■トヨタへの信頼感が、レクサスには引き継がれていない
トヨタ店のあるセールスマンは「新型クラウンが発売されると、今でもグレード選びまで、すべてをセールスマンに任せて購入されるお客様が多い」と言う。
これは適当に買っているのではない。クラウンという商品からトヨタ店のセールスマンまで、顧客がすべてに万全の信頼を寄せているからこそ、このような買い方ができる。これ以上に確立されたブランドがほかにあるだろうか。
それなのにトヨタは国内でレクサスを開業して、当初は「グローバルな高級ブランドを日本に導入する」といったことを述べていた。
日本のユーザーから見ればトヨタが最高のブランドで、レクサスはそれに従属する立場なのに、肝心のトヨタがそれを理解できていなかった。
■上下ではなく歩んできた道のりが違う
2005年になってレクサスを日本へ導入した背景には、メルセデスベンツ/BMW/アウディといったプレミアムブランドの台頭もあった。
メルセデスベンツやBMWの拡大する顧客を奪いたかったワケだが、これも甚だしい見当違いだ。
メルセデスベンツやBMWを所有する多くの人達は、トヨタ車を経て上級移行している。いわばスゴロクでアガリになったから、今さらトヨタの上級ブランドとなるレクサスには戻らない。
伝統も違う。例えばメルセデスベンツは、長年にわたって走行安定性、乗り心地、耐久性(ショックアブソーバーなどは定期的に交換するとして)の優れたクルマを造り続けてきた。
いっぽうトヨタは日本のユーザーに愛されるクルマを造り、クラウンは日本の高級感や快適性を追求している。
クルマの良し悪しとか上下関係ではなく、トヨタ(日本)とドイツのプレミアムブランドでは、歩んできた道が違うのだ。
それなのにトヨタは「ベンツもどき」をこしらえて勝負を挑んだ。少なくとも日本のユーザーにはこのように映った。「どうしてセルシオを廃止してレクサスLSにするの?」という疑問が沸いたのも当然だろう。
しかもセルシオはトヨタ店とトヨペット店が販売したから、全国の合計約2000店舗で購入できたが、レクサスは現時点でも約170店舗だから、販売網は10%以下に縮小した。
レクサス店が1県に1店舗しかない地域もあり、そこに住むユーザーは、セルシオやアリストの時代に比べて不便を強いられている。
「全国のどこでも公平に購入できて、優れたサービスを受けられること」がトヨタにとって最大の強みなのに、レクサスはそれを放棄した。地域によっては顧客満足度を失墜させている。
■大部屋で一緒に働くことを好む日本人
トヨタの「公平」は、日本に住むユーザーの心情であり、日本の良さでもあるだろう。日本人は、大企業の経営者でもチヤホヤされるのを好まず、大部屋のようなオフィスで仕事をする人が多い。トヨペット店がコロナからセルシオまで共存することを含めて、日本の心情に合っていた。
日本車にヒエラルキーがあるとすれば、ボディサイズとエンジンの排気量に基づく。
いっぽうレクサスは「大きなシボレーよりも小さなキャデラック、大きなトヨタ車よりも小さなレクサスの方がエライ」という階級社会的な価値観に基づく。
これがエアラインであれば、ビジネス/ファーストクラスの乗客は出発を待つラウンジから異なり、同じ旅客機に搭乗しながら、互いに顔を一切合わせない。大部屋オフィスとはまったく逆だ。
レクサスも前述のように店舗数が限られ、しかも都市部中心に展開される。点検の時に過ごす「レクサスラウンジ」は、新車かレクサスCPO(認定中古車)で購入したユーザーだけが使えて、一般の中古車店で買ったユーザーは入室を断わられてしまう。
メルセデスベンツやBMWも、このような差別的な待遇はしていない。少なくとも日本の市場においては、レクサスは背伸びというか無理をしている。
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