【番外コラム】純エンジン車の未来は本当にないのか?
内燃機関の終わりの始まりは、ユーザーが「EVのほうがお得だな」と思えるようになった時。それには先進国で最低10~15年、途上国だとその倍くらいの時間がかかるだろう
最近は技術の進化が早いから、10年経ったら世の中がびっくりするほど変わってたというケースがままある。
例えば、初代iPhoneが発表されたのが2007年、ソフトバンクがiPhone3Gを初めて日本に導入したのが2008年。
もはや、スマホなしの生活なんて思い出せないくらい昔に思えるけれど、たった10年ちょい前の話なのだ。
だから、クルマの動力が電気に置き換わったら自動車業界の勢力図が劇的に変わるという説には、一定の説得力がある。
テスラに続いて異業種から参入するEVメーカーが増え、自動運転やカーシェアリングの普及によってクルマの価格や保有コストは劇的に下がる。
AppleやGoogleがEVを作ろうって時代に、いつまでも内燃機関にこだわってたら家電やスマホの二の舞でジリ貧ですよ。そんなことを言う人すら少なくない。
でも、果たしてソレって本当なんだろうか?
確かに、新しいテクノロジーの登場で滅びた製品はたくさんある。レコード→CD、フィルム→デジカメ、VTR→デジタルムービー、ガラケー→スマホなどなど……。
しかし、よーく考えてみてくださいな。これらはすべてIT業界における栄枯盛衰だよね?
音楽も映像もムービーも昔はアナログ記録。それが、デジタル技術の発達でより自由に加工/保存できるようになり、その結果としてデジカメやスマホのような新しい商品が生まれた。
“データ”にはカタチも重さもない。だからこそ「半導体の性能は2年ごとに2倍になる」というムーアの法則に則って劇的なコストダウンと性能向上が可能だったのだ。
ボクは、こういう“破壊的イノベーション”がクルマ業界で起きるとは思わない。
もちろん、カーボンニュートラルまであと30年。純粋内燃機関車の販売停止まであと15年。この世界的な流れはもはや決定的と言っていい。
これからの自動車メーカーは、いかにCO2排出量の少ないクルマにシフトしてゆくかがメインテーマ。電動化がその最重要課題なのは疑う余地がない。
しかし、だからといって内燃機関すべてが短時間のうちにEVに置き換わるかといえば、原理的にも商業的にもそんなに簡単じゃない。
バッテリーの性能(エネルギー密度や充電能力)はまだとても内燃機関には及ばないし、EVをリーズナブルな価格で大量に供給するには、それがビジネスとして成り立つためのコストダウンが不可避。それには、おそらく10~15年はかかるだろう。
デジタル業界ではビジネスモデルをガラッとひっくり返すような革命的変化がしばしば起こったが、その原動力となったのはデジタル技術の進化によるコストダウン。どちらが欠けても革命は起きなかったと思う。
ボクは、あと20年くらいは内燃機関とEVは切磋琢磨しつつ共存すると考えているが、そこで最も注目しているのは双方のトータル保有コストがどこで逆転するかだ。
自動車のような高額商品の場合、自分のお財布からお金を払うユーザーは実にシビア。そんなに簡単に新しいものに飛びついたりしない。
プリウスだって本当に売れたのは3代目以降で、燃費性能だけではなく、バッテリーの耐久性やリセールバリューについての不安が解消されてから。そこでようやく普通のユーザーがどっと購入に走ったのだ。
EVについても同じ。補助金など各種優遇措置の有無や充電インフラの整備なんかも関係するが、普通のユーザーが「こりゃどう考えてもEVのほうがお得だな」と思えるようになった時が、内燃機関の終わりの始まり。
前記のとおり、それには先進国で最低10~15年、途上国だとその倍くらいの時間がかかると見ている。
皆さんはどう思いますか?
(TEXT/鈴木直也)
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