【あおり運転を遭わないために】 あおる人の心の中身を交通心理士に聞く

【あおり運転を遭わないために】 あおる人の心の中身を交通心理士に聞く

 4人が死傷した東名高速での悲劇が発生したのは2017年6月のこと。あおり運転を行った被告には危険運転致死傷罪が適用され、あおり運転は重い罪に結びつくということを知らしめる重要な判例となった。

 にもかかわらず、あおり運転はなくならない。下グラフはあおり運転に対して適用される道交法のなかのひとつ、「車間距離保持義務違反」の摘発件数の推移を示したもの。

 警察が2018年1月以降、取り締まりを強化したこともあるが、昨年は1万3000件を超えるあおり運転が行われたということになる。

 そして今年8月の常磐道あおり運転暴行事件である。高速道路上に被害者車両を停止させ、暴行を加えるという悪質な事件だ。

 政府与党はあおり運転に対しての厳罰化を視野に、法整備を目指すが、根絶はそう簡単ではないだろう。

 今回は「そもそもなぜ彼らは煽るのか?」という視点から、交通心理士志度堂寺和則氏へのインタビューを皮切りに、「あおり運転に遭わない方法」を探ってみたい。自動車評論家3氏に聞いた、あおり運転に遭わない運転術も必見だ。

※本稿は2019年9月のものです
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年10月10日号


■あおり運転をするドライバーの精神状態を、交通心理士に聞く

(解説/志堂寺和則)

 あおり運転をしている人の心理状態ですが、当たり前ですがカーッとなっています。急に割り込まれたり、前をゆっくり走るクルマがなかなか抜けないなどがきっかけとなって怒りの感情が沸き、あおり運転という行為になるのですが、そういう状態にあるドライバーの心には、危ないことをしているとか、悪いことをしているという意識はまったくないと思います。

 あおり運転を行ってしまう心理には匿名性という問題が絡んできます。多くのクルマが走っているのだから、自分を特定するのは難しいだろうと考えるため、あおるという行為に出てしまうのです。

怒りの制御は難しい。あおり行為を防ぐクルマ側からの支援も期待したいという志堂寺氏

 またクルマに乗っていると安全だと思ってしまうという面もあります。鉄のボディに守られているため、ちょっと車間を詰めたりしても危なくないと考えてしまうのです。

 あおり運転をする人は特殊なのかというと、ふたつのタイプに分けられると思います。ひとつは普段から攻撃的な人。いろんなところでトラブルを起こしてる人で、そういう人はクルマに乗っても同じです。

 もうひとつは普段は大人しいのに運転すると人が変わるというケースですね。このタイプの人は本来攻撃的な性格を持っているのですが、日常生活では抑えています。ですがクルマの中はプライベート空間であり、先に言った匿名性やスピードがもたらす高揚感も絡んできて本来の攻撃性が顔を出すのです。

 あおり運転をするドライバーというのは、ほとんどが男性です。女性はあおるという行為をめったにしません。女性は運転が苦手とか怖いという意識を持っている方が多いからです。

 逆に男性は自分の運転に自信を持っている人が多い。だから事故を起こすかもとは考えずに、あおり運転をしてしまうのです。

 2017年の東名高速での件があれだけ報道されても、あおり運転が減らないのは私も正直、不思議です。怒りで理性が飛んでいるのでしょうが、ああいった事故、事件は自分とは関係ないと思ってしまうのかもしれませんね。

(九州大学大学院教授、日本交通心理学会事務局長)

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