■欧州車のような絶品の走り
そのハンドリングは、まさに絶品。接地性がウルトラ素晴らしかった。タイヤが地面に張り付いて離れない感覚で、意のままに曲がってくれる。私はいまだに、あれほどハンドリングに感動した国産セダンに出会っていない。あのクルマが、それだけ当時の水準から突出していたということだ。
サスペンションは欧州仕様そのままだったので、低速域では硬め。速度が乗るにつれフラット感が出るタイプだった。低速域での当たりの硬さは、当初国内ではクレームが殺到したというが、まだ20代だった私には微塵も硬いとは感じられず、すべてが最高! と感動した。
主力エンジンは2.0ℓ4気筒のSR20型。パワーは150馬力に過ぎなかったが、実用トルクが太く、5速MTを駆使して走れば、十分すぎるほど速く感じた。当時日産は、R32型スカイラインGT-Rのような世界第一級のバカッ速カーもリリースしていたが、P10型プリメーラはパワーを使い切れるせいか、それと比べても十分速く感じたのだから不思議だ。とにかく速度域さえ高ければ、すさまじく気持ちのいいクルマだった。
欧州ではこういうクルマが主流で、だからこそ日産は欧州向けにP10型プリメーラを開発したわけだが、当時の我々は、このテのセダンに接する機会はほとんどなく、ゆえにインパクトは絶大だった。
つまりP10型プリメーラは、日産が作った“ガイシャ”だった。それも、当時日本では超マイナーだったオペルや欧州フォードなどの、地味にどこまでもアウトバーンを突っ走る実用車だ。個人的には、後になってオペル・ベクトラやフォード・フォーカスに乗り、「これってP10型プリメーラじゃん!」と感動した。VWゴルフよりちょい素うどん的、というイメージである。
■プリメーラの乗り味に近いモデルは?
付け加えるとP10型プリメーラは、前席パワーウィンドウのスイッチが、当時の欧州車と同じく、センターコンソール部についていた。料金所では面倒だったが、欧州車かぶれの若きカーマニアにとっては、そんな細かい部分もカッコよく思えた。2代目プリメーラで、パワーウィンドウスイッチがドアに移設された時は、それだけでガッカリしたくらいだ。
2代目はそういった細部や、低速域の乗り心地などが改善され、さらにいいクルマになっていたが、逆に物足りなさを感じたのは、初代ほど欧州向けに特化していなかったからだろう。伝説は、トンがっていなければ生まれない。
そんなP10型プリメーラだが、中古車の流通量は非常に少なくなっていて、執筆時点ではわずか10台(日本全国)。ATなら30万円からあるが、MTだとほとんど100万円以上。最終のオーテックバージョン(180馬力)には、195万円という高値が付けられている。
正直なところ、これからP10型プリメーラのオーナーになるのは、あまり現実的とは言えない。かと言って、こういう乗り味の国産現行モデルはない(私見です)。
乗り味が近くて、中古車のタマ数も多い現実的選択は、先代アクセラではないか。アクセラはP10型プリメーラほどパッケージングにこだわっていないが、かっちり・しっかりしたクロウト好みの走りには共通点があり、欧州での評価も高かった。相場は100万円強が中心だ。
輸入車では、現行型プジョー308。フランス車らしからぬ地味で堅実なルックスや、しっかりした走りには、どこか通じるものがある。こちらも100万円強で手に入れられる。
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