「自分にはわからない」と言える大切さ BEVもe-fuelも、セリカも豆大福も大いに語るトヨタ佐藤恒治新社長密着インタビュー

■「次世代BEV」のイメージはどんなもの?

 佐藤新社長の最大のミッションは「トヨタをモビリティカンパニーに変革させること」だという。そのためには「出遅れている」と言われがちなBEV(バッテリーEV)で、トヨタがどう主導権を取っていけるかにかかっている。特に新体制方針説明会で語られた「次世代BEV」には注目が集まるが、ではこの2026年に出るという次世代BEVは、いったい何が画期的なのか? 佐藤さんはこう説明してくれた。

「これからBEVで競争力を高めていくにはシャシーの考え方を変えなければなりません。エンジン車両でいうところのシャシー(車台)の影響はざっくり3分の1になります。(これはガソリン車やハイブリッドカーに比べると相対的に小さい影響で)逆に、ぐっと重要度を増すのが電子プラットフォームとソフトウェアです。特に電子プラットフォームは、将来そのモビリティがいかに拡張性に富んだものへ対応できるかがカギになります。今挙げた3つ(シャシー、電子プラットフォーム、ソフトウェア)を革新したものが、2026年に投入する次世代BEVとなります」

2023年4月7日に開催された、トヨタの新体制方針説明会にてチラ見せされた「2026年に投入予定の次世代BEVのコンセプト画像」。この中身について佐藤さんから語られた
2023年4月7日に開催された、トヨタの新体制方針説明会にてチラ見せされた「2026年に投入予定の次世代BEVのコンセプト画像」。この中身について佐藤さんから語られた

■3つを革新すると、いったいどんないいことがあるのか?

「現在のBEVの価値観は、航続距離の長さだったり、加速性能のよさ(速さ)だったりしますが、将来BEVの価値は”エネルギーをモバイルできること”へと変化すると思います。つまりBEVならば”電気を出し入れできる”ということです。今の化石燃料は入れたら最後、エネルギー変換しないとどこにも行けません。でもエネルギーを入れて出すことを考えた時のBEVは、今のBEVではなくなります。

 そうなると、いまBEVはバッテリーのキャパシティのみで性能が語られていますが、電流をどれだけ早く大量に入れ、どれだけ早く抜けるかという技術開発をやらなきゃいけなくなります。それが実現できれば、クルマがエネルギーグリッドになって、BEVの付加価値がさらに上がっていくでしょう。その場合、電流をいかに速く出し入れできるようになるかが、未来のBEVの競争力になっていくはずです。そういったことを見すえて次世代BEVは開発しています。

 もう一点、そうなると、エネルギーを出す先で、何とどう繋げるか、という話になります。その繋ぎをどう制御するか。そこで電子プラットフォームをアリーン(arene)というOSを使ってオープンプラットフォームにすることで、サードパーティが作ったものも含めていろいろなものと繋げられるようになります。現在の電子プラットフォームは先進安全装備や車両制御、マルチメディアが複雑にからみあっており、オープンプラットフォームにはできないので、そこを進化させる必要がある、と」

次世代BEVはアリーン(arene)OSによってさまざまなものとつながることができるようになる
次世代BEVはアリーン(arene)OSによってさまざまなものとつながることができるようになる

■チーフエンジニア経験が社長業に与えるメリットとデメリット

 佐藤さんはカムリやレクサスGSの製品企画担当を務め、レクサスLCのチーフエンジニアを務めている。その経験は社長業にどう生かされるのか?

「(技術者出身社長であることの)有利な点は、たとえばBEVの在り方を自分で判断できる点だと思います。事業戦略を”商品”でやっていくんだという意味で、クルマづくりができる人間がリーダー役をやっているほうが、話が早いでしょう。これが良さだと思います。

 その一方で、クルマが好きすぎるゆえに、”クルマ屋でありたい”と思いすぎちゃうところもあるんだと思います。たとえばZ世代のクルマの使い方で、停まったまんまで動画を見るとかは、自分の価値観では考えられません。ただ、それもクルマの新しい使い方なんですよね。

(BEV時代になって、バッテリーを通してクルマが)いろんなものと繋がる、ということで言えば、先ほどかっこよく言いましたけど、(今あるソリューションで言えば)そもそも”繋がりたいもの”が自分にはそんなにありません。

“(運転しているときや目的地へ着いたときに愛車に)そんなに繋げたいものってないんだよな…”だとか、”男は黙ってクルマを走らせる…”という価値観も、正直いってあります。そこは冷静に、”自分にはわからない”っていう想いを持ってないとダメなんだと思います。

 だから若い子たち、ウーブンの子たちをとにかくエンカレッジして、彼らにいきいき働いてもらうことをやらないと、トヨタの未来は危ないなと思っています。

週末はレースにラリーにと飛び回る。現地現物にこだわる姿勢はGRカンパニープレジデント時代から変わらない
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 中嶋(裕樹/商品担当副社長)もそうですけど、まあまあペトロヘッド(「ガソリン頭」≒尋常じゃないクルマ好きのこと)なんですよね。豊田章男会長もスーパーペトロヘッドでしょう。この時代に、トヨタのトップなのに”僕はね、ガソリン臭くて、音がうるさいクルマが好きで…”と言ってしまう。あれ、モリゾウさんじゃなかったら世の中からバッシングが来ていると思いますよ。でもそれが本当に”カーガイ”モリゾウのリアルな姿だから。それで愛されている。本音を出すから。

 僕は遠慮していますけれども、分類すればペトロヘッドです。クルマづくりに関わっている首脳陣がみんなそんな感じになっちゃうと、冷静に、事業の面で、本当に見失わないで判断をできるか? という観点はあります」

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