国内の累計販売台数では、ダントツのトップを快走するプリウス。昨年12月のデビューだが、今年9月までに累計で18万6190台を販売、2位アクアの13万1870台を大きく引き離す好調ぶりだ。
しかし、国内の盛況とは裏腹に北米では意外にも販売不振なんだとか。なぜそんな現象がおきるのか?
また国内では人気なのに、海外では今ひとつ振るわない車種がほかにもある。本記事では、そんな「内弁慶」なクルマの謎に迫る。
初出:ベストカー2016年11月26日号
北米で、ここ5年で最も苦戦中のプリウス
冒頭でも挙げたように現行プリウスの国内販売は堅調だ。今年9月も1万7520台を販売し、登録車全体でのトップ。月間平均販売台数も2万600台と国産車唯一の2万台レベルをキープする。
ところが、このプリウスが振るわないのが世界第2位の新車市場である北米だというから、ちょっと驚きである。
米国ではプリウスは歴代モデルが人気車として確固たる地位を築いてきており、レオナルド・ディカプリオらハリウッドセレブたちがこぞって愛用していたのも有名な話だ。
しかし、今年の1~9月までのプリウスの米国での販売台数は、なんと対前年同期比26%減の9万3083台にとどまっており、ここ5年間の最小販売台数になる可能性も高いという。日本での半分というから、これはただごとではない。
とある米国のアナリストは「まるでポンティアックのアズテックのようなゴテゴテしたデザインも原因では」とその不振の要因を指摘する。
ちなみに北米での昨年の新車販売台数は約1750万台と世界で2位。いっぽうの日本は約504万台で3位だ。日本の3倍以上の市場規模を誇る米国での不振が浮き彫りとなってしまっているのだ。
販売不振の主因はなにか。米国ダラスを拠点とするモータージャーナリスト、桃田健史氏は次のように分析する。
「プリウス不振の理由、これはまず米国内でのガソリン価格が低いことに尽きる。というのも米国内でレギュラーガソリンの価格は現在、1ガロン2ドルちょっとでこれは日本円でだいたい1Lあたり60円くらい。
感覚的に日本の半額近くに下がっているため、そうなると米国のユーザーは大型のピックアップトラックなどに目が行き、商品トレンドとしてプリウスなどのエコカーは立場的にきつくなる」
さらに、居住性や使い勝手などの実用面でも現行型は苦戦の要因があるという。
「ホンダが先代インサイトを北米で販売したけど売れなかったのは、ラゲッジの狭さや収納スペースなどユーティリティに問題があったから。現行プリウスは同じ轍を踏んでいるように思う」(桃田氏)

レヴォーグ不振、英国ではテンロクターボが高価?
北米での販売絶好調が続いているスバル。これはフォレスターをはじめ、XV、そしてレガシィアウトバックといったクロスオーバーモデルが販売を牽引しているためだ。
今年3月期にはグローバルで95万7900台を販売し、あとひと押しで100万台突破というラインまで来ている。
しかし、そのスバルが苦戦しているのが欧州市場だ。5年前の2011年3月期に2万8100台だったのが、今年3月期には4万1800台にまで伸ばしているものの、スバルの世界販売台数に占める割合としてはわずか5%弱に過ぎない。
なかでも2014年6月に国内販売が始まったレヴォーグは、欧州市場での苦戦が伝えられている。レヴォーグは、スバルのラインアップからなくなったレガシィツーリングワゴンの後継モデルとして、当初は国内専用車として投入された。
ところがその後、ステーションワゴンの需要がある欧州にも投入された経緯がある。昨年3月のジュネーブショーでレヴォーグの欧州仕様が公開され、同年9月からスバルUKが英国で販売が開始されているのだ。
英国で販売されているのは1.6Lターボ車のみ。日本では、ベーシックな1.6GTアイサイトが277万5600円、上級グレードの1.6GTSアイサイトが305万6400円なのに対し、英国での「LEVORG 1.6 DIT GT」には2万7495ポンドのプライスタグが付けられている。
これは日本円で約348万4300円(1ポンド=約126円、10月現在)となり、明らかに割高なのだ。
これについて、販売事情に詳しい自動車評論家の渡辺陽一郎氏は次のように指摘する。
「北米と違い、欧州はなかなか日本メーカーが切り崩せない市場で、レヴォーグにしても2万7495ポンドという価格には10%ほどの関税が乗せられているはずです。
レヴォーグの英国での競合モデルですが、本来なら1万8000ポンドのVWゴルフエステートでしょうが、2万8000ポンドでアウディA4アバントがねらえます。正直、CセグメントのレヴォーグでDセグメントのドイツ御三家モデルを相手にするのは荷が重い部分もあると思います」
GT-R苦戦。『ワイルドスピード』のブームも今は昔
今年7月のマイチェンで2017年モデルへと進化したGT-R。その効果もあって今年9月の販売台数では、対前年同月比254.8%の大幅増となる158台を販売している。
昨年は1年間で653台だったのが、今年は9月までにすでに514台を販売し、昨年を超えてくる可能性が高まっている。
いっぽうで日本の3倍近い新車市場を持つ北米だが、GT-Rの北米での新車販売台数はここ数年、1200~1400台前後で推移している。
不振というほどではないかもしれないが、スポーツカー需要の高い北米での販売の伸びがイマイチなのはなぜなのか。
北米市場に詳しい桃田健史氏は次のように分析する。
「もともとGT-Rは、あの価格帯にしてはコストパフォーマンスの高いスーパースポーツとして北米でも受け入れられた。北米では一時、映画『ワイルドスピード』の影響で盛り上がったR33~34スカイラインGT-Rの並行輸入など“スポコンブーム”もとっくに終わり、今もなお熱狂的な、昔ながらのロータリーファンのような存在がR35GT-Rにはいない。
つまり、R35のユーザーはファン歴が短く、すでに飽きて手放してしまっている人も多いのだ。かといって2000万円以上のNSXなど、その上のスーパーカーを購入する層にとってはアピール力がやや弱い。結果的に、それらより価格が安いことがGT-Rの存在を中途半端にしてしまっている」