■「開発スケジュールは失敗を前提に入れる必要がある」
国交省からの通達、ダイハツの発表を受けて、トヨタ自動車の佐藤恒治社長が都内で記者の取材を受けた。取材冒頭、佐藤社長は深く頭を下げ、
「ダイハツブランドを信頼し、日々ダイハツ車をご愛顧いただいているお客様に対して、多大なご迷惑をおかけしていることに、改めて心からお詫びを申し上げたいと思います。誠に申し訳ございません。
軽自動車は日常の生活を守る足であり、大切な命をつなぐクルマです。国民の生活になくてはならない大切な存在だと思っています。そういった大切なクルマに乗るお客様に対して、不安な状態にしてしまっていること。これは本当に心から反省すべきことであり、一刻も早くお客様のご不安を解消し、再び信頼を取り戻せるよう、全力で取り組んでまいりたいと思っております。」
と語った。
以下、記者からの質問と佐藤社長の回答。
記者/今回の不正問題の原因はどのようなところにあると思いますか?
トヨタ佐藤恒治社長/まずは調査委員会の報告にあったように、「現地現物主義」が徹底されていなかったところがあると思います。ダイハツの社員の皆さんの中にも非常に優秀で誠実な方がたくさんいらっしゃいます。そうした方々が不正せざるをえない環境を作ってしまった。経営の責任でもあり、そういう環境の背景に向き合って、会社全体が当事者として、社員ひとりひとりが「なぜ不正問題が起こってしまったか」を考え、再発防止に取り組む必要があると考えています。
記者/「経営の問題」と仰いましたが、ダイハツはトヨタの子会社です。親会社として、ダイハツに負荷をかけすぎた、ということはありませんか。
佐藤社長/トヨタの100%子会社として、(ダイハツの)クルマ作りの現場への関与が足りなかったのだと思います。トヨタグループのなかで、ダイハツは軽自動車を始めとした小さいクルマづくりが得意で、トヨタにもそういうダイハツへのリスペクトがありました。ダイハツから学ぼう、という声もありましたし、ダイハツが「ダイハツらしさ」を発揮することが、グループ全体のクルマづくりを活性化させる、わたしたちはこれを「トヨタの遠心力」と言っていましたが、そういう考え方が強かった。それが「ダイハツのクルマづくりの現場にいちいち口出ししない」という雰囲気を生み出し、こうした問題を生み出す原因のひとつになったのではないかとも思います。
記者/これからはトヨタの人間がもっとダイハツの現場に入って、トヨタらしいクルマ作りをやっていく、ということでしょうか。
佐藤社長/すでに40人ほどダイハツの現場に入って、今回の不正問題の原因究明と対策に取り組んでおります。そういうことです。
記者/「1カ月以内に再発防止策を作成して提出」とありますが、どのような内容になるか、現時点で話せることはありますか。
佐藤社長/まずは第一に事業スキームの見直しをする必要があります。我々がまず守るべき、大切な価値観はなんなのか。正しいクルマ作りができる環境のためにできる事業領域をしっかり定めること。経営体制も見直す必要があると考えておりますので、その体制作りについても我々の責任でやる必要があると思います。
記者/「事業領域の見直し」とは具体的にどのようなことですか。
佐藤社長/近年ダイハツは国民車である軽自動車だけでなく、すこし大きいクルマ(小型登録車)の開発や製造も担当しておりますが、これがダイハツにとって負担になっているのであれば、そこを見直す、ということです。
記者/「経営体制の見直し」とは役員の入れ替えも含む、ということですか。
佐藤社長/当然、含みます。
記者/佐藤社長ご自身もエンジニア出身です。今回ダイハツのエンジニアが不正に手を染めてしまったことについて、ダイハツの現場でどのようなことが起こっていたとお考えになりますか。
佐藤社長/はい、今回の調査委員会からの報告では、2011年頃からの開発スピードの上昇とコスト削減が原因のひとつだったとありました。本来、開発速度の上昇とコスト削減は、魅力ある商品をお届けするための手法論でしかないわけですけれども、いつしか「それ」が「目的化」していってしまったのだと思います。
