なぜいまスズキは絶好調なのか 快進撃スズキの勝因と懸念

■他メーカーが高価格車に力を入れるなか

 スズキの元気がいいと感じる3つ目の理由は、いろいろな部分で日本人の共感を得やすいことだ。象徴的なのはスイフトスポーツ、アルトワークス、ジムニーといった小さくて楽しいクルマだろう。「スズキは俺たちの気持ちが分かっている」と嬉しくさせる。

 逆にほかのメーカーは、トヨタであれば高価格車しか売らないレクサスにも力を入れ、「クルマ好きを増やしたい」と発売された86の価格が300万円前後に達する。

2015年12月に追加設定されたアルトワークス

 ホンダは日本のクルマ好きが愛したシビックやCR-Vをアッサリと廃止した。「日本のユーザーは軽自動車に乗れってことだな」と諦めた矢先に、ご都合主義で復活させている。かつてシビックやCR-Vを愛用した読者諸兄の中には、こうした日本市場に対する冷遇に対して、不愉快に感じた方も少なくないだろう。

 マツダはクルマ好きの味方みたいな感じもするが、外観は全部同じに見える。

 初代ロードスターの頃は「みんなで理屈抜きに楽しもう!」といった雰囲気を感じたが今は違う。「マツダ車はこうあるべき」風の硬直感がハナに付き、ドライバーに対しても「マツダ車はこうやって運転すべき」と説教する面がある。クルマ好きにとっては、それはそれで面白かったりするが、メーカーの顧客に対する接し方として疑問の余地がある。

 日産は新型車をまったく出さず、マトモに買いたい気分にさせるのは、ノート/セレナ/エクストレイル程度だ。デイズとデイズルークスは堅調には売れているが、スズキやダイハツのライバル車に比べて商品力が低い。

 ほかのメーカーが以上のような具合だから、反感を買って当然だろう。特に中高年齢層のユーザーには、「日本車は俺たちが育てた」という自負がある。今の日本車の状況は、その気持ちに冷や水を浴びせる。

■海外シフトが続く国内メーカーにあって

 過去を振り返ると、今のように日本車メーカーが世界生産台数の80%以上を海外で売るようになったのは、この20年ほどの話だ。

 1980年代の前半までは、北米が伸びたとはいえ、国内比率が高かった。高級セダンも国内を相手に開発されていた。それが1990年頃になると、海外の生産拠点も増えて、半数近くを海外で売るようになった。1990年代以降は、国内と海外の販売比率が次第に逆転していく。

 ちょうどタイミングよく(あるいは悪く)、1989年に消費税が導入されて3ナンバー車の不利が撤廃され、海外向けのセダンが国内にも流用されるようになった。ここで国内の売れ行きがガクンと下がり、1990年代の中盤からはミニバンの新型車が続々と投入され、1998年には軽自動車が今の規格に刷新されて売れ行きを伸ばす。2000年以降の約20年間は、大した変化がない。

 スズキはこの呆れた日本車の変遷を横目で見ながら、淡々と商品を開発して、販売してきた。大したことはやっていないが、他メーカーがみっともないから、スズキが日本を大切にする企業に思えてしまうのだ。

■スズキの「売れないクルマ」の事情

 もちろんスズキも海外を見ているが、インドや欧州が中心だから、クルマ造りが日本からあまり離れない。ほかのメーカーは、海外市場へ力を入れたことで、日本があからさまに軽んじられたが、スズキは海外の市場性もあってそうならなかった。

 それでも日本で売りにくい商品はあり、バレーノ、SX4Sクロス、エスクードなどは販売が低迷する。SX4 S-CROSSには緊急自動ブレーキが付かず、バレーノやエスクードも歩行者を検知できない。またバレーノとSX4 S-CROSSには、アイドリングストップも付かない。

2013年からハンガリー工場で生産されているSX4 S-CROSS。日本発売は2015年2月から。2017年6月にビッグマイチェンを実施し、現在のフロントマスクに。2018年8月の月販台数は85台

 この3車種はいずれも輸入車で、バレーノはインド製、SX4 S-CROSSとエスクードはハンガリー製だ。

 日本で売りにくいのは当然だが、バレーノを2016年に輸入開始した背景には「小型/普通車を日本国内で10万台売りたい」というスズキの願いがあった。今後は軽自動車の規格が変わる可能性もあり、偏った売れ方を是正する必要も生じたからだ。

 2014年における小型/普通車の登録台数は7万8290台、2015年は7万6667台だったが、2016年にはバレーノのほかにイグニスも発売されて10万2129台に増えた。2017年にはスイフトも一新されて10万9584台になり、安定して10万台を超えることができた。

 スズキは過去にも時々「売れるのかな?」と思えるクルマを発売している。

 エブリイをベースに開発した小型ミニバンのエブリイランディ(1999年)、全長が2735mmと極端に短い軽自動車のツイン(2003年)、先代エスクードの3ドア(2006年/エンジンは1.6Lで5速MTのみという海外向け)などがある。手堅い軽自動車で需要を確保するから、時々実験的な商品で冒険ができるのだろう。Kei(1998年)は成功作になり、鈴木修会長の提案もあって、現行ハスラーの商品化にも結び付いた。

次ページは : ■後継者問題、次世代技術問題

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

不死鳥のごとく蘇る! トヨタS-FR開発計画は再開していた! ドリキンこそレジェンドの土屋圭市さんがトヨタのネオクラシックを一気試乗! GWをより楽しく過ごす情報も満載なベストカー5月26日号、堂々発売中!