■筆者が考えるスカイラインの命運
つい最近もスカイラインの行く末に関するメディアのニュースが物議を醸した。聞いてもさほど驚きはしなかった。
冷静に「またか」と思った。むしろそんなことがまだニュースになること自体、不思議だった。スカイラインって一体ぜんたい、凄いんだか、凄くないんだか。
商品としては、とうの昔に終わった。みんな気づいていたはずだ。最盛期は第三世代にあたる“ケンメリ”で、なんという40年以上も前の話である。振り返ればそこからスカイラインの、否、日産の苦悩は始まったのだろう。
あまりに急激に売れた商品は飽きられるのもまた早い。広がった裾野のメンテナンスも大変である。数字を維持するために文句=市場の声を広範囲に聞く必要に迫られた結果、核心的なイメージもまただんだんとぼやけてしまうもの。
すると肝心のコアなファンからまず離れ、周りの層も憧れの核心的な存在を失い、さらに周りの一般消費者にとっては徐々にどうでもいい存在になっていく。レースで活躍したGT、それに熱狂したコアなカスタマー、憧れて買った人たち。そのバランスが大きくなり過ぎた結果、崩れてしまう。
スカイラインは“ハコスカ”でコンセプトの頂点にたどり着き、その恩恵を“ケンメリ”からの数世代で使い果たしたのだ。
逆にいうと“ハコスカ”が今もなお最もスカイラインらしい一台として人気を集めるのは当然のことだろう。
登った山は降りなければならない。ボクはスカイラインという山をずっと一緒に降ってきた。“ジャパン”以降、スカイラインが本質的に蘇ることなどなかったからだ。
伝家の宝刀GT-Rを久方ぶりに復活させたR32でさえ、R31と肩を並べるのがやっとという始末。この段階で生産台数は“ケンメリ”の半分以下にまで落ち込んでいた。それでも30万台という今にして思えば夢のような数字だったから、日産としても凋落を承知の上で次世代を開発し続けるほかなかったのだろう。
“ジャパン”以降、開発の是非や方向性について問う議論が社内外で延々と繰り返されたに違いない。日産だって黙々と斜面を降り続けたわけじゃなかった。
GTスポーツセダンとしてのイメージを守りつつ、時代の波へのキャッチアップも試みた。R31ではハイソカーブームに乗ろうとしたし、R32では一瞬でも斜面をなだらかにできた。
けれどもスカイラインの命運は確実に尽きようとしていた。麓が迫っていたのだ。
■取り扱いの難しい「GT-R」という劇薬
スカイラインはR34で終わった。
これが最も心の広いスカイラインファンの一般的な認識だろう。事実、販売台数はGT-Rを含めてもR33の3分の1、最も売れたケンメリのついに10分の1にまで落ち込んだ。どうしてか。時代がセダンを求めずミニバン全盛に向かおうとしていた、というのはあくまでも外的な要因だ。
とあるクルマのレゾンデトルはマーケットが決めるもの(例えばミニバンブーム)であると同時に、プロダクト自体が主張すべき(例えばGT-Rを復活させる)ものでもある。そのバランスはブランドやカテゴリーによって変わるが、その取り方を間違うと命取りになる。
R32以降のスカイラインは結果から判断するに間違った。R32で車体を小さくしGT-Rを復活させたまでは良かった。英断だ。
けれどもそのあまりに突出した名車BNR32の誕生は、シリーズ販売台数の凋落に歯止めをかけるほどに強い特効薬であった一方で、甚大な副反応をもたらした。劇薬だったのだ。GT-Rばかりに注目が集まってしまうという、それは以前にはない“病”でもあった。
熱心なユーザーばかりがその病に侵されているうちはまだいい。あまりに日本車離れした高いパフォーマンスで市井の走り屋たちを魅了したのみならず、レースでも大活躍した結果、スタンダードシリーズの開発もまたその改造版であるGT-Rを意識したものにならざるを得なかった。ここに最大の問題があったのではないだろうか。
本来ベースモデルあってこそのGT-Rだ。その開発と販売後の成功のためには100%、GT-Rの存在を忘れた方が良かった。もちろん、そんなことは当時の開発陣も分かっていたはずで、実際、そのように進んだこともあっただろう。4ドアを諦めなかったことなどはその際たる例だ。さらに後、スカイラインと名乗らないGT-Rが誕生した理由もまた、その裏返しだと思う。
けれども100%のエネルギーを標準モデルの開発に注ぎ込めていたのだろうか。少なくとも出来上がった標準モデルからは、特にR34ではスタンダードモデルの魅力をあまり感じることができなかった。
デビュー当初からGT-R頼みであることはスタイリングからしても明らか。もっともR33のコンセプトが全くウケなかったことへの反作用だったのかもしれないけれど。
R32から34までのスカイラインは、雪のない山でGT-Rというコアだけを転がしたようなものだった。それじゃ立派な雪だるまなどできるはずがない。
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