■トータルではガソリンエンジン車の勝利‼
日本市場でのLCAにおけるCO2排出量の評価は、約11.5万kmまではバッテリーの生産時CO2が多いBEVのほうが、ディーゼルやガソリン車よりも排出量が多く、そこからは電費のよさでBEVが逆転するが、16万kmでリチウムイオンバッテリーを交換するため、そこからは再度逆転してエンジン車のほうが排出量が少なくなるのだ。
20万kmまでの走行ではBEVが逆転することはできないから、エンジン車のほうがエコという結果になった。
現時点ではガソリン車のほうが、トータルではエコだと言える。
しかしリチウムイオンの製造過程でCO2排出量が減らせたり、発電時のCO2が減れば、BEVは確実にエコなモビリティとなるため、伸びしろはBEVのほうが多い。
エンジンが生き残っていくには、これまで以上の頑張りがエンジン関連のエンジニアに求められることになる。
■米国や欧州では日本と結果が異なる!
これが他の地域では、また異なる結果となるから面白い。オーストラリアでは石炭火力の発電所による発電が多くを占めているためBEVの場合、ガソリン車を下回る領域は存在しないことが分かった。
一方で米国はガソリン車のカタログ値が低く(13. 2km/L)、太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーによる発電が多いためBEVが6万kmでガソリン車を逆転し、環境負荷が低いことが分かった。
欧州ではガソリン車が7.6万kmでBEVに逆転され、そのままBEVのほうが優れた数値を示し続けるが、ディーゼル車は燃費性能が発揮されるため、日本と同じようにBEVと2度の逆転をして一番低い排出量となっている。
中国は石炭火力が多いイメージだが実は再生可能エネルギーによる発電も進んでおり、トータルで見ると日本に近いグラフ形状を示してガソリン車とBEVが拮抗し、最終的にガソリン車の方が排出量が低いことがわかった。
■バッテリーの評価をどう見るかでBEVの排出量が大きく変化
16万kmで新品同等のバッテリーに交換して4万kmしか走行せずに廃車することになるのは、やや現実的ではない気がする印象をもつ方もいるだろう。
この場合、リビルド品(中古の不良セルを入れ換えたもの)のバッテリーに交換すれば新品とはCO2排出量が異なるため、BEVでも環境負荷をさらに抑えることができるし、20万km以上走行することもできるかもしれない。
もっと厳密に語るなら、BEVのバッテリー生産時のCO2排出量は、あまり正確なモノとは言い難い部分もある。参考にしているのは様々な文献だが、米国やスウェーデン、ノルウェーの研究機関が発表しているリチウムイオンバッテリー生産時のCO2排出量は、データによって2倍も開きがあるのだ。
ということは現状ではBEVの生産時CO2排出量はもっと大きいことも考えられる。ただし、技術革新によりバッテリーの生産やリサイクル時のCO2排出量はどんどん削減できる可能性もある。またガソリン車のカタログ燃費が低い地域(米国13.2km/L、中国16.1km/L)では、本当にこんなに燃費が低いのか確かめてみたい気持ちもある。
やはり考えれば考えるほど、こうした問題は厳密にしたくなるために根拠やデータに正確性を求めたくなる。つまり現状の研究結果では、何となく不明瞭な点が残ってモヤモヤしてしまうのだ。
では、こんな研究をする必要などないではないか、と思われる読者諸兄もおられるかもしれない。だが、不正確なデータであることを承知でこうして結論を出すことで、皆が現状を知って考える機会になることは重要だ。
これがクルマにおけるLCAの現時点での限界ということが広まることで、より正確なデータを提供しようとする機関も現われるだろうし、新たな算出方法を生み出す研究者も出てくるかもしれない。
自動車メーカーのPRのために都合よく使われるだけでなく、本当にエコで快適なモビリティ社会を目指すために、これからLCAを意識していくことは大事なことなのである。
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