■「生産減のほうが利益率改善」の不思議
ここでの疑問は、これほどの巨大減産に陥りながらも、なぜそれほど業績が悪化していないのかということです。
いま、不思議なことが起こっています。新車の減産が起こると自動車メーカーの利益率が上昇するのです。
リーマンショックの減産期では、ほとんどの国産メーカーは赤字転落しました。コロナは一体何を変えたのでしょうか?
クルマのコスト構造とは、1台生産に連動して比例変動する「変動費」と、本社研究開発人員のように生産とは関係なくかかる費用「固定費」に分かれます。
売上高から変動費を引いたものが「限界利益」と言われ、例えば売上250万円から185万円の変動費を引いた65万円が限界利益です。
一生懸命生産して、65万円×生産台数が固定費を超えれば儲け、それ以下なら赤字。国産ブランドで200万台減産したということなら、計算上は1兆3000億円の利益が吹っ飛ぶことになります。
作れば作るほど利益が出て採算も好転するというのが、高い固定費を抱える装置産業の自動車業界でした。
ところがコロナ禍を受けた今年は、減産したほうが利益率を改善させるという、歴史的な「パラドックス」を演じています。
このからくりは、需要が旺盛なのに、物理的な在庫が消滅してしまったことで説明できます。コロナウイルスは需要を増加させますが、供給を著しく減少させるのです。
この結果、新車の値引きが減少、売れ筋商品に寄せ、販売店への奨励金も減少、広告宣伝費も減少、中古価格上昇、貸倒引当金は繰り戻り益というような、ともかく国産メーカーはいいこと尽くめだったのです。
先述の下方修正企業はこういった効果がやや足りなかったということです。
しかし、この状態はアフターコロナで一気に逆回りとなり、メーカー収益を悪化させる多大なリスクとなりかねないのです。誰が先に沈んでいくのか、先の連載でお伝えできるかもしれません。
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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