2030年代半ばには新車販売が電動化車になるのは必須の流れ。もちろん電動化車にも魅力はあるだろうし、開発が進めば電動化「ならでは」の味というのもまた出てくるのかもしれない。しかし、ならばなおのこと、純エンジン車ならではの官能と昂ぶりは、それらに替えられるものでもないはずだ。
まだまだ寒さ厳しい2月、ベストカーはレーシングドライバー山野哲也とともに、最後の純エンジン車を楽しむ厳選4台試乗の旅へと出かけ、その魅力について、たっぷりと聞き出した。
●試乗ラインナップ
・ホンダ S660
・アルピーヌ A110S
・レクサスLC500コンバーチブル
・日産 GT-R NISMO
※本稿は2021年3月のものです
文/山野哲也、ベストカー編集部 写真/ベストカー編集部 ほか 撮影/奥隅圭之
初出:『ベストカー』 2021年4月10日号
【画像ギャラリー】エンジンの咆哮に身を委ねる! 試乗の様子とベストカー厳選の純エンジン車4台をギャラリーでチェック!!!
■世界が確実に「脱炭素」へと向かう、そのなかで
世の中は確実に「脱炭素」に向かっている。その槍玉にあげられているのが自動車のエンジンだ。
もちろん、化石燃料を無尽蔵に燃焼させてCO2のみならず、有害排出ガスを撒き散らすことを「よし」と言っているのではない。
実際、NOxやHCなどの有害排出ガスは燃焼技術の改善や触媒技術の進化でクリーン化を実現している。
またCO2排出についても、エンジン技術の進化により、熱効率の高効率化、機械損失の低減、トランスミッション技術の進化などにより、最新のエンジン(内燃機関)は驚くほど燃費が向上している。

CO2排出量の低減とは、すなわち燃費の引き上げである。
とはいえ、大排気量、高出力エンジンは、絶対値としてのCO2排出量が多くなることは否めない。
現実的に、こうしたエンジンを搭載するクルマは数を減らしていき、マイルドハイブリッドを含めた「電動化車」が数を増やし、トヨタの「THS」に代表されるストロングハイブリッド、日産のe-POWERのようなシリーズハイブリッド、最終的には純電気自動車へと電動化の度合いが大きくなっていくことは必定であろう。
しかもそれは遠い将来の話ではなく、早ければこの先5年、遅くとも10年以内の「現実」なのである。
となれば、まさに今だ! 今ならまだまだ魅力的な純内燃機関を存分に味わって、その官能の咆哮を堪能できる。そのラストチャンスを逃してはならない!
ということで、ベストカー編集部は純エンジンを搭載する4台のスポーツモデルをチョイス。山野哲也氏に改めてその魅力を味わっていただいた。
■山野哲也が改めて噛みしめる! 純エンジン車の無限の魅力と愉悦
こんにちは、山野哲也です。
まず最初に言っておきたいのですが、私はEVを否定するつもりはまったくない、ということです。
マイルドハイブリッドももちろんアリですし、トヨタのハイブリッドにも大きな可能性を感じています。
私は2016年のパイクスピークヒルクライムにNSXを4モーター化したEVで参戦しています。
9分6秒015というタイムで総合3位の成績を収めています。
カーボンニュートラルの問題はもちろん大切ですが、それとは関係なく、EVの瞬発力や各輪を独立して緻密に制御できることによるトルクベクタリングなど、新たなハンドリング制御への可能性など、新たなモータースポーツ車両への可能性も感じています。
その一方、今回ベストカー編集部が用意してくれたような、モーターをいっさい使わないピュアエンジン車の魅力も、当然ながら大きなものだと思っているのです。
特に我々の世代は、自動車との関わりの大部分をピュアエンジン車で経験してきました。
アクセル操作に対するエンジンの反応、駆動系を経て車体の動きにエンジンが関与する感覚、トランスミッションを操ってエンジンのトルクバンドを引き出すドライビングテクニックなど、やはりこれはモーター車では味わえないものです。
エンジンの鼓動と音を全身で感じながらクルマを走らせる感覚は、やはり魅惑の世界なのです。
ピュアEVのポルシェタイカンなど、スポーツモードにすると、車速の高まりに伴って、エンジンが回転を高めるような疑似サウンドを発します。
やはり気持ちのいいドライビングにエンジンサウンドは欠くべからぬエッセンスだということです。
例えばGT-RのV6、3.8LターボでもレクサスLC500のV8、5Lでも、アルピーヌA110Sの直4、1.8Lターボでも、「スポーツモード」を選択して走ると、シフトダウン時に“ババっババっバ”とエキゾーストのアフターファイアーのような音を発します。
もしかしたら作った音かもしれませんが、作りようのないエンジンの高回転時のメカニカルサウンドとともに聞こえるエキゾーストサウンドはドライバーの気持ちを高めてくれます。