■他メーカーが高価格車に力を入れるなか
スズキの元気がいいと感じる3つ目の理由は、いろいろな部分で日本人の共感を得やすいことだ。象徴的なのはスイフトスポーツ、アルトワークス、ジムニーといった小さくて楽しいクルマだろう。「スズキは俺たちの気持ちが分かっている」と嬉しくさせる。
逆にほかのメーカーは、トヨタであれば高価格車しか売らないレクサスにも力を入れ、「クルマ好きを増やしたい」と発売された86の価格が300万円前後に達する。
ホンダは日本のクルマ好きが愛したシビックやCR-Vをアッサリと廃止した。「日本のユーザーは軽自動車に乗れってことだな」と諦めた矢先に、ご都合主義で復活させている。かつてシビックやCR-Vを愛用した読者諸兄の中には、こうした日本市場に対する冷遇に対して、不愉快に感じた方も少なくないだろう。
マツダはクルマ好きの味方みたいな感じもするが、外観は全部同じに見える。
初代ロードスターの頃は「みんなで理屈抜きに楽しもう!」といった雰囲気を感じたが今は違う。「マツダ車はこうあるべき」風の硬直感がハナに付き、ドライバーに対しても「マツダ車はこうやって運転すべき」と説教する面がある。クルマ好きにとっては、それはそれで面白かったりするが、メーカーの顧客に対する接し方として疑問の余地がある。
日産は新型車をまったく出さず、マトモに買いたい気分にさせるのは、ノート/セレナ/エクストレイル程度だ。デイズとデイズルークスは堅調には売れているが、スズキやダイハツのライバル車に比べて商品力が低い。
ほかのメーカーが以上のような具合だから、反感を買って当然だろう。特に中高年齢層のユーザーには、「日本車は俺たちが育てた」という自負がある。今の日本車の状況は、その気持ちに冷や水を浴びせる。
■海外シフトが続く国内メーカーにあって
過去を振り返ると、今のように日本車メーカーが世界生産台数の80%以上を海外で売るようになったのは、この20年ほどの話だ。
1980年代の前半までは、北米が伸びたとはいえ、国内比率が高かった。高級セダンも国内を相手に開発されていた。それが1990年頃になると、海外の生産拠点も増えて、半数近くを海外で売るようになった。1990年代以降は、国内と海外の販売比率が次第に逆転していく。
ちょうどタイミングよく(あるいは悪く)、1989年に消費税が導入されて3ナンバー車の不利が撤廃され、海外向けのセダンが国内にも流用されるようになった。ここで国内の売れ行きがガクンと下がり、1990年代の中盤からはミニバンの新型車が続々と投入され、1998年には軽自動車が今の規格に刷新されて売れ行きを伸ばす。2000年以降の約20年間は、大した変化がない。
スズキはこの呆れた日本車の変遷を横目で見ながら、淡々と商品を開発して、販売してきた。大したことはやっていないが、他メーカーがみっともないから、スズキが日本を大切にする企業に思えてしまうのだ。
■スズキの「売れないクルマ」の事情
もちろんスズキも海外を見ているが、インドや欧州が中心だから、クルマ造りが日本からあまり離れない。ほかのメーカーは、海外市場へ力を入れたことで、日本があからさまに軽んじられたが、スズキは海外の市場性もあってそうならなかった。
それでも日本で売りにくい商品はあり、バレーノ、SX4Sクロス、エスクードなどは販売が低迷する。SX4 S-CROSSには緊急自動ブレーキが付かず、バレーノやエスクードも歩行者を検知できない。またバレーノとSX4 S-CROSSには、アイドリングストップも付かない。
この3車種はいずれも輸入車で、バレーノはインド製、SX4 S-CROSSとエスクードはハンガリー製だ。
日本で売りにくいのは当然だが、バレーノを2016年に輸入開始した背景には「小型/普通車を日本国内で10万台売りたい」というスズキの願いがあった。今後は軽自動車の規格が変わる可能性もあり、偏った売れ方を是正する必要も生じたからだ。
2014年における小型/普通車の登録台数は7万8290台、2015年は7万6667台だったが、2016年にはバレーノのほかにイグニスも発売されて10万2129台に増えた。2017年にはスイフトも一新されて10万9584台になり、安定して10万台を超えることができた。
スズキは過去にも時々「売れるのかな?」と思えるクルマを発売している。
エブリイをベースに開発した小型ミニバンのエブリイランディ(1999年)、全長が2735mmと極端に短い軽自動車のツイン(2003年)、先代エスクードの3ドア(2006年/エンジンは1.6Lで5速MTのみという海外向け)などがある。手堅い軽自動車で需要を確保するから、時々実験的な商品で冒険ができるのだろう。Kei(1998年)は成功作になり、鈴木修会長の提案もあって、現行ハスラーの商品化にも結び付いた。
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