日本でアメリカ車が売れるようになる…のは無理がないか
日本の自動車メーカーは、1980年代以降アメリカ国内に多数の製造拠点を構え、累計約660億ドルを投じてきた。これにより現地生産・現地開発体制が確立し、現地ニーズに即応できるサプライチェーンと販売網が整備されている。
対照的に、GM、フォードをはじめとするアメリカ車メーカーは日本国内に自社工場を持たず、輸入に依存する状況が続いている。実質的に「販売代理+輸入」モデルで、市場インフラ(販売店網・R&D拠点・サプライヤー連携)が整備されていないため、整備やサービス、デリバリーの遅れやコスト高が避けられない。
また最大の問題として、日米間の消費者認識とライフスタイルのミスマッチがある。日本の都市構造や道路事情では、アメリカ車が得意な全長4.7 m超の大型SUV/トラックが“そもそも運転しにくい”と敬遠されがちといえる。日本人ドライバーはコンパクトで燃費のいいクルマを好むため、現行アメリカ車のラインナップが合致しない。
こうした実情があったうえで、2025年前半の輸入車市場におけるアメリカブランド比率は(輸入車内でも)7.8%にとどまり、欧州勢や国内ブランドと比べて圧倒的に低比率な状況にある。
これらを埋めるためにはアメリカ車メーカーの大規模な商品開発や拠点整備、供給網の設置と整理が必要だが、いまの日本市場に対してアメリカ車メーカーがそうした投資をする…というのは現実的なのだろうか(合意があった5500億ドルの投資枠を使うのだろうか?)。
そもそも論でいえば、トヨタやホンダは早くから世界各地の消費者ニーズを組み込んだ車種開発を推進してきた。特に小型から中型車で培った燃費性能・信頼性技術を投入し、アメリカだけでなく世界各地域でヒットモデルを生み出している。
一方アメリカメーカーはSUV/ピックアップトラックや大型車主体のポートフォリオ最適化に注力してきたため、コンパクトカーやハイブリッド、EVといった“都市型モビリティ”セグメントへの投入が遅れている。
いまGMやフォードのクルマを日本へ持ってきて「さあどうぞ買ってください」と言われても(たとえ認証がスムーズになり、ディーラー網が整備され、車両に補助金が多少上乗せされたとしても)、日本車なみに売れるとはとても思えない。
根本的に「勝負してきた土俵」や姿勢が異なる状況で、この差を埋めるまでの材料は示されていない。そうなると、問題視された「貿易赤字/黒字の不均衡」は変わらないのではないか。
結局どうなるの? どうすりゃいいの?
日米関税15%への引き下げは、日本の自動車メーカーにとって緊急リスクを回避する“大勝利”といえる。株価も急騰し、5500億ドルの投資で雇用・インフラにも光明がさした。
その一方で、安全基準承認の運用、他国との歪みなど多くの課題が残る。
規制緩和に加え、商品魅力向上、技術開発、他国との協調ルール策定を並行して進めることが、「自由経済の真の発展」に向けた次の大きなテーマと言えるだろう。
まずはおつかれさまでした。GJでした。
そのうえで、日本政府には今後も交渉の最前線で挑戦を続けてもらいたいし、自動車メーカー各社は根本的な「アメリカ市場依存」からの脱却と、供給網の多様化、バッファの整備を進めてもらいたい。
つくづく大変な時代になったなとは思うが、自動車は我が国の根幹を支える基幹産業であることに変わりなく、日本経済と雇用を支えるエースであり四番バッターであり続けている。
今回日本政府が示した5500億ドル(80兆円)という途方もない投資額は、アメリカだけでなく日本企業にも資するよう、うまく活用していただきたい。

コメント
コメントの使い方