニット

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