■乗って驚愕! その乗り心地とは?
個人的には、93年のモーターショーでのX-90は記憶にない。私が鮮烈に記憶しているのは、実物と初めて対面し、試乗した時のことである。
当時の自分は、フェラーリに人生を捧げる男であり、極めて原理主義的なスポーツカー信者だった。その視点からすると、オープン2シータースポーツとクロカン4WDとの融合であるX-90は、邪道中の邪道。あってはならないクルマに見えた。
乗り味も「ヒドイ!」と思った。まず乗り心地が恐ろしく悪かった。ベースはエスクードだが、最低地上高を40mm落として160mmとしたことで、サスペンションのストロークが短くなり、その影響が出ていた。
エンジンはエスクードと同じ1.6Lの100馬力。そこに 5速MTあるいは4速ATのパートタイム4WDという組み合わせだ。クロカン4WDならこのパワートレーンで何の問題もないが、スポーツカーとして速いはずはなく、高回転まで突き抜けるわけもない。そのわりにリアウイングなんかもついていて、なんちゃってスポーツカー感が非常に強かった。
当時の自分は、「スポーツカーが落ち目だからって、なにもクロカンと合体させなくてもいいじゃないか!」と、心狭く憤ったものである。
が、今は違う。今X-90の写真を見ると、すべてがかわいらしい。この短い車体で高めの車高、小さなキャビン、無意味なリアウイング、安っぽいインテリア。おまけにTバールーフのオープン2シーターだ。これ以上楽天的なクルマはない。それはもう、世の中を完全にブっちぎっている。
■永遠に来ない波を待つクルマ
今や世界で乗用車の主流になったSUVだが、SUVとオープンの組み合わせは、先代イヴォークコンバーチブルなど、ごくわずかな例しかない。それらもすべて不振に終わり、現在は消えている。2シーターのSUVも存在しない。
つまりX-90は、誕生から四半世紀を経た今でも、ありそうでどこにもない、世界で唯一の珍車なのである。X-90はよく「生まれたのが早すぎた存在」と言われるが、この波は、未来永劫やってこないのではないか?
X-90は、発売3年間で、国内ではわずか1348台しか売れず、主力市場の北米でも不振に終わった。結果的にスズキは即断即決で絶版を決めた。ただ、さすがアメリカ。「どうしてもこのクルマがいい!」と言うコアなファンは結構いたという。
現在国内で流通している中古車は、わずか数台になっている。希少車だけに相場は比較的高く、100万円前後が中心だ。アメリカ市場での国産カルトカー人気を考えると、今後、化ける可能性はあるだろう。
【画像ギャラリー】X-90だけじゃない! 90年代スズキが販売した独創的なクルマたち!(8枚)画像ギャラリー
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