■他社との提携が「ホンダらしさ」を失うとは限らない理由
だが、他社と提携することとホンダらしさが失われるということはイコールではない。
自動車工学が未発達で、いろいろな技術的可能性を各メーカーが試していた時代は、ホンダの独創的な機構設計が個性を放っていた。
しかし、その状況は様変わりして、エンジンや変速機、車体やサスペンションを独特なものにする意味はきわめて薄くなっている。どうすればいいクルマになるかという基本設計の方向性は、大方決まってしまっているからだ。
これからの時代の独自性は、むしろソフト面の思想のほうが重要になる。クルマは広くさえあればいいのか、それとも走りを追求したほうがいいのか、そもそも人間にとってどういうクルマが楽しく、快適な移動手段になるものなのか。
そういう考え方によってクルマの違いが出てくるような時代なのである。
今のホンダのラインナップを見るかぎり、大半のモデルはファミリー層向けの「便利な道具」という観点を重視して開発されており、そういうクルマを独自の構造で開発する意味はほとんどないとも言い切れる。
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一方で、発売間近の小型EV「Honda e」は、きわめて魅力的なデザインで、モーターショーで試作車が公開された欧州では今までにないEVとして大いに話題をさらっている。
EVは技術パッケージがほとんど決まっており、ホンダ独自の機構設計が生かされているのはごく一部。にもかかわらず、Honda eは“ホンダらしい”と評されているのだ。
このように、巨大連合の時代においてホンダが引き続き”独身”主義を貫けるかどうかは、人気の軽自動車「N-BOX」で首位の座を守れるのかどうかという単純なレベルの話ではない。
ユーザーをワクワクドキドキさせるアイデア溢れるオリジナリティを持てるかどうかで決まることは言うまでもない。
折しも、7月上旬、先のF1オーストリアグランプリで、レッドブルホンダが悲願の初優勝を果たすなど、ホンダの8代目社長に就任後5年目に入った八郷隆弘社長の顔にようやく笑みがこぼれた。
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これからもホンダが自主独立路線を駆け抜けるのに何よりも必要とされることは、再び”らしさ”を取り戻して自由で楽しい移動の喜びを追求するという、いわゆるホンダスピリットをどれだけ発揮できるかどうかがカギを握る。
水面下では先輩たちが築き上げた有形無形の財産を新興勢力の外資系メーカーなどが虎視眈々と狙っている動きも囁かれているが、モビリティ時代を迎える中でホンダが「日の丸連合」を軸に新たな業界再編の台風の目になる可能性も大いにあるだろう。
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