日本自動車メーカーのなかでも指折りの「車好き」として知られるトヨタ自動車代表取締役社長・豊田章男氏。
自らハンドルを握って新型車のテストをこなすだけでなく、レースやラリーに出場してレーシングドライバーなみのラップタイムを刻み、見事なドリフトを決める。
そんな豊田章男社長の人となりを、その発言から探っていきたい。
文:ベストカー編集部
ベストカー2017年5月10日号
工業製品で「愛」が付くのは車くらい
「もっといいクルマを」、「ワクワクしなければクルマじゃない」、「楽しくなければクルマじゃない」
これらは折に触れ豊田章男社長が言い続けている言葉だ。
豊田社長はこれまでのトヨタ自動車歴代社長……いやいや、日本の自動車メーカー社長とはちょっと違った発言、考え方で自動車メーカーの存在意義を伝えようとしているのだろう。
まずは社長である自分自身がクルマ好きであり、クルマを楽しみ、そのために『いいクルマ』、「楽しいクルマ」を送り出していく。そんな気持ちが込められていると感じられる。
「工業製品で〝愛〟という言葉が付くのはクルマくらい。〝愛車〟という言葉はあるが、他にはそういうものはありません」
上記の発言にはクルマというものの価値観を積極的に伝えていることが感じ取れる。
豊田社長は自身がクルマ好きで運転することも好きだということを全面的にアピールしている点でも日本の自動車会社社長としては異例の存在。
積極的にテストコースに現われては開発車に試乗をすることでも知られている。テストドライバーの成瀬弘氏に直訴してドライビングの手ほどきを受けたというのも有名な話で、モリゾウの名でモータースポーツにも参戦している。
社長がハンドルを握ってなにが悪いのか
「社長になってから運転機会は減りましたが、新型車の乗り心地やデザインなど含めて私自身が運転確認して常に最良の商品をお届けすることが自動車メーカーの経営トップの使命と考えています」
これは社長就任後に自分自身で運転していることについて社内的に自重を求められたことに対しての発言。「自動車メーカーの社長が自分でハンドルを握ってなにが悪いのかという気持ちもあります」とも言っている。
これらはクルマの楽しさを若い世代へ伝えるための大きな力となっている。
いっぽう経営者としての考えを感じさせる発言も印象的なものが数多い。
「やっかいなのが成功体験。世の中は変わったのに、以前はこれで成功したとか、なんで変えるのかといいだしたとたん、成長は止まります」
これこそがトヨタ自動車が継続的に抱いている経営方針なのだろう。常に変わり続けることで時代にマッチさせて成長を止めない。
「持続的成長のためには仕事のやり方を変えなくてはならない」、’14年度決算発表の場で発言した「意思ある踊り場」も今後の持続的成長のためにあえて立ち止まることも必要だ、という意味だった。
いっぽうで「打席にたたなくては始まらない。打席にたってもバットを振らなければ絶対にヒットは生まれない。積極的にバットを振って三振したのなら、それを攻めることはない」という趣旨の発言も豊田章男社長らしい考えだ。
こうした持続的成長のために、過去の成功体験に立ち止まることなく常に変化を求めるなかでのひとつの方向が、2016年3月に発表し、2017年4月より移行することになった「カンパニー制」(※)だということだろう。
運転技術はトップガン(=トップレベルのテストドライバー)折り紙付き。1956年5月生まれで今年61歳となる。『ベストカー』本誌の超愛読者
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