開発でぶつかり合いも実は共通していたモノづくり思想
ただ、そうは言ってもやはり異業種。それぞれの商品はシューズとクルマ。大きさも違えば、値段も異なる。
「自動車って年に1回くらいしか新型車は出ないじゃないですか? ミズノさんの場合は(同じ期間で)プロダクトがたくさん出る。(商品化のうえで)そのあたりのスタンスの違いはありました」
こう語るのは、前出のマツダ車両開発本部の梅津大輔さんだが、ミズノ側からみても“違い”に戸惑った部分はあったという。
「もともとの(商品化に対する)常識、プロセスが違うということで、靴のことを知っているデザイナーでは求めないこと、やらない発想がマツダさんのほうから出てくると、これまたひとつチャレンジなんですよ」
開発当初は、互いに「靴のことを、クルマのことをわからない奴が何を言っているんだ」とばかりに意見がぶつかり合い、プロジェクトがとん挫しそうなこともあったという。
しかし、それも両社の人間が腹を割って本音で話し合ったことがターニングポイントとなり、「理由」と「目的」が整理できると、手段の違いはどうでも良くなったという。
ただ、常識や商品化へのプロセスこそ違えど、面白いのは冒頭でも触れたとおり、靴とクルマで意外にも共通する部分があるところ。
「フィット感を目指しているところは、我々が目指している人馬一体と凄く近い」
「それからミズノさんのバイオメカニクスの研究、(これは)競技スポーツを広範囲にされているので人間の動きというところの知見が凄かった。この技術は我々が運転動作を解析するうえで、我々よりもさらに幅広い」
「シューズって本当にタイヤとかサスペンションに近いんですよね」
これは、すべてマツダの技術者から見たミズノおよびシューズ開発の印象だが、こうした共通するモノづくり精神が、今回開発されたドライビングシューズに見て取れる。
ドライビングシューズの常識を破る機能性と快適性を両立?
今回、マツダとミズノが共同開発したドライビングシューズのポイントは大きく3つ。これまたディープなモノづくりのこだわりが詰まっているのだが、ひとつめが「背屈サポートアッパー」とよばれるもの。
こちらミズノが競泳水着開発で培った姿勢制御技術が活かされていて、ごく簡単に言えば背屈=つま先を引き上げる動作をサポートし、ペダルの踏み替え操作や踏み込み量の調整をしやすくするもの。
ふたつ目は「ラウンドソール」で、こちらは読んで字のごとく靴底を立体的な形状とすることでフロア面への接地を安定させ、スムースなペダル操作にも寄与する狙いがある。
そして最後が「ミズノコブ」と呼ばれる独自構造のミッドソールを採用した点。実はこれが製品の肝といえるパーツで、実際に試乗をしてみると、実用性と快適性を見事にバランスさせるシューズの実現に貢献。
今回筆者は、シューズとしての機能性を比較するべく、マニュアルトランスミッション車のユーノスロードスターで、このシューズを試してみたのだが、普段履いている一般的なスニーカーなどと比べて圧倒的にヒール・アンド・トゥがしやすく、それでいてドライビングシューズにありがちな底の硬さはなく、極めて履きやすい一足だった。
普段使いにも恥ずかしくない、シックなデザインを纏ったマツダ/ミズノ ドライビングシューズは、本日7月6日14時よりクラウドファンディングサービスの「Makuake(マクアケ)」を通じて予約受注を開始。価格は3万9600円とそれなりだが、モノづくりのエピソードだけでもクルマとスポーツに感度の高い人の興味を惹きそうなエッセンスが散りばめられていた。
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