クルマの合成燃料(e-Fuel)推進は「BEV化のハシゴ」を外したのか?【日本のクルマ界は生き残れるか? 第1回】

■近年の合成燃料はe-fuel

 しかし、最近になってふたたびFT合成が注目されるようになったのは「カーボン・ニュートラル」へのシナリオが描けるようになったからだ。ただし鍵を握るのは「水素」であるという点は忘れてはいけない。ここでは環境に優しい合成燃料「e-fuel」について説明する。

合成燃料(e-fuel)の製造過程。ステップ1 の、工場などから出るCO2を集めて作るのがポイント。合成ガスを液体化し、燃料として再利用する。自動車だけでなく多くの用途が可能
合成燃料(e-fuel)の製造過程。ステップ1 の、工場などから出るCO2を集めて作るのがポイント。合成ガスを液体化し、燃料として再利用する。自動車だけでなく多くの用途が可能

 筆者は2014年に、アウディが取り組む「e-fuel」を現地で取材したことがある。視察した実験プラントはニーダーザクセン州にあるヴェルルテ(Werlte)という酪農の町。「e-fuel」生成のプロセスをもう少し述べると、まず再生可能なエネルギーから電気をつくり、電気分解で水素を生成する。その水素(この場合は「グリーン水素」と呼ぶ)を工場などで排出するCO2に合成し、メタンCH4を生成する。このようにCO2と水素を利活用できれば、エンジンは堂々と生き残ることができるのである。

 このプロセスで合成されるメタンガスをアウディ「A3 g-tron」で走らせると、電気自動車やPHEVよりもCO2排出量は少なくなる。CO2が再び燃料となるのだから理想的なエネルギーのエコシステムが構築できる。F1やル・マンレースでは「2026年にe-fuelを使う」と発表しており、自動車メーカーも注目している。

ル・マン24時間レースは、歴史的に「新しい挑戦」に寛容なカテゴリー(ロータリーエンジンが総合優勝を飾ったこともある)。2026年には水素で駆動するマシンもトップカテゴリーに参戦可能となる
ル・マン24時間レースは、歴史的に「新しい挑戦」に寛容なカテゴリー(ロータリーエンジンが総合優勝を飾ったこともある)。2026年には水素で駆動するマシンもトップカテゴリーに参戦可能となる

 現在はポルシェがこの技術を受け継ぎ、南米チリで合成燃料の開発生産に乗り出した。この地域では再生可能なエネルギーの切り札である風力で発電し、電気分解によって水素を作る。ドイツのシーメンス、アメリカのモービル・エクソンと連携し、水素を利活用するe-fuelの製造事業が始まっている。

■バイオマス燃料が普及するブラジル

 2010年5月、カーニバルで知られるリオ・デジャネイロで、タイヤメーカーのミシュランの環境イベント「ミシュラン・チャレンジ・ビバンダム」が開催された。その取材のために日本から地球の裏側の地に向かった。ここブラジルでは自国のサトウキビを原料としたバイオエタノールにガソリンを混ぜたものが普及していた。

 1970年代の石油ショックで大打撃を被ったブラジルは、自国の農産物で作るバイオマスを代替燃料とする国家のエネルギー政策を推進し、それがバイオエタノール車の普及につながっている。ガソリンで走る乗用車のほとんどは「FLEX FUEL」と呼ばれ、エタノールが利用できる。

 市内のガソリンスタンドではガソリン燃料にエタノールを85%混ぜるE85、あるいは100%エタノール(E100)も市販されていた。ブラジル仕様のホンダ「シビック」を試乗したが、ガソリン給油口にはE100と書かれており、100%バイオエタノールの代替燃料を使う。しかし、低温時の始動用に0.7Lのガソリンタンクを装備していた。ホンダのブラジル仕様のシビックはCO2とNOxの排出量が少なく、環境に優しい。

世界中で開発が続くe-Fuel。燃料側の開発を進めることで、クルマ側(内燃機関)の改造範囲が少なく済むところがポイント。古い愛車、乗り続けられるかもしれません。現時点で精製コストはガソリンの2~3倍程度と言われている
世界中で開発が続くe-Fuel。燃料側の開発を進めることで、クルマ側(内燃機関)の改造範囲が少なく済むところがポイント。古い愛車、乗り続けられるかもしれません。現時点で精製コストはガソリンの2~3倍程度と言われている

 2008年ごろにドイツではフォルクスワーゲンとダイムラー・ベンツが次世代バイオマスの有効な利用法を研究し、その成果を発表するワークショップを取材したことがあった。そこではBTL(Biomass to Liquids)という合成燃料をドイツ・フライブルク市にあるコーレン社(CHOREN)で開発し、廃材や食べられない植物などから人工的に液体燃料(商品名SUNディーゼル)を作ることに成功していた。このバイオマス・ディーゼル燃料は2008年のル・マン24時間レースに参戦したアウディのレースカーに使われていた。

次ページは : ■代替燃料は国のエネルギー安全保障と関係

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