ホルムズ海峡封鎖が長引くと石油だけじゃなく「バンパー」も「タイヤ」も「塗装」も止まる──「ナフサ依存」の実態

中東依存度──「7割」と「4割」の二層構造

 ここが最も誤解されやすいポイントだ。石油化学工業協会(JPCA)の統計によれば、2024年の石化用原料ナフサ輸入量は2,056万klで、その中東比率は73.6%に達する。一方、経産省の整理では、国内消費全体の調達先内訳は中東が44.6%、国産が39.4%、その他輸入が16.0%となっている。

 つまり「輸入だけを見れば中東7割超」だが、「国内消費全体で見れば中東4割強」という二層構造だ。国内にも石油精製の副産物としてナフサが生じるため、全量が輸入依存というわけではない。とはいえ、国内製油所の精製能力が縮小傾向にある今、輸入ナフサへの依存度は構造的に高まりつづけている。

調達先 比率
中東(輸入) 44.6%(輸入ナフサのみで見ると 73.6%
国産(製油副産物等) 39.4%
その他輸入(韓国・東南アジア等) 16.0%
※経産省「ナフサについて」(2026年3月)およびJPCA統計をもとに筆者作成

今すぐ止まるのか?──「在庫約2~4カ月」と「価格転嫁」のリアル

 石油化学工業協会は2026年3月17日のコメントで、国内の石油化学製品在庫は全体で約2カ月分、とくにPEやPPなど主要製品では3.5~4カ月分があり、「直ちに供給困難となる状況ではない」としている。経産省も、川下在庫の活用と中東以外からの輸入拡大で安定供給を確保する方針を示している。

 ただし、「止まらないから安心」ではない。日本の化学産業はナフサ分解炉を基盤としており、経産省資料によれば日本のエチレン価格は足元で約800ドル/トン、米国は約400ドル/トンと、もともと倍のコスト差がある。しかも国内クラッカーの稼働率は過去最低水準まで落ち込んでいるとされる。

 中東危機が長引けば、ナフサ価格・海上運賃・保険料の上昇→樹脂・ゴム・塗料価格の転嫁→部品コスト増──という順番で自動車産業に波及する可能性が高い。「止まるリスク」より「高くなるリスク」のほうが、現実的には切迫している。

回避策は3段階で考える

短期(即時~1年)
在庫活用、国産ナフサの最大活用、韓国・東南アジアなど中東以外からの代替調達。経産省および各社がすでに動いている領域だ。

中期(3~5年)
再生プラスチック・バイオプラスチックの拡大、PPの分別回収強化、廃プラ・廃ゴムの原料化。環境省が示す「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン」がまさにこのフェーズのロードマップだ。カーボンニュートラル対応と中東リスク低減の両面から、自動車メーカーにとっても優先度が上がる領域だ。

長期(5年超)
化学産業そのものの原料転換。経産省のロードマップでは、廃プラ・廃ゴム(廃タイヤ含む)からエチレン・プロピレン等をつくる技術、バイオマス由来原料、CO2由来化学品、アルコール類からの化学品製造などが並行して検討されている。これらが実用化されれば、そもそも「ナフサがなくても樹脂が作れる」世界に近づくが、その実現はまだ先の話であり、当面はナフサ依存が続く。

日本政府と自工会の対応

 米・イスラエルによる攻撃とイランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖により、ナフサ供給不安の声が上がっている。なにしろナフサは医療用輸液チューブやカテーテル、インフラ用の塩ビ管や電線にも使われている。もし供給不足が起これば自動車産業だけでなく、日本経済そのものが止まる。

 2026年4月3日、赤沢亮正経済産業大臣は記者から「石油やナフサの供給不安が長引くのではないか? 国民に節約を求めるよう呼びかけることになるか?」という質問を受け、以下のように回答している。

「まず、足元では、民間事業者の皆様と連携した、米国や中東の代替ルート、中央アジア、中南米といった国々からの代替調達や備蓄石油の放出を通じて「日本全体として必要となる量」を確保する取組を進めており、現状では、我が国の石油需給に影響が生じているとは認識しておりません。他方、足元では一部で供給の偏りや流通の目詰まりが生じていると承知しております。経済産業省として情報提供窓口を設けて、重要物資の需給や価格などについて足元の状況を把握し、他の流通経路からの融通支援を行っているところです。先ほど申し上げたとおりです。国民の皆様の命と暮らしを守るべく、需要家の皆様から提供いただいた情報も踏まえ、関係省庁と連携してきめ細やかに対応していきます。その上で、今後の、御指摘の国際的な需給や価格動向も踏まえつつ、国民経済に大きな影響がない形で、需要サイドでの対策を含め、あらゆる政策オプションを検討したいと考えております。」

 続く4月7日、高市早苗総理はナフサの供給について記者から質問され、「国内需要の4カ月分は確保できている」と回答。流通不安による原材料のさらなる偏りを警戒し、火消しに動いている。

 政府は現在、国内および世界中から必死にナフサを搔き集めており、現時点ではまだ供給不足には陥っていないが、将来的にはなにか手を打つ、そのために在庫確保と並行して鋭意情報収集をしている、という状況のようだ。

 また、2026年3月19日、自工会の会見で佐藤恒治会長(トヨタ)は、中東からの原材料輸入、特にアルミとナフサの輸入(の停滞)に関して触れ、「影響が長引けば、当然材料調達上の課題が増えていく」、「複数ルートでの調達の振り替えも含めて鋭意努力している。どれぐらいこの状態が長引くかによって対応が変わっていく」、「現在は個社それぞれで対応しているが、こういった供給不安対応も含めて、自工会で、オールジャパンでサプライチェーンを補い合うかたちにできるよう、強靭化に努めたい」と語っている。

 自動車産業は日本経済にとっての「エンジン」。自工会にはぜひともサプライチェーンの強靭化(中東を含む一本足打法・局所依存からの脱却)を推し進めてほしい。

次ページは : まとめ──「見えない原料リスク」を知っておく意味

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