安価でよい商品をすばやく作る、というのは、特に軽自動車のような小さいクルマでは、いわゆる高度な技術を使ってコストをかければ出来る、というよりは、開発グループの根っこにある部分にしっかりと向き合って、基盤を積み上げていくことで、良品の連鎖を起こして少しずつ進める、という手法が必要になります。これは思っている以上に時間のかかることです。
そうしたなかで、難易度が高いプロジェクトに対して成功体験があって、それが「型」になってしまって、仕事の原単位を見直すということがされずに、ある一定の成功体験のもとに挑戦が繰り返されてしまい、現場が疲弊していったのではないか…、と、自分の経験をもとに考えております。
記者/同じくエンジニアとして、どうすれば「そういうことが起こらない現場」に出来るとお考えですか。
佐藤社長/たとえば開発スケジュールにしても、すべてが順調に進むことを前提にして組まれることがあります。しかし工業製品の開発ですから、失敗を前提にする必要があります。実際に誰かがどこかで失敗したときに、ためらいなくアンドンを引ける(緊急停止スイッチを押せる)現場にしなければならない。これは「仕組み」とか「ルール作り」という話ではなく、マネジメントが現場に入って一緒に汗をかいて、一緒に作る、その場でサポートする必要があると思います。それを、トヨタがしっかり入ってやってゆくつもりです。
記者/今回の認証取消車種にはトヨタのタウンエースも入っています。いまタウンエースにお乗りの方は、このまま乗り続けても大丈夫なのでしょうか。
佐藤社長/「認証」は、国が我々自動車メーカーを信頼して与えてくれた資格ですから、その取消というのは非常に重い措置だと受け止めております。真摯に反省して二度とこのようなことが起きないよう再発防止策に取り組み、信頼回復に努めてまいります。そのうえで、認証取消はこれから作るクルマに対しての措置でありまして、いまお客様がお乗りのクルマに対しては、これは我々トヨタも入って検査して問題ないと確認しておりますから、どうか安心して乗り続けていただければと思っております。
(会見内容ここまで)
★ ★ ★
今後、国交省は不正が発覚した46車種156件に対して、基準適合性の確認試験を実施してゆく。現時点でダイハツはすべての国内工場ですべての車種の生産を止めているが、(それぞれの車種についてダイハツとトヨタは自身で再検査を実施して、リコール勧告を受けたキャスト/ピクシスジョイを除き「ただちに使用を中止していただく必要はない」としているうえで)国交省の確認試験を終えるまで、生産と販売を再開する予定はない、としている(確認試験を終えた車種から順に一車種ずつ再開するのか、すべての試験が終わるまで再開しないのかは未定で、国交省との話し合い中だとのこと)。
ダイハツは生まれ変われるのか。トヨタはきちんと「効く」テコ入れができるのか。本企画担当編集者であるわたくしとしては、今回の会見での質問中に「エンジニアとしてどう思うか」という質問に「エンジニアとして」ど真ん中の回答をしてくれた佐藤社長の手腕と経験を信じたい。
「この度の是正命令でいただいたご指摘を真摯に受け止め、認証業務の見直しに留まらず、法令遵守を大前提に、経営、職場風土や文化、適切なモノづくり&コトづくりという3つの観点から改革に取り組み、トヨタの全面的な支援を受けながら、再生に取り組んでまいります。」(ダイハツのプレスリリースより)
ダイハツのやったことは許されない。真摯に反省し、そのうえで、ダイハツの再生を祈っております。また楽しくて安心できるクルマを作ってください。
【画像ギャラリー】ダイハツ不正問題で佐藤社長会見と認証取消の3車種の画像(8枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方