スバルやマツダも自社開発撤退 「軽バン大合併」の裏側にある事情とは?
このように乗用車とは異なる後輪駆動の専用プラットフォームを使う軽商用バンは、OEM車も生産するから成立する。軽自動車は薄利多売の商品だから、独自のプラットフォームを使うとなれば、月平均で7500~1万台は生産する必要があるわけだ。そのために後輪駆動ベースの軽商用車を生産するメーカーは、スズキとダイハツのみになった。
かつては三菱、マツダ、スバルも、軽乗用車と軽商用車を自社で開発/生産して販売も行っていた。しかし近年では、軽自動車も安全装備の義務化などが行われてコストも高まり、メーカーは選択と集中を迫られるようになった。
そこで上記の3メーカーも、軽商用車については、開発と生産から撤退した。ただし販売まで終えてしまうと、顧客が他社に流出して、車検/修理/保険などの仕事まで失う。軽自動車の開発と生産は終えても、顧客は手放したくないので、OEM車を導入して穴を埋めるわけだ。
ホンダも従来は後輪駆動のアクティバンとワゴンのバモスを用意したが、前述の事情により、もはや独自のプラットフォームを備えた軽商用バンは生産できない。
そうなるとスズキやダイハツのOEM車を導入する方法もあるが、今のホンダは、ほかのメーカーとOEM関係を結んでいない。そこでN-BOXをベースに、軽商用車のN-VANを自社開発した。N-VANの届け出台数は、1か月平均で2482台と少ないが、1万8000台近くを販売するN-BOXと基本部分を共通化したから成立する。
新しい軽バン ホンダ N-VAN独自の魅力
エブリイとハイゼットカーゴは、両車ともにエンジンを前席の下に搭載して後輪を駆動する方式だ。そのためにボディの前側が短く抑えられ、荷室長を長く確保できた。
後席を使わない状態の室内長は、エブリイが最大で1910mm、ハイゼットカーゴも1860mmに達する。全長は両車ともに3395mmだから、エブリイでは、全長の56%を荷室長が占める。
一方、N-VANの荷室長は1510mmだ。N-VANはN-BOXをベースに開発されたので、エンジンは前席の下ではなくボディの前側に搭載する。従って荷室長がエブリイに比べて400mm短い。比率に換算すれば、N-VANの荷室長はエブリイの79%に留まる。商用車では決定的な欠点だ。
ちなみにN-VANの前身となるアクティバンは、エンジンを荷室の下に搭載して後輪を駆動した。そのためにボディの前側が短く、荷室長は1725mmだった。エブリイやハイゼットカーゴに比べると短いが、N-VANよりは200mm以上長い。
つまりアクティバンのユーザーがN-VANに乗り替えると、従来は積載できた荷物を積めない心配が生じる。そこに不満のあるユーザーは、アクティバンから、エブリイやハイゼットカーゴに乗り替えてしまう。
そこでN-VANには、荷室長が短い欠点を補うため、エブリイやアクティバンとは異なる独自の特徴が必要だった。それが左側のワイドに開くスライドドアと、助手席の格納機能だ。
N-VANの左側のピラー(柱)は、N-BOXとは異なり、スライドドアに内蔵される。そのために左側のドアを前後ともに開くと、開口幅が1580mmに広がる。タントにも同様の機能が備わるが、開口幅は1490mmだから、N-BOXがワイドだ。
またN-VANでは、後席に加えて助手席までコンパクトに畳めるから、運転席以外はすべてフラットな荷室に変更できる。幅の広い荷物を積む時の荷室長は前述の1510mmに留まるが、カーペットのような細長い荷物であれば、助手席を畳むことで2635mmの長さまで対応できる。
そして助手席を畳んで左側のドアを全開にすれば、長い荷物をリヤゲートからではなく、ボディの左側面から積むことも可能だ。小さなダンボール箱をたくさん積み降ろしするような時も、ワイドに開くボディの左側面とリヤゲートの両方を使えば、数人のスタッフによって素早い作業が行える。
このようにN-VANは、ワイドに開く左側のドアと助手席の格納機能により、軽商用車として新しい使い方を生み出した。今では荷物のサイズや個数、用途などに応じて、N-BOX、エブリイ、ハイゼットカーゴとそのOEM車を選び分けられる。軽商用車は少数精鋭で、日本の物流を支えている。
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