■現場のスタッフは電動化についていけるのか
日産・リーフが販売されたのが2010年、この時から多くのトヨタ販売店ではBEVを扱いたいと思っていた。他社に先を越され、BEVへの対応が遅いメーカーサイドに対し、ヤキモキしていたトヨタ販売店も多い。トヨタ販売店のBEVに対するコンプレックスは、想像よりも大きいのだ。
こうした背景もあり、今回の大規模なBEV発表会には好意的な印象を持つ販売店スタッフが多かった。やっとトヨタでも電気自動車を売ることができる、この事実だけで販売現場には安堵する様子が窺い知れる。
トヨタよりも一足先にBEVのUX300eを販売しているレクサスでは、今のところ大きな混乱は無いという。サービス・営業共に、一定量の研修を受け、これまでとは異なる対応の仕方をシミュレートしたと聞くが、整備の仕方や売り方に関しては、ガソリン車と比較しても大きな違いは感じていないという。
ただし、レクサスのオーナー数とトヨタのオーナー数では大きな差がある。トヨタは、一人の整備士・営業マンが対応しなければならない客数が莫大に多い。
レクサスでは、ゆっくりと立ち上がり、様子を見ながら様々な試行ができるが、トヨタの規模で一気にBEVが広がったら、ゆっくり考えながらの対応も難しくなるのではないかと、トヨタ・レクサス双方で仕事をしてきた筆者は思う。
現場スタッフのレベルは高く、「電動化へついていけない」ということはない。気張った特別な対応は必要ないかもしれないが、それでも販売店では今のうちから、様々なトラブルシューティングを行っておく必要があるだろう。
■案外冷静だが、「音」を危惧する声が多い
BEVの販売に際して、販売現場が行うことは、ユーザーへの説明に終始すると思う。おおまかに言えば、ガソリン車と電気自動車では何が違うのかを明確に説明し、納得して使ってもらう必要があるのだ。
たとえば給油と充電の違い、燃費と電費の違いに始まり、乗り味、操作性、使い勝手など項目は多岐にわたる。一つ一つをクリアにし、誰が説明しても同じ意味が通るようにしておかなければ、現場は大混乱するだろう。
また、冷静に受け止める販売スタッフが多い中で、顧客からのクレームを心配する声も多かった。ハイブリッドを早くから販売してきたトヨタだからこそ気づく部分なのだろう。ポイントは「音」だ。
ガソリン車からハイブリッド車へ乗り換えたオーナーから出る要望(文句に近い)は、音に関するものがほとんどだ。ガソリンエンジンが駆動しない分、ロードノイズやきしみ音、内装のガタツキ音などをかき消す存在がなくなり、それらが目立つ。HEVの音に関係する意見は年々増え続けているのだ。
エンジン音という概念がなくなるBEVでは、音に対する問題をどうクリアするのか心配だと話す営業マンが相当数いた。
異音・きしみ音に対する整備は、原因を特定するまで時間がかかり、仕事の効率も悪い。音に対する意見の増加は、販売店の営業効率を著しく落とす可能性が高いのだ。
大きな自動車の変革期にあたる今、BEV導入をきっかけに、メーカーと販売店の関係性も再構築して欲しい。販売店だけに、BEV導入で起きた問題点を押し付けすぎては、先進技術で、さらに販売店の負担が増えることになる。BEVで新たなステージに上がる自動車関連産業では、作り手・売り手・使い手が常に手を取り合って、豊かなクルマ文化やクルマ社会を作る必要があるだろう。
トヨタのBEV導入が、新たな技術はもちろんだが、新たな文化の構築にも一役買ってほしいものだ。まずはbZ4Xの発売が迫ってくる。ここから始まる、トヨタのBEVストーリーに期待したい。
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