■「三菱自動車のDNA」ラリーアート復活への道筋
それでは今回のラリーアートブランド復活の流れを改めて整理してみよう。
2021年5月の「復活宣言」の後、11月にラリーアート復活第一弾となるピックアップトラックのトライトンとミッドサイズSUVのパジェロスポーツの特別仕様車がタイで発表された。
エクステリアでは、かつてのラリーアートモデルを思い起こさせる大きなサイドデカールや、三菱自動車のコーポレートカラーである赤地にラリーアートのロゴが入ったマッドフラップが装着されている。
グリルは標準のシルバーからブラックアウトされ、赤いフロントガーニッシュとのコントラストが目をひく。インテリアにはラリーアートのロゴが入ったフロアマットが採用されている。
三菱自動車にとって最もクルマが売れて利益率も高い、経営再建の頼みの綱であるアセアン市場の中でも、最も市場規模が大きいタイ。
そこでの主力車種である現行トライトンは、デビューからすでに7年近くが経過し、テコ入れが不可欠だった。今回のラリーアート復活による特別仕様車の発売は、タイでの営業現場にとっては渡りに船だった。
そして翌月の2021年12月、東京オートサロン2022で、ラリーアートコンセプトカーが世界初公開された。
フロントグリルや22インチホイールにはラリーアートのロゴの中心部にある10本線があしらわれ、存在感をアピール。
このコンセプトカーは、「内燃機関車によるラリーカー」というこれまでのラリーアートの世界を、PHEVなどの電動車やオンロードに広げていこうという意欲が示された、将来を見すえた1台となっていた。
三菱がそれまでのクロスカントリー車の概念を覆して成功したかつてのパジェロのように、新しい環境の下で新たな市場を切り開いていく都会でも映える三菱らしいクルマを作りたい、という願望をカタチにしたものなのかもしれない。
単に既存の三菱車にスポーティーなアクセサリーを提供するだけにとどまらず、ラリーアートの名前のもとに新しいクルマを作っていく可能性を示唆するこのコンセプトカーにも、三菱自動車復活への思いが込められていたように思えたのは筆者だけではないだろう。
3月17日には、国内でもラリーアートブランドが正式に復活し、クロスオーバーSUV「アウトランダー」「エクリプス クロス」、コンパクトSUV「RVR」、オールラウンドミニバン「デリカD:5」向けのアクセサリーが発売開始となった。
筆者は三菱自動車の本社ショールームで、エクリプス クロスのラリーアートアクセサリー装着車を公開初日に実際に見に行き、写真を撮っていたら、ショールームのスタッフの方たちが「ラリーアートが復活するんですよ」と嬉しそうに話しかけてきてくださった。
また社員の方たちまでショールームにクルマを見にきていた。
さらにその翌日、3月18日には、タイで新型の戦略車「エクスパンダー」に加え、「トライトン ラリーアート」「ミラージュ ラリーアート」が発表されると同時に、「チーム三菱ラリーアート」が2022年8月に開催されるアジアクロスカントリーラリーにトライトンで参戦することも発表された。
筆者は、三菱自動車のマネージャー級の方にお話を伺ったが、「アクセサリーの販売をするだけでなく、ラリーアートが実際にクルマを作ってレースに再参戦する日が来るなんて、本当に信じられなくてびっくりしています、社員の士気も上がりました。これで日本でもラリーに参加してくれればいいのですが」とおっしゃっていた。
筆者が「日本だけではなく、WRCにも再参戦できたらいいですね」と水を向けたら嬉しそうに「それはいきなり無理でしょう」と笑っていた。社員の方達にとっても、ラリーアート復活というのは喜ばずにはいられないニュースだったのだろう。
「チーム三菱ラリーアート」はタイのタント・スポーツが運営するプライベートチームではあるものの、今回「ラリーアート」のブランドを背負って三菱自動車の技術支援を受ける上、総監督には40年間三菱のラリードライバーを務め、2002年、2003年とダカールラリーを2連覇した増岡浩氏が就任したことからも、セミワークス的な立ち位置であることがわかる。
増岡浩氏はこうコメントしている。
「三菱自動車は長年にわたり世界ラリー選手権やダカールラリーなどに参戦し、それぞれで頂点を極め、どんな天候や道でも安心して楽しめる三菱自動車らしい走りを実現させてきました。
今回の技術支援という形でのアジアクロスカントリーラリーへの挑戦は、アセアンでの主力商品であるピックアップトラックやクロスカントリーSUVの商品強化に繋がる活動です。ファンの皆様のご期待に沿えるよう、しっかりと準備をすすめてまいりますのでご期待下さい」。
アジアクロスカントリーラリーは、タイを主な舞台とするFIA公認のレース。過去2年間はコロナ禍で開催されなかったが、2019年はタイのパタヤからスタートし、ミャンマーのネピトーをゴールとする合計約2200kmにもおよぶ6レッグを7日間で競うというものだった。
四輪部門は34チームがエントリーし、総合優勝はランドトランスポート・アソシエーション・オブ・タイランドいすゞのピックアップトラック、D-MAXで、7連覇達成となった。
はたして今年は、ラリーアートのトライトンが、いすゞD-MAXの8連覇を阻み、ラリーアートのモータースポーツ復帰初戦を飾ることができるのだろうか。
三菱自動車が最も多くのクルマを売り、高い利益率を維持しているアセアン市場。オフロードで速くて曲がり、耐久性に優れた4WD技術を持つ三菱自動車「らしさ」が最も強く発揮されている。
そこでの電動車への移行にあたっては、充電インフラの整備の難しさから、先進国のように純粋なBEVに一気にシフトするのではなく、三菱自動車の得意とするPHEVへの移行が主流となる。
アジアのモータースポーツ界でラリーアートが成功すれば、成長を続けるアジアの自動車市場での三菱自動車のさらなる成功につながり、三菱自動車の完全復活が見えてくるだろう。
その意味でも、8月のアジアクロスカントリーラリーでのラリーアートの活躍に期待せずにはいられない。
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