■WLTCモード燃費はJC08モード燃費とどこが違うのか?
WLTCモードの測定試験の特徴は、車種ごとに3つのモード、「市街地モード」、「郊外モード」、「高速道路モード」が設定されていることだ。従来の計測モードよりも実際の走行条件に近い状態で測定されるため、従来の計測方法よりも実燃費を推定できるとされている。
具体的には以下のような走行モードを想定している。
●市街地モード:信号や渋滞等の影響を受ける比較的低速な走行
●郊外モード:信号や渋滞等の影響をあまり受けない走行
●高速道路モード:高速道路等での走行
ところで、WLTCと合わせて「WLTP」という用語を目にするが、「WLTP」は「Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure」の略で、「乗用車等の国際統一排ガス・燃費試験法」を意味する。
国際的に整合性の取れた標準的な試験方法を確立することで、国や地域ごとに個別に決められていた排ガスや燃費の試験方法を統一して、一度の試験で多くの国での認証に必要なデータが取得可能になるメリットがあり、「WLTC」は「WLTP」による具体的な燃費試験とその結果となる。
■シャシーダイナモでモード燃費を計測
ここでいわゆる「モード燃費」について触れておきたい。モード燃費、いわゆるカタログ燃費はメーカーが国交省から型式認証を受ける際に承認される燃費値であり、カタログに記載が義務化されているため“カタログ燃費”とも呼ばれる。
JC08や新たに導入されたWLTCのデータは、試験機であるシャシーダイナモメーターを使用して、シャシーダイナモのローラー上で一般的な実走行を模した運転パターンで走行試験を実施することで、燃費と排ガスの量や性質を測定する。
当然ながら試験モードは、より実走行に近づけるように日本の交通事情の変化に応じて見直しを受けてきた。とはいえ、実際に路上を走行して燃費や排ガス量を高い精度で計測するのは、試験結果が運転条件によって大きく変わるので難しい。
モード試験では、常に同一条件で試験されることが大前提となる。まず、事前に試験車両の走行抵抗を計測し、シャシーダイナモメーターに実走行相当の抵抗や負荷を設定する。
この場合、試験室の温度と湿度、試験車の暖機状態、空気抵抗を考慮して車速に応じた送風など、環境条件を常に共通として、実走行により近い条件を作り出すことになる。
■実燃費との乖離(かいり)はJC08モードに比べて少なくなったのか?
WLTCモードは別表のように、JC08モードに比べて「最高車速が高い」「加減速が多い」「走行時間や距離が長い」といった特徴がある。
このほか、重要なポイントは4つある。まずアイドリング時間が減少すること。アイドリング時間比率はJC08モードの29.7%から15.4%と14.3%も減少する。
次にクルマのエンジンが温まった状態で試験を行うホットスタートがなくなること。
JC08モードではホットスタートが75%で、エンジンが冷えた状態からスタートするコールドスタートが25%の比率で燃費を算出していたが、WLTCではコールドスタート100%になるのだ。
試験車両の重量の違いについてもJC08モードとWLTCモードは大きく違う。JC08モード燃費では2名乗車による+110kgであったのに対して、WLTCモードでは1名乗車+荷物相当の100kgに、そのクルマの積載可能重量+15%にして審査を行う。そのため、WLTCモードのほうが重量の重い状態で試験をすることになる。
また、JC08モードの「等価慣性重量(燃費試験時のシャシーダイナモメーターに設定する負荷)」において、ステップ状に設定された区分(重量)に合わせて、特定のグレードのみ軽量化し、軽い区分にギリギリ滑り込ませるような手法は、今後できなくなる。
国土交通省としても、ステップレス化によって、燃費スペシャルグレードが生み出されることへの歯止めになると考えているとのことだ。
JC08モードとWLTCモードの計測方法の違いをまとめると以下のようになる。
1/試験車両の重量の増加
2/平均速度が上昇
3/最高速度が上昇
4/走行時間、距離が増加
5/アイドリング時間が減少
6/コールドスタートのみ
7/加減速の増加
8/燃費スペシャルグレードがなくなる
過去に遡れば、従来のJC08モードによる測定が義務付けられたのは2011年4月(輸入車などの一部は2013年3月)と10年近く前になるのだから、ハイブリッド車の増加などを考えれば、新基準の導入は当然ともいえる。
結局、JC08モードからWLTCモードに変わると、燃費が悪化するのか?
国土交通省と資源エネルギー庁が共同で行っているワーキンググループが発表した資料によると、ハイブリッド車や軽自動車(アイドリングストップ機能付)などの、JC08モード燃費がいいクルマほど、WLTCモード燃費が悪化し、30㎞/L超のクルマでは、5㎞/L以上悪化という結果が出ている。
要因としては、WLTCモードが冷機状態から試験を開始するため、オイル粘度が増加し摩擦損失が増大するためと考えられる。
特にハイブリッド車は、低速時にEV走行するのでより暖気が遅れ、さらに触媒温度を上げるために、エンジン作動時間が増えることで悪化しやすくなる。
またアイドリングストップすることで燃費を稼いでいたクルマも、その時間が短縮されるため燃費が悪化するとのこと。アイドリングストップなどの機能を搭載しないクルマのほうが、相対的によくなることも考えられるそうだ。
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