日本時間3月1日、トランプ米大統領は初の施政方針演説を行い、そのなかでも改めてTPPからの即時離脱を強調した。
TPP離脱は日本の自動車メーカーにどのような影響をもたらすのか? 国沢光宏氏が解説する。
文:国沢光宏/写真:TOYOTA、編集部
ベストカー2017年3月10日号
トヨタやホンダは米国販売のほとんどを現地生産している
結論から書くと「TPPなどまったく関係ない」と言ってよかろう。そもそも日本の自動車産業は国境という概念がなくなりつつある。
1980年代に勃発した日米の貿易摩擦問題で、日本からの自動車輸出を自主規制(事実上は強制)したのを機に、続々とアメリカ国内に工場作った。
その後、1ドル=90円を上回る円高になると、日本で生産したクルマをアメリカに輸出しても利益があがらない状況になってしまう。
やむを得ず日本からの輸出を減らし、アメリカでの生産を増やしていく。その結果、日本からの輸出比率が高いトヨタですら、カナダとメキシコを含む北米大陸で212万台を生産し、アメリカで250万台を販売。
日本などからの輸入は38万台にとどまった。
また、日本からの輸出が最も少ないホンダの場合、北米大陸の生産台数は195万台に達しており、アメリカで164万台販売した。つまり、大半は現地生産なのだった。部品の現地調達率も95%以上である。
最近メディアで「日本からの輸出には乗用車が2.5%、SUVに対し25%の関税がかけられる」と報じられているけれど、基本的にはハイブリッド車など、日本でしか生産していない車種のみにかけられている状況。
日本のメーカーが販売しているSUVは、大半がアメリカかカナダの工場で生産されているため、TPPの発効で関税ゼロになっても(しかも関税ゼロは25年かけて行われる)、ほとんど影響ありません。
懸念はTPP離脱よりも日本国内の税制度
むしろ日本国内の法規のほうが問題になると言われていた。例えば自動車税。現在我が国の自動車税は、アメリカから輸入される大排気量車を贅沢品と位置づけた戦後のまま。排気量で自動車税を決めている。
これをアメリカ側から「非関税障壁」と指摘されていたため、軽自動車を含め抜本的に見直さなければならないとされていたワケ。軽自動車税の値上げも、TPPを視野に入れたものだと言われている。
そんなこんなで、自動車産業は最初からTPPなど「どうでもいい」と思っていた。実際、トランプ大統領が「やめた」とサインしたって、どのメーカーも微動だにしていない。
むしろ心配してるのは、アメリカとの二国間協定やメキシコ工場の扱いである。TPPがなくなったことで、今後の問題はアメリカと個別交渉していかなければならない。すでに「アメリカ車が日本で売れていない」などと言い出した。
国産メーカーのメキシコ工場には暗雲
今後どうなるのか?
まずメキシコ工場だけれど、これは厄介なことになりそうだ。すでにトランプ大統領はNAFTA(カナダとアメリカ、メキシコ間の関税をゼロにするという協定)を見直すと公言している。
もちろん簡単じゃないと思う。ただ、メキシコで生産したクルマをアメリカで売ったら、どんな「嫌がらせ」を受けるのか読めない。そもそもメキシコに工場を作ること自体、あまり正しいことじゃなかった。
自動車のように大きな雇用を生む製品は、本来、消費される国で生産されるべきだ。これはもう世界的なコンセンサスになっている。
日本の自動車メーカーはNAFTAがあるからと、北米で最も労働コストの低いメキシコを選んだけれど、あまり正しい選択じゃなかったと思う。
なかでもマツダのようにアメリカの工場を閉めてメキシコに進出したような企業については、今後強い向かい風が吹くような気がしてならない。
もちろん短い期間でトランプ大統領がいなくなればメキシコ工場だって安泰だけれど、企業はそんな「たられば」を期待しちゃダメである。
今後、メキシコ工場で生産する車両に関しては、アメリカ以外で販売する(カナダや中米、南米など)方向で考えることになるだろう。
「アメリカで売るクルマはアメリカで」が基本になっていく。もちろん夏から寄居工場で生産を開始するアメリカ向けシビックも、輸出は厳しいだろう。
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