■山野哲也が改めて噛みしめる! 純エンジン車の無限の魅力と愉悦
こんにちは、山野哲也です。
まず最初に言っておきたいのですが、私はEVを否定するつもりはまったくない、ということです。
マイルドハイブリッドももちろんアリですし、トヨタのハイブリッドにも大きな可能性を感じています。
私は2016年のパイクスピークヒルクライムにNSXを4モーター化したEVで参戦しています。
9分6秒015というタイムで総合3位の成績を収めています。
カーボンニュートラルの問題はもちろん大切ですが、それとは関係なく、EVの瞬発力や各輪を独立して緻密に制御できることによるトルクベクタリングなど、新たなハンドリング制御への可能性など、新たなモータースポーツ車両への可能性も感じています。
その一方、今回ベストカー編集部が用意してくれたような、モーターをいっさい使わないピュアエンジン車の魅力も、当然ながら大きなものだと思っているのです。
特に我々の世代は、自動車との関わりの大部分をピュアエンジン車で経験してきました。
アクセル操作に対するエンジンの反応、駆動系を経て車体の動きにエンジンが関与する感覚、トランスミッションを操ってエンジンのトルクバンドを引き出すドライビングテクニックなど、やはりこれはモーター車では味わえないものです。
エンジンの鼓動と音を全身で感じながらクルマを走らせる感覚は、やはり魅惑の世界なのです。
ピュアEVのポルシェタイカンなど、スポーツモードにすると、車速の高まりに伴って、エンジンが回転を高めるような疑似サウンドを発します。
やはり気持ちのいいドライビングにエンジンサウンドは欠くべからぬエッセンスだということです。
例えばGT-RのV6、3.8LターボでもレクサスLC500のV8、5Lでも、アルピーヌA110Sの直4、1.8Lターボでも、「スポーツモード」を選択して走ると、シフトダウン時に“ババっババっバ”とエキゾーストのアフターファイアーのような音を発します。
もしかしたら作った音かもしれませんが、作りようのないエンジンの高回転時のメカニカルサウンドとともに聞こえるエキゾーストサウンドはドライバーの気持ちを高めてくれます。
■各社それぞれの魅力が宿るエンジンたち
S660の直3、658ccターボからはこのようなサウンドは聞こえませんが、加速時のシフトアップでのアクセルオフ時に頭の後ろから聞こえる“プシューン”というターボ系のサウンドが聞こえて、これが楽しくて、ついついエンジンを回してしまいます。
この3気筒エンジンが7500rpmを超えて回ろうとする感覚も純エンジン車ならではの魅力です。
トルクゾーンはもっと低い回転域にあり、6000rpmあたりがパワーゾーンのピークではありますが、タイトなコーナーの連続するようなシチュエーションで、立ち上がりから次のコーナーへの進入までの加速で、シフトアップをせずにエンジン回転の「余力」を使えるので、結果的に速く走れます。
絶対的なパワーはGT-RやLC500には遠く及ばぬエンジンですが、ドライブする楽しさはまるでバイクのようで楽しいものです。
アルピーヌA110Sのエンジンは、直4、1.8Lターボの気持ちのいいエンジンです。
このエンジンによって、1110kgの軽量ミドシップのハンドリングがさらにシャープで軽快に楽しめます。
6700rpmあたりがレッドゾーンなのですが、加速していってレブリミットに到達すると、いきなりリミッターが作動するのではなく、緩やかにトルクを間引きするように回転を抑えます。この制御もいい。
エンジンのトルク変動がダイレクトに荷重移動に影響する“緩みのない”シャシーなので、コーナリング中にレブリミットに当たった際の挙動変化が出ないのです。
フロントが軽く、操舵に対する車体の反応がシャープなA110だけに、こうしたエンジン側の制御は嬉しいです。
それにしてもA110のシャシー性能は素晴らしいです。
ほんのちょっとの操舵に対し、シュッとノーズは反応するのに、リアはしっかりと粘って姿勢を乱すことはない。
意図的に右へ左へとすばやい切り返しをすれば、若干リアが滑る様子を見せるものの、スパンとリバースしてスピンモードになることはなく、あくまで安定を失いません。
よく曲がりますが、A110のステアのギア比はそれほどクイックではありません。
前輪の切れで無理やり曲げているのではなく、しっかりと接地させたタイヤのグリップでノーズを入れています。
レクサスのV8エンジンは、よくぞ今の時代、生き残ってくれていると、感謝したいです。
最新の燃焼技術などを導入し、伝達効率に優れる10速ATを組み合わせているとはいえ、WLTCモード燃費は8.0km/L。
GT-R NISMOのモード燃費は公表されていませんが、標準GT-RはWLTCモード7.8km/Lで、ともに時代に逆行するエンジンであることは否定できません。
でも、走れば楽しい! LC500の2UR-GSEは総排気量4968ccのV型8気筒だというのに、7400rpmまで一気に吹け上がっていきます。
しかもよどみなく、パワー感は回転に応じて直線的に盛り上がります。
このエンジン、5000rpm以下ではとてもジェントル。音も静かだし振動もなく滑らか。ラグジュアリーオープンのエンジンにはふさわしい上質感です。
しかし、5000rpmを超えると豹変。昔のホンダVTECのように、音が“カーン”と甲高くなり、アクセルに対するレスポンスも一段とシャープになります。
シフト時の“パパンっ”というサウンドなど、アメリカのNASCARのような感覚です。ちょっとほかの日本車では聞くことができないエンジンサウンドです。
そして凄いのが、この477ps/55.1kgmのパワー&トルクをオープンボディがミシリともせず受け止めているということ。
ボディ剛性もさることながら、足がとてもいいのが運転していて実感できます。
21インチの大きく重いタイヤをしっかりと受け止めて、しなやかにサスペンションが動いて衝撃を吸収しています。
普通に走っている時の乗り心地のよさは特筆ものです。まさにラグジュアリーオープン。
フルブレーキング時のノーズダイブも少なく、リアタイヤの制動力をしっかりと使っていて、安心感が高く、大パワーを安心して引き出せます。
GT-RのNISMOは徹底的にレーシングマシンのような内外装です。
タイヤの接地感はまるでスリックタイヤのような感覚です。トレッド面が硬く、接地面積が大きいタイヤの乗り心地です。
タイヤもダンパーも固く乗り心地はガッチリしていますが、タイヤが路面に吸い付いているかのようで、安心感は高いです。
ゆっくり走らせていても、後ろから盛大なギアの音が聞こえてきます。
トランスアクスルの6速DCTの“ギュイ~ン”という音が、車速に伴ってさまざまに鳴り響きます。ギアのオーケストラですね。
3799ccのV6ツインターボは全域トルクバンドのような感覚で、どこから踏んでもドカン! と前に出ていく。
変なトルク変動や急にパワーが炸裂するといったことがないので、全開加速では凶暴なまでの動力性能を発揮しますが、扱いやすさを失いません。
ものすごくフレキシビリティのあるエンジンです。珠玉の内燃機関と言っても過言ではありません。
これを市販車で味わえるのは、本当に今がラストチャンスになってしまいそうです。
今回改めて乗った4台。どれもエンジンとシャシーのバランスが絶妙で、官能的で魅力的な純エンジン車だと再認識しました!
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