エンジンは、いつのまにか、排気量を下げてターボを付け、パワーと燃費を両立させるダウンサイジングターボが主流になった。
実はそのダウンサイジングターボの考え方はもう古く、今では下げすぎた排気量を適正化するライトサイジングターボ、または排気量をアップして燃費をよくするアップサイジングターボが主流になりつつあるのだ。
そうした排気量を上げて、パワーと燃費をよくするカラクリはどんなものがあるのか? モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する!
文/高根英幸
写真/ベストカーWeb編集部、トヨタ、日産、マツダ、VW
■排気量をアップして適正化するライトサイジング
プリウスが2代目から3代目の30プリウスにフルモデルチェンジした際、エンジンの排気量が1.5Lから1.8Lに拡大された。これは当時、ちょっとした騒ぎになった。
自動車税が上昇するのはエコカー減税でカバーできるから問題ないとしても、燃費を追求するハイブリッドカーが排気量を拡大してきたのだから、自動車評論家の間でも評価は分かれるほど、それまでの常識とは外れた仕様だったのだ。
もちろん30プリウスが排気量を拡大したのは、燃費性能を引き上げるためだ。というのも排気量を拡大したことで高速巡航時に余裕が生まれて実用燃費が向上しただけでなく、低速トルクが増大したことで全体的にエンジン回転数を抑えることができる。
さらに軽負荷時には外部EGR(排気ガス再循環装置)やアトキンソンサイクルを利用して、吸入する混合気の量を調整している。
補機類の変更で駆動損失を減らしているなど、エンジンの回りの抵抗軽減も燃費向上に貢献しているが、排気量を拡大したことによって燃費改善も果たしているのである。
4サイクルエンジンは吸入、圧縮、膨張(燃焼)、排気という4行程を効率良く行なうために吸排気のバルブを制御しているが、アトキンソンサイクルは吸入行程で目一杯吸い込まないようにすることで少ない混合気で吸気行程を終えて圧縮のポンピングロスを減らし、膨張行程は通常通り行程目一杯で燃焼のエネルギーを回収する。
ガソリンエンジンは吸い込んだ空気の量に合わせて燃料を噴射してやらないと、排気ガス中のNOxやCO、HCといった有害成分を触媒で還元して無害化することができなくなる。したがって燃料の噴射量を減らすには吸入する空気を減らすしかない。
例外はまもなく登場するスーパーリーンバーンを実現したマツダのSKYACTIV-X(詳しくは後述する)だけだ。
■ライトサイジング、アップサイジングという考え方
マツダの「ミスターエンジン」こと、人見光夫氏(常務執行役員・シニア技術開発フェロー )はかねてから、ダウンサイジングエンジン搭載車は実用燃費が悪くなりがちで、過給器のコストが高いことを問題視しており、内燃機関技術の本筋は燃焼の最適化で、過給器は飛び道具だと主張する。つまり、排気量はある程度確保したほうがいいということ。
こうしたアップサイジング(排気量アップ)またはライトサイジング(排気量の適正化)という考え方で、2.5LガソリンNAエンジンをはじめ、2.5Lガソリンターボ、1.3Lから1.5Lに排気量アップされたデミオなどが、このコンセプトを取り入れている。
このライトサイジングは実はアウディが使い始めたもので、2015年に発表したA4は1.8Lからミラーサイクル+直噴ターボを採用したウルトラと呼ばれる2L、直噴ターボに変更し、11.8:1という過給器付きガソリンターボエンジンとしては高い圧縮比で190psのパワーと燃費を両立。実に33%向上の18.4km/L(JC08モード)を達成している。
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