トヨタ カレンが辿った運命 伸びやかなフォルムの2ドアスペシャリティーカー【偉大な生産終了車】

■1代限りで姿を消したカレン その運命は登場時に決まっていた?

 トヨタ カレンが1代限りであえなく消滅した理由。それは、カレンが世の中に出た1994年にはすでに、狙っていた「どじょう」が「柳の下」にはいなかった――ということです。

 カレンのベースであるセリカそのものが、もともとはゴリゴリのスポーツカーではなく「スペシャルティクーペ」的な立ち位置でした。

カレンのベースとなった6代目セリカ(1993-1999・写真はGT-FOUR)。カローラ店で扱われ、モータースポーツにおけるベース車両としても長くファンを楽しませた。2006年・7代目までその系譜は続く
カレンのベースとなった6代目セリカ(1993-1999・写真はGT-FOUR)。カローラ店で扱われ、モータースポーツにおけるベース車両としても長くファンを楽しませた。2006年・7代目までその系譜は続く

 しかしモータースポーツの世界で4WDターボの「セリカGT-FOUR」が名声を高めていくにつれ、いつしかユーザーは「GT-FOURにあらずんばセリカにあらず!」的に感じるようになっていきました。

 セリカGT-FOURは確かに素晴らしいスポーティカーですが、自動車メーカーというのは硬派なスポーツカーばかりを作るわけにもいきません。

 そのためトヨタは、前述した「ビスタ店の販売状況を改善させるため」という理由と同時に、「モデルラインナップの裾野を広げるため」という理由でも、比較的ライトな自然吸気FFクーペであるカレンを登場させたのです。

 人々が、「デートカー」あるいは「セクレタリーカー」的なニュアンスで楽しく使ってくれることを念じながら。

 しかしカレンの開発企画が始まった頃は、そういった車(硬派スポーツクーペではないクーペ)の需要が確かにあったわけですが、カレンが実際に発売された1994年には、世の中のムードとニーズは変化していました。

 いわゆるバブルの崩壊と、それに伴う嗜好の変容です。

インパネ。マイナーチェンジ(1995年10月)や一部改良、ツーリングセレクション(XS)の販売などテコ入れが図られたが、販売が好転することはなく、1代限りでひっそりと姿を消すことになる
インパネ。マイナーチェンジ(1995年10月)や一部改良、ツーリングセレクション(XS)の販売などテコ入れが図られたが、販売が好転することはなく、1代限りでひっそりと姿を消すことになる

 俗に言う日本のバブル景気は、1990年初頭からの株価暴落と、同年3月に当時の大蔵省が通達した「総量規制」によって実質的には崩壊していたわけですが、世の中全般ではまだまだ好景気ムードがしばらく続いていました。

 しかし1990年代も後半になると北海道拓殖銀行や山一證券などの大手金融機関がバタバタと倒れ、のほほんとしていた一般国民も「これは完全にヤバい!」と気づいたわけですが、カレンが登場した1994年の前年である1993年にはすでに有効求人倍率が1を下回り、俗に言う就職氷河期もなんとなく始まっていました。

 そうなると、多くの若年男性は「デートカーうんぬんとか言ってられない。というか車を持つどころじゃないし、もしも持つなら、もっと実用的な車にするよ!」と思うようになります。

 もちろん車好き、運転好きの若い男性は相変わらずクーペが好きでしたが、彼らの数はそう多くはなく、しかもそういった層が好むのは「FFのデートカー」では決してなく、「FRのクーペ」でした。

 そして、あくまで一般論として経済観念がもともとしっかりしている場合が多い女性ユーザーは、当然のようにセクレタリーカー(小ぶりなクーペ)ではなく、燃費が良くて比較的低価格な箱型の車を選ぶようになります。

 トヨタ カレンは決して悪い車ではなかったと思いますが、このようにして「出る幕がなくなった」という状況になってしまったのです。

 そしてベースとなったトヨタ セリカも、7代目のT230型で4WDターボのGT- FOURを作ることをやめて「デートカーへの回帰」を図りましたが、こちらも不発に終わり、結果としてセリカ自体が消滅してしまいました。

■トヨタ カレン 主要諸元
・全長×全幅×全高:4490mm×1750mm×1310mm
・ホイールベース:2535mm
・車重:1160kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1998cc
・最高出力:140ps/6000rpm
・最大トルク:19.0kgm/4400rpm
・燃費:12.0km/L(10・15モード)
・価格:194万2000円(1994年式 XS 4速AT)

【画像ギャラリー】バブル崩壊期に直面してしまった徒花か トヨタ カレンをギャラリーで見る

